心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑥①

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同時刻 沙楽総合病院前 駐車場


仲間をいち早く迎えたいため病院から抜け出し、外出許可を貰わないとこれ以上先は出られないというギリギリのところまで足を運んできた結人。
夜月との電話が一方的に途切れ、かといって再度かけ直すのも気が引けたためそわそわしながらその場をしのぐ。
―――みんな・・・頼む、無事に戻ってきてくれ。

胸騒ぎを覚えたまま、刻々と時間は過ぎていき――――そしてついに、目の前に結黄賊の仲間たちが現れた。
「ユイ!」
「ッ、お前ら!」
夜月の声により仲間が戻ってきたことを確認した結人は、身を乗り出しながら彼らが走って自分のもとへ来るのを待つ。
―――よかった・・・。 
―――みんな無傷っていうことは、無事だったんだな。
急な展開に一時はどうなるかと思ったが、みんなの容姿の様子を見る限り特に変化はなかったため安心し、胸を撫で下ろす。
「それじゃあ、早速点呼をとろう。 各学年のリーダー、点呼をとって俺に報告してくれ」
20人弱も今はいるためパッと見ただけでは全員揃っているのか確認ができなく、彼らにそう指示を出した。
「先輩、2年は全員います」
「3年も全員います」
「そうか、了解」
後輩らの無事を確認し終え、最後に残った結人と同い年の仲間の点呼を待つが――――彼らからは、誰も口を開く者がいない。 
「・・・どうした?」
結人と目を合わさない同い年の者に対し、心配そうな面持ちのままそう尋ねた。 そしてその中の代表として、夜月がそっと口を開く。

「優は、病院にいて今はいねぇ。 ・・・真宮も、どこかへ行っちまった。 それと・・・悠斗も」

「ッ、悠斗!?」

そう言われ慌てて仲間を見渡し確認するが、確かに言った通り悠斗の姿はここには見られない。
「悠斗がアイツに攫われたのか!?」
夜月はその問いに、申し訳なさそうに小さく頷いた。
―――マジ・・・かよ・・・。
結人はショックを受けると同時に思わず悠斗と幼馴染である未来の方へ目をやると、彼は悔しそうに俯きこの場を必死に堪えていた。
―――未来・・・。
衝撃的な事実を聞いて驚きのあまり固まっている中、仲間たちの声が一斉に飛び交ってくる。
「おいユイ。 真宮は俺たちを裏切ったのか?」
「そうだよ。 ユイは真宮のこと、何か知っていたのか?」
「でも将軍! あれって、本当に真宮先輩なんですか?」
「確かに最近の真宮はおかしいと思ってはいたけど・・・。 まさかな」
それらの声を全て聞き流し、彼らが言いたいことを言い終え静まったところで、結人は感情的にならないよう平然を装いながら仲間に向かって言葉を放つ。
「それは・・・俺でも、よく分かんねぇ。 でも、今日いたアイツは真宮じゃないことは確かだ。 それに本物の真宮の居場所も分かっていねぇ。
 だから俺たちを裏切ったのかどうかも、今は判断できない」
“リーダーでも分からないのか”と思いこれ以上探ることを諦めたのか、皆一様に黙り込んだ。 そしてそんな彼らを見渡しながら、続けて言葉を紡ぐ。
「とりあえず、他のみんなは無事でよかった。 これ以上被害が出ていたら、俺らは完全に負けだったからな。 だからみんなは無傷で帰ってきて・・・」
そこまで言い終えると、結人はある少年にふと目が留まった。 先刻まではなかったはずの傷が、今は頬にできていて手当てがしてあるということに気付き、そっと口にする。

「コウも・・・無事でよかった」

優しく微笑みながらそう口にする結人に、コウは思わず目をそらしてしまった。 そんな彼に再び微笑みを返し、改めて彼らに力強く命令を下す。
「よし。 今からお前らには、もう一度クリーブルのアジトへ向かってもらう。 場所は未来が知っている。 だからみんなは未来を先頭に付いていけ。
 もしかしたら、そこに真宮と悠斗もいるかもだからな」
だがその命令に、御子紫は疑問を持ち出した。
「でもさ、ユイ。 あの偽真宮はアジトの場所が変わったって言っていたんだぜ? だから未来が知っているアジトへ行っても、誰もいないだろ」
みんなが当たり前のようにそう思っている問いに、結人は自分の考えを彼らにぶつけていく。

「あぁ、分かっている。 でも俺たちは、未来の知っているアジトの場所しか知らないんだ。 そのことに関しては、あの偽真宮がクリーブルの連中に報告しているだろ。
 『結黄賊はあのアジトしか知らねぇから、きっとそこを襲撃してくる』って。 だから今頃、クリーブルの連中もそのアジトへ移動しているはずさ」

「あぁ・・・。そうか」
説得力のあるその説明に、素直に頷き納得する御子紫。 だが彼のその言葉を最後に、皆一様に黙り込んだ。
「・・・どうしたんだよ」
先刻までの勢いがなくなり弱気になっている仲間を見て、結人はみんなを見渡しながらそう尋ねる。
「いや・・・だってさ。 俺たちがそのアジトに襲撃するっていうことがもうバレてんなら、相手もそれなりの準備とかしているっていうことだろ・・・?
 俺たちは今、16人しかいないんだ。 だから相手がもし100人超えとかの人数を用意していたら、さ・・・」
おどおどとしながらそう答える椎野に、みんなは更に黙り込みやる気をなくしていく。 そんな彼らに、結人は淡々とした口調で当たり前のように答えていった。
「は? 何を言ってんだよ。 そんなの1人10人を相手にすりゃあいい。 それだけのことだろ。 ちなみにコウは20人だ」
「はぁ!? そんなの無茶に決まってんだろ!」
「やってもねぇのに無理とか決め付けんなよ!」
「ッ・・・」
その答えにすぐさま反応する椎野だが、結人が力強く放ったその言葉に思わず発言を詰まらせてしまった。 だが結人は、仲間の恐怖をちゃんと感じ取り分かっている。
結黄賊のみんなは喧嘩をする時、1人につき5人までが精一杯だ。 チーム内で喧嘩の練習をした時でもやはり5人までが限界で、彼らもそれ以上の人数とは戦った経験がない。
それなのに更に倍に追加されては、もう勝ち目がないのは目に見えている。 だが結人は、そのことを分かっていた上でそう口にしたのだ。

―――だって・・・流石にクリーブルでも、100人も用意すんのは無理に決まっている。
―――それに俺らと同じくらいの広さの基地じゃねぇと、そもそもそんな大人数入るわけがねぇ。
―――未来から聞いたアジトの広さだと、50人くらいを入れるのが精一杯だろう。

そのことを確信していた結人はわざと彼らにプレッシャーを与え、実際現場に行った時は“何だ、大したものじゃなかった”と思わせることが狙いだった。
だけどそんな結人の考えを知りもしないみんなは、ただただ不安が募っていくばかり。 そんな仲間をよそに、違うことを考え始める。
―――でも流石に相手が50人以上いたら、俺らの人数だけじゃキツいか。
―――だったら・・・あまりこういうことはしたくなかったけど、仕方ねぇよな。
そして意を決した結人は、彼らに向かって新たな命令を言い渡した。

「でも今の俺たちの人数じゃ、既に不利だとお前らも分かっているよな。 鉄パイプを使えるのが未来と椎野だけじゃ、あまり安心はできねぇ。
 だから、今から指名する二人には鉄パイプを使う役に回ってもらおうと思う」

「「「ッ・・・」」」

結人がそう命令を下すと、ここにいる彼らは皆同時に息を呑み黙り込む。 そういう反応をするということは、とっくに予測していた。
誰もが感じる責任の重さ、鉄パイプを握る恐怖。 それらの感情を抱いている彼らに、躊躇いもなく一人目を指名した。
「まず一人は、夜月」
「なッ・・・! おい待てよユイ! 俺はそんなことできねぇ!」
「今更そんなことを言っている場合かよ! 仲間が危ない目に遭ってんだぞ!」
夜月は指名されたことをすぐに否定するが、そんな彼の意見は何も聞かずに自分の命令を貫き通す結人。
それでも夜月は苦い過去の出来事を思い出しながら、苦しい表情をして小さく呟く。

「どうして・・・俺を・・・」

「・・・夜月」

「ッ、俺なんかにそんな役を押し付けんなよ! 他の奴にすればいいだろ! 俺がそんなもん使ったら・・・また、やらかしちまう・・・」

自分は鉄パイプを担当したくないと思いを、強くリーダーに訴える。 だが結人は、どうしても彼に鉄パイプを担当してほしかった。
結人は夜月の過去を知っておきながらも、あえて彼を選んだのだ。 だから夜月と同様、結人の意志もそんな簡単に変わるはずがない。
「夜月。 俺はお前なら大丈夫だと思っているから指名したんだ。 お前なら絶対に、使いこなすことができる」
「ッ・・・」
歯を食いしばって反抗することを抑えている彼に、更に優しく言葉を紡いでいった。
「それに、もう夜月はあんなことはしねぇ。 いや、するはずがねぇ。 昔と今とじゃ大きく変わったんだ。 だから大丈夫、自分を信じろ。
 ・・・まぁ、それでも自分を信じれねぇっつうんなら、自分じゃなくて俺を信じろ」
「・・・は?」

「俺は夜月のこと、勝手に大丈夫だと信じているからよ」

「ッ・・・!」

仲間を安心させるような優しい表情でその言葉を発した結人を見て、夜月は急に心が痛くなり思わず目をそらしてしまう。
確かに最初は、夜月に鉄パイプを任すことを躊躇っていた。 だが彼に任せた理由はちゃんとある。
それは――――夜月に、今でも引きずる過去を克服してほしかったから。 その理由のためだけに、彼を指名した。 この決断に後悔なんかしていない。
そして夜月はこれ以上抵抗してこなくなると、結人はそんな彼を期待するような目で見てから次に指名する人の名を口にした。

「それじゃあ次。 もう一人は、俊だ」

「え・・・。 俺ですか?」

結人が指名したのは、一つ年下の後輩である俊だ。 彼はコウの弟と言ってもいいように物静かで賢く、かつ後輩の中で一番喧嘩が強い。
それに実力があると見込んでいるため、迷いなく指名した。 突然名を呼ばれて驚いている俊に、結人は優しく言葉を紡ぎ出す。
「あぁ。 俊ならできるだろ? 喧嘩のやり方を習得するのが一番早かったから、鉄パイプでもすぐに使いこなせると思ってな。 期待しているぜ」
「・・・はい」
まさかの結人と同い年のメンバーではなく後輩である俊を指名したことにより、ここにいる仲間たちは自然と彼に注目する。
そんな気まずい空気の中、結黄賊のリーダーに逆らうことはできなく、彼は渋々小さく頷きその命令を承諾した。
俊からの了解を得たことを確認し、結人は再び仲間のことを見渡しながら命令を下す。
「よし。 じゃあ、鉄パイプの使い方は未来と椎野に教えてもらえ。 突然鉄パイプを渡されても戸惑うだけだと思うから、一度倉庫へ行って少し練習をしてからアジトへ向かえ。
 暗くなる前には行けよ。 夜月。 お前には倉庫の鍵を渡しておく。 いいか、夜月は今からこの中でのリーダーだ」
「は・・・。 リーダー?」
先刻急に鉄パイプ役として指名されたことを未だに引きずっているのか、暗い表情をしながらそう聞き返してくる夜月に対し、
結人は先程一度病室へ戻って取ってきた倉庫の鍵を彼に手渡しながら言葉を発する。
「あぁ。 俺が行けない代わりに夜月、今はお前がリーダーだ。 ここにいるみんなをしっかりまとめてくれ」
鍵を渡して仲間のことを再び見渡していると、ずっと俯いたままでいる一人の少年に気付き、結人は彼の肩に手を置いて少し揺さぶりながら力強い言葉をかける。
「未来! 気をしっかり持て! 二人を取り戻したい気持ちは分かるけど、それは後だ。 今は未来がすべきことをしろ!」
「・・・」
未来は何も言わず、なおも視線をそらし俯いたままでいる。 だが結人は、彼はこんな状態になっても大丈夫だということを知っていた。
その怒りを、クリアリーブルの連中にぶつけてくれればそれでいい。 そう思っていた。 そして最後に、結人は仲間に向かって最後の指示を出す。

「それじゃあ最後に、俺が考えた作戦を教えるぞ」


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