心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑤⑤

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数十分後 正彩公園


「あああぁぁ! 忘れてたあぁぁぁ!」

公園に着いて早々、何か思い出したのか突然叫び声を上げる未来。 先刻まで使っていた鉄パイプを元に戻すため、今この場所までやってきたのだ。
そして未来は鉄パイプを握り締めたまま、頭を抱えてオーバーなリアクションでその場に崩れ落ちる。 そんな彼を見て呆れたように、悠斗は気だるそうに問いかけてみた。
「何を忘れていたんだよ」
「・・・ユイをやった犯人は誰なのか、聞きそびれた・・・」
幼馴染である彼のその発言に、悠斗は先刻まで起きていた出来事を思い出す。

―――そう言えば・・・最後、リーダーらしき人を気絶させちゃったもんな、未来。

結黄賊のルールに“喧嘩相手を気絶させてはならない”というものはないのだが、相手を気絶させないということは一応暗黙のルールではあった。
だけど実際そうしてしまったことに関しては、悠斗は何も感情を抱いていない。 寧ろ、今の未来ならやりかねないと思っていた。

―――それに、あのお姉さんが言っていた情報は本当だったんだ。
―――最初は疑っていたけど・・・結果、クリーブルをやっつけることができたしよかったのかな。

相手がクリアリーブルなのかどうかは明確に分かってはいないが、結黄賊という単語を知っていて喧嘩に慣れていたため、彼らはクリアリーブルだと言っても過言ではないだろう。
「俺・・・手加減、できなくなっちまったのかな」
「え?」
一度外した視線を再び未来へ戻すと、先程まで跪いていたはずの彼がいつの間にか態勢を整え、地面に力なくだらりと座り込んでいた。
そして未来は鉄パイプを握っていない方の手の平を見つめ、寂しそうな目をしてこう呟く。
「・・・最近さ。 手加減ができないこと、よくあるんだ」
「・・・」
悠斗は何も言わず、その場に立ったまま続きの言葉を待つ。
「何かさ。 感情的になると、相手をすぐに気絶させちまうんだ。 別にそうさせようと思ってやっているんじゃない。 ただ・・・自分の力が、抑えられなくなるんだよ」
いつもとは違い自分の思いを素直に吐き出す未来に違和感を覚えた悠斗は、自然と彼から目を背けてしまった。

「なぁ・・・悠斗。 俺、もう結黄賊としての喧嘩はできねぇのかな」

“結黄賊としての喧嘩”というワードに反応し、思わず未来のことを見てしまう。 そこで目にしたのは、苦しそうな表情をして必死にこの場を耐えている幼馴染の姿だった。
「・・・大丈夫だよ、未来」
「え?」
未来が悲しそうな顔をしているのをこれ以上は見ていられなくなり、悠斗はついに口を開く。 そして彼の目線に自分の目がくるよう、悠斗もその場にしゃがみ込んだ。

―――未来なら、大丈夫。
―――すぐにまた、いつもの未来に戻るさ。

そう信じ、力強い言葉で目の前にいる幼馴染に向かって言葉を放つ。
「大丈夫。 手加減ができないのは、今だけだよ。 このクリーブル事件が終われば未来はもう感情的にならなくて済む。 そしたら自然と、いつもの未来に戻るはずだ」
迷いのないその言葉に安心したのか、未来は笑いながら小さく頷き礼の言葉を述べた。
「悠斗・・・。 ありがとな」
それを聞いた悠斗は、膝を伸ばし彼の目の前に片手を差し出した。 その手を握り未来もその場に立ち上がると、公園の脇にある草むらへと足を進めていく。
そして鉄パイプをどこに隠そうか迷っている光景を見ながら、悠斗は先刻疑問に思ったことを彼にぶつけてみた。
「そういえばさ、未来」
「ん?」

「どうして・・・あの時、未来は副リーダーだと言ったんだ? ・・・未来が、狙われるかもしれないのに」

それは最後、リーダーを殴る前に未来が放った一言。 結黄賊の副リーダーは真宮のはずなのに、彼は自ら自分が副リーダーだと教え込んだ。
その問いに対し、未来はやっと隠せる場所を見つけたのか草むらの中を漁りながら、淡々とした口調で答えていく。
「あぁ。 そりゃあ当然、真宮に迷惑をかけたからさ」
「・・・かけたから?」
普通なら“迷惑をかけたくなかった”という言葉が相応しいと思うのだが、未来はあえてその言葉を選び発言した。
そして鉄パイプを草むらの中に綺麗にしまい込み、悠斗の方へ振り返って苦笑いをしながら先刻の続きを口にする。
「そ。 ・・・今まで真宮に何度止められても、結局俺は自分勝手に行動しちまった。 それに関しては、悪いと思ってる。 ・・・負担を、たくさんかけちまったなって。 
 これ以上、真宮には迷惑をかけたくないんだ。 負担もかけたくない。 だから・・・今回は俺が、全部責任を取ろうと思って」
そして少しの間を空けて、なおも苦笑いしたまま再び口を開く。
「ユイがやられたっていうことは、クリーブルはユイがリーダーっていうことを既に知っているのかもしれない。 だからリーダーとまでは言えなくて、副リーダーって言ったんだ」

―――未来が・・・全ての責任を負う。

「そんなの・・・俺が許すわけ、ないだろ」

「へ?」

自分の思いが、心ではなく自然と口に出てしまった。 思ってもみなかった突然の発言に、未来は思わず間抜けな声を出してしまう。
唖然としてその場に立ち尽くす彼に、悠斗は自分も苦笑いをしながらこう言い返した。
「未来を止めずに、付いていった俺も悪い。 だから同罪だ。 もちろん俺も、責任を取るよ。 未来だけには負わせない」
未来はその言葉に一瞬驚きの表情を見せ、すぐにお腹を抱え込み笑い出した。
「悠斗、お前って奴は・・・。 ほんっとうに、馬鹿だな」
「・・・未来に馬鹿って言われるのは、全然嫌じゃないよ」
彼の侮辱発言をさらりと受け流す。 そしてそんな悠斗を見て、未来は先刻より大袈裟に笑い出した。 そんな彼を見て、悠斗もつられて笑う。

和やかな雰囲気のまま、悠斗たちは行く当てもなく公園から出て適当に歩き始めた。 笑うことにひと段落ついた未来は、両手を頭の後ろへ回し空を見上げながら真剣な表情で呟く。
「でもまぁ・・・まだ、油断はすんなよ。 また俺たちを襲ってくるかもしれないからな」
その言葉を聞いた悠斗は彼と同じ真剣な表情になって、小さく頷いた。
「相手は、今日はたまたま油断していたんだ。 クリーブル事件を起こしている人間は、きっと他にもたくさんいる。 あれだけの人数なわけがない。
 だから今後、今日の仕返しとして俺らに襲いかかってくる可能性がある。 俺たちの攻撃は相手を一時的に無力化するだけだから、すぐにアイツらは復活するかもしれない」
「そうだな」
「特にお前だ悠斗! 毎回毎回油断すんな気を抜くなって言ってんのにもかかわらず、毎回当たり前のように一番最初にやられやがって! 何度も言うが、絶対に油断はすんなよ!」
「・・・」
そう言って、険しい表情をしながら悠斗に向かって指差した。 未来の堂々とした発言により痛いところを突かれた悠斗は、言い返せなくなり思わず口を結んでしまう。 
そして少しの間を置いて、彼から視線をそらし小さな声で言葉を返した。
「直接そう言われると・・・何か嫌だな・・・」
その言葉を聞いた未来は、ニッコリと笑いながら得意気に腕を組んで胸を張った。

「そりゃあもちろん、悠斗の欠点は俺が一番知っているからな!」

大きな声でそう断言した彼を見て、悠斗は否定をせずに優しく微笑み返した。 その瞬間、タイミングよく悠斗の携帯が鳴り出し二人の注意を引き付ける。
「? 誰からだ?」
そう尋ねられ、その場に足を止めてポケットから携帯を取り出し、電話の相手を確認した。
「御子紫から。 ちょっと待ってて、電話に出るから。 ・・・もしもし?」
『おー、悠斗? 今どこにいんだ?』
その問いに、周りをキョロキョロと見渡しながら答えていく。
「えっと・・・。 特に。 適当に歩いてるかな」
『そっか。 悠斗さ、どうせ今未来と一緒にいんだろ?』
「え? そうだけど・・・」
仲間には何も言わずに未来に付いていったため、今未来と一緒にいることがすぐにバレたことに動揺しながらも未来の方へ目をやると、
彼はハテナマークを浮かべた表情で首を傾げていた。
『だと思った。 それで、お前らの用事はもう済んだのか?』
「あぁ、一応済んだかな」
『そっか。 今、俺らカラオケにいんだけどさ。 お前たちも来ねぇ?』
「え?」
『いやほら。 ・・・悠斗たちがいねぇと、いまいち盛り上がらなくて』
そう言いながら、電話越しで苦笑いをする御子紫。 照れ臭そうに笑う彼に対し、悠斗は文句を言わずにその頼みに承諾する。
「いいよ。 今すぐそっちへ向かう」
『え、マジで!? 助かるわー。 じゃ、カラオケはいつものところな? 未来も連れてこいよ』
「あぁ、もちろん」
『よし! じゃあまた後でな』
御子紫と約束を交わして電話を切り、目の前にいる未来に向かって笑顔で口を開いた。
「未来、今からカラオケに行くぞ」
“一仕事終えて疲れているというのに、今から遊びに行くのなんて面倒だ”という感情を顔全面に出しながら、彼は溜め息交じりで返事をする。
「・・・はぁ? 何で俺も行かなきゃなんねぇんだよ」
「未来がいないと、みんな盛り上がらないんだってさ」
「今日くらいいいだろ別に。 一応俺、今日は用事があるって言っちまったし」
「でも、その用事はもう済んだんだろ?」
その一言で勝ち誇ったように優しく笑う悠斗を見て、未来は苦笑しながら溜め息をつく。 そして右腕に今もなお縛られているバンダナを外しながら、続けて言葉を放った。

「ったく・・・お前って奴は、最後の最後までしょうがねぇな。 そのバンダナ、ちゃんと外しておけよ」

この後は――――何事もなく、一日を終えることができた。


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