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文化祭とクリアリーブル事件。
文化祭とクリアリーブル事件⑥③
しおりを挟む約一時間前 路上
一方悠斗は、真宮に捕まったまま素直に彼らの行動に従っていた。
「おい、コイツをちゃんと捕まえておけ」
「うっす」
近くにいる男に向かってそう言い渡し、悠斗を手放して預けさせる。 真宮とは違い遠慮なしに思い切り腕を掴んでくる強引さに、思わず顔を歪めた。
「そういや、結黄賊の人数ってあれだけっすか?」
「あぁ、多分な。 人数では俺らの方が大分多いから、心配することはねぇだろ」
ここにいる中では真宮が一番上の人間なのか、他の男らは彼に対して敬意を払いながら言葉を発していく。
これからどこへ連れて行かれるのかも分からず、引っ張られるがままに足を前へ進めていくと、真宮が首に巻いているネックウォーマーをさり気なく外した。
―――ッ!
―――やっぱり・・・コイツは真宮じゃなかったのか。
ここ最近彼に不審な思いを抱いてはいたが、今顔をハッキリ見たことによりそう強く確信する悠斗。
背丈や声、目元もかなり真宮にそっくりだったため、今まではあまり詳しくは問い詰めることができずにいたのだ。
「結黄賊のリーダーは、やっぱり真ん中にいたあの背の高い男っすか?」
「いや、それは他にいる。 本当のリーダーはまだ入院していて、外には出られない状態さ」
「リーダーが今いないなら、結黄賊は本当にもう終わりっすね」
周囲にいる男らの質問に、今まで見てきた結黄賊の情報を何食わぬ顔で仲間に与え続ける偽真宮。
一体何を考えているのか全く分からない偽真宮を見て気に障った悠斗は、彼らに向かって第一声を上げた。
「おい、お前らは何が目的だ」
「あぁ? 結黄賊を潰すために決まってんだろ」
「・・・」
―――結黄賊を潰すため?
―――結黄賊は元々名は知られていなかったし、どうして潰したいって思ったんだ。
―――いや、そもそも・・・。
―――どうして結黄賊を潰すために、クリアリーブル事件という物騒な事件を起こしたんだ?
その問いを気持ち悪い程にニタニタしながら答える相手に対し、悠斗はそれを聞いてしばし黙り込んだ。
だが何も反応をしない悠斗を見て、男は素直な疑問を持ちかける。
「あ? 何だよ、抵抗はしてこねぇのか?」
「?」
「ふッ、アイツとは大違いだな」
―――アイツ?
―――・・・誰だ、アイツって。
彼は悠斗から『結黄賊は悪いチームじゃない』『どうして潰そうとするんだ』などの口答えされることを望んでいたのか、本当に不思議そうな面持ちをして尋ねてきた。
だが本当に反論してこない悠斗を見て、ある人物と比べながら急に笑い出す男。 そんな意味の分からない彼の表情を見て、悠斗の心は徐々に不安な気持ちに支配されていく。
「今からどこへ行くんすかー?」
「俺たちのアジトだよ。 ほら、誰も通らない道路の突き当りにあるさ」
「え、でも他の連中は違うアジトにいますよね?」
「あぁ。 でもついさっき連絡しておいた。 そのアジトへ移動するように。 結黄賊の奴らは今から行くそのアジトしか知らねぇんだ。 だから乗り込んでくるなら、そこだろうさ」
そう口にした後偽真宮はポケットに手を突っ込み、空を見上げながら独り言のようにある言葉を呟いた。
「そういや・・・未来が副リーダーじゃないなら、本当の副リーダーは誰だったんだろう」
―――ッ!
―――だから病室にいる時、あんな意味の分からない変なことを言っていたのか。
―――・・・くそ、どうしてもっと早くに気が付くことができなかったんだ!
そして数分後、ここにいる男らの目的地であるアジトへ辿り着いた。 ここは悠斗にとって見覚えのある場所だったため、思わず目を背けてしまう。
「お前も、ここのアジトに来たことがあるんだよなぁ?」
先日悠斗たちがアジトに乗り込んだ時に彼もいたのか、先刻と変わらずニヤニヤとした表情を浮かべながら男はそう尋ねてきた。
だがその問いには直接答えず、違う質問を悠斗は口にする。
「どうして・・・捕まえる時、俺を選んだんだ?」
「あ? あぁ、この前ここに来た時もお前、油断して最初っから攻撃を食らっていたろ。 だから攻めやすい男だと思ってな、お前を最初から狙っていた」
「なッ・・・!」
「まぁ人質にするためにここへ連れてきただけだ。 悪いようにはしねぇよ」
未来にあれ程言われた『特に悠斗は油断するな』という言葉を、改めて身に染みて感じ反論できなくなる悠斗。
自分のことをよく知らず親しくもない男に痛いところを突かれては、悔しさのあまり黙り込んでしまう。
そして複雑な気持ちを抱えたまま、アジトの中へと誘導され――――
「おい、ソイツをあの部屋ん中に入れて縛っておけ」
「了解っす」
アジトの入り口の通路にある、一つのドア。 どうやらその中に、悠斗を入れておけと命令したらしい。
本当は奥まで行ってクリアリーブルの状態を確認したかったのだが、その望みは叶わず強引に引っ張られ、部屋の中へと入っていく。
そしてその時――――悠斗の目に、あるモノが留まった。
「ッ・・・! 真宮!」
真宮は俯いていたがその声により気が付いたのか、顔を上げ悠斗の姿を確認した後驚いた表情を見せた。
「どうして・・・」
彼はその場に座り込んでいて、両手は後ろで縛られ身動きが取れない状態になっている。 それよりも悠斗が気になったのは、今の真宮の服装だ。
上はインナーを着ているだけで、下はズボンなど履いておらず下着状態。 かといって見苦しいわけではなく、上は丈が長いためワンピースを着ているような姿になっている。
そして少しやせ細っており、力なくその場に座り込んでいた。 他に彼の近くには、コンビニで買ったのであろう弁当箱とお茶が備わっている。
だがそれらを見る限り未開封なため、一度も手を付けていないのだろう。 だがそういう行為をするということは、一応相手は真宮のことを気遣っているということなのだろうか。
―――真宮は、アイツに服を奪われて・・・!
悠斗は真宮の近くまで連れて行かれ、彼と2メートル程の距離を空けた場所に突き放された。
そして同様に、近くにある棒に悠斗の腕も縛り上げられ身動きの取れない状態になってしまう。 真宮とは距離が空いているため、彼を助けに行くこともできない。
縛り付けた男は、何も言わずに部屋から出て行った。 そんな奴の後ろ姿をキツく睨んでいると、真宮がこちらへ目をやりながら小さな声で呟く。
「どうして・・・悠斗がこんなところにいるんだよ・・・」
「・・・真宮こそ、どうしてここにいるんだ」
その問いに悠斗も全く同じことを聞き返すと、彼は黙り込み何も言葉を発さなくなった。
―――真宮はここ最近、ずっとここで監禁されていたのか。
―――でも・・・どうして真宮は、ここのアジトを知っているんだ?
―――もしかして、みんなには動くなと言っていたのに、実は一人で動いていてこの場所を突き止めたのか。
―――いや・・・それはない。
―――真宮はずっと、ユイの病室へ見舞いに行っていたもんな。
自問自答を繰り返すが、真宮自身に聞かないと何も解決ができず考えることを諦めた悠斗。 その時、真宮がそっと口を開き自分を罪を告白した。
「・・・悠斗。 俺・・・俺のせいで、クリーブル事件は起きたんだ」
「え・・・?」
―――真宮が、クリーブル事件を起こした原因?
何を言っているのか分からず、詳しいことを尋ねてみたが真宮は首を横に振り小さく呟く。
「・・・悪い。 今は、言えない」
「・・・そっか」
―――流石に、クリーブルのアジトの中では言えないか。
現状を改めて把握し、高まる感情を何とか落ち着かせていく。 だがここで、一つの疑問が思い浮かんだ。
―――そういや、真宮がここで監禁されているということは・・・真宮は、結黄賊を裏切ったわけではないんだよな。
あまり事実を確かめたくはなかったが、その疑問を単刀直入でぶつけてみた。
「真宮は・・・俺たちを、裏切ってはいないよね?」
「・・・」
だが彼はその問いには答えず、ただ黙って俯くだけ。 その質問をしてから数分経っても答えてはくれないため、違う問いを投げかけた。
「真宮は、結黄賊とクリーブル・・・どっちの味方なんだ?」
そう尋ねると、真宮はゆっくりと顔を上げ悠斗のことを見た。 そして疲れた顔から苦笑する表情に変え、その答えを静かに口にする。
「・・・犯罪に手を染めた俺が、結黄賊の味方って言ったら怒るか?」
―――え?
―――犯罪に手を染めた・・・?
それでも何を言っているのか分からず、そのことについて詳しく聞き出そうとした、その瞬間――――突然ドアの向こうから、誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。
「夜月たち・・・来たのかな」
その声が夜月のものだと把握した悠斗は、安心した口調で思わずその言葉を口にする。
悠斗はクリアリーブルに捕まったとしても仲間が助けに来てくれると信じていたため、抵抗せずにここまで大人しく付いてこられたとも言えた。
真宮にも再会することができたし、結果オーライだ。
「どうして・・・どうして夜月たちはここへ来たんだ! 相手の人数には敵いっこないんだぞ!」
だが真宮はそれを聞いた途端悠斗の方へ向き、夜月と同様怒鳴り口調でそう言葉を発してきた。
だけど悠斗は『人数には敵いっこない』と言われても実際相手が何人いるのか分からないため、その発言をスルーし前の言葉に対しての答えを優しく返す。
「どうしてって・・・決まっているだろ。 真宮を助けに来たんだ」
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