心の交差。

ゆーり。

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文化祭とクリアリーブル事件。

文化祭とクリアリーブル事件⑤②

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数分後 沙楽総合病院前 道路


「さーて、早速伊達に連絡ー」
結人の病室から出た結黄賊のみんなは、病院前の道路の脇に足を止めた。 行く場所がまだ決まっていないため、伊達を誘いつつこれからの予定を立てようとしている。
御子紫の声を聞き、北野は再び携帯を取り出し伊達に連絡を取り始めた。 その光景を見て、椎野はみんなのいる方へ振り返り口を開く。
「じゃあとりあえず、公園にでも行って時間を潰そうぜ。 そんで行きたいところが思い付いたら、そこへ向かうって感じで」
遊び関係のことになると、いつもリーダー的ポジションに立つ椎野。 だがみんなはそんな彼を否定することなく、その意見に賛成した。
そこで優は何の考えもなく周りを見渡し、ふと思ったことを口にする。
「・・・あれ、真宮は?」
「ん? ・・・そういや、いないな」
優の発言にすぐ反応したコウは、自分も周りを見渡して真宮の姿を確認するが見つからない様子。 そんな二人に気付いた夜月は、彼らに向かって口を開いた。
「真宮はさっき、ユイと話していたぜ」
「? そうなんだ。 リーダーと副リーダーで、何か話しているのかな」
この時の彼らは、その程度しか考えていない。 この先に起こる、耳を疑うような事実を知らされるまでは、彼らは今の時間を思う存分に楽しんでいた。
「・・・うん、分かった。 また後でね。 ・・・伊達、今から来るって!」
「マジで? よっしゃ! 人数増えたから盛り上がるわー」
北野が携帯をしまいながら、伊達のことを報告する。 それを聞いたみんなは、素直に喜んでいた。 だけどそんな中、別のことを考えている一人の少年。
その少年は、楽しそうにしているみんなのことを横目で見ながら、背を向けて小さな声で呟いた。
「じゃあ、俺・・・そろそろ行くな」
「え? あぁ、分かった。 またな」
その声に一番最初に反応した御子紫は、未来に向かって優しく笑いかける。 それに続くよう夜月も精一杯な自分の思いを、短くして彼に伝えた。
「未来。 その・・・気を付けろよ」
未来はその言葉の重さを身に染みて感じながら、力強く頷いてこの場から去った。 

みんなに見送られながら、未来は一人でこれからのことを考える。 その前に、一つ気になっていることがあった。 
それは先刻言われた『未来だけは好きに行動してもいい』という、結人からの命令だ。
あんなことを言われたのは今までになく初めてで、そう言われた時は嬉しくもなく悲しくもなく、とても複雑な心境だった。
結人は未来のことを信じてくれていて、かつ勝手に行動しても後からどうこう言われなくて済むため嬉しいはずなのだが、それ以上のプレッシャーが未来に重くのしかかる。
そんなことを考えながら、俯き小さく溜め息をついた。

―――どうして・・・ユイは俺に、あんなことを言ったんだろう。

特別未来にだけ優しくしているわけではない。 だとしたら、未来を止めるのはもう時間の無駄だと考え、諦めてそう口にしたのだろうか。

―――こうなった以上・・・ちゃんと結果を出さないと、駄目だよな。

そう思い、気を入れ直して足を力強く前へ進めていく。 その時――――誰かから、ストップがかかった。
「未来!」
急に呼び止められ、その声のする方向へ身体を向け相手を確認する。 いや、確認をしなくても未来は分かっていた。
「・・・悠斗」
今日結人の病室に入ってから、一度も声を発していない悠斗。 そしてやっと今、未来に対して言葉を放ったのだ。
そんな彼を見ながら、重苦しい雰囲気を作らないようにわざと軽薄な口調で声をかける。
「何だよ悠斗ー。 今から俺は用事があんの。 だから、悠斗はみんなと一緒に遊んでこいよ。 わざわざ俺の用事にまで、付き合わなくてもいいんだぞ?」
陽気な口調で言葉を発する未来に対し、悠斗は真剣な表情で言葉を紡いでいく。
「その用事、俺も行く」
「だからー、別に無理して俺に付き合わなくてもいいって。 お前はみんなと一緒に遊びに行ってこい! これは俺からの命令だ!」
笑顔でそう言って、人差し指を悠斗に向けて突き出した。 だがそんな未来を見て小さく溜め息をついた悠斗は、表情を変えないまま言葉を返す。
「未来はリーダーでもなんでもないから、命令は聞かないよ」
その言葉を聞き、ゆっくりと態勢を元に戻した。 それと同時に笑顔は消え、真剣な表情になってから小さく呟く。
「・・・俺に何の用だよ。 見張りか? そんなもんいらねぇ」
「見張りじゃないよ。 ただ、未来に協力したいだけ」
「協力?」
それに悠斗は小さく頷いた。 そして少しの間を空けて、続けて言葉を紡いでいく。
「コウの件の時、未来に一緒に来るよう言われたけど俺は行けなかった。 だからせめて、今は未来の隣にいたい」
「・・・」
彼の気持ちを聞き、しばし考え込む。 そして今度は未来が小さく溜め息をついて、自分の思いを吐き出した。
「・・・そう言ってくれるのは嬉しいけどよ、悠斗。 俺でもこれから、何が起きるのか分かんねぇんだ。 だから付いてくるのは危険過ぎる。
 確かに隣に悠斗がいてくれんのは助かるけど、俺のせいで悠斗も一緒に巻き込みたくはない」
そう、これから未来はクリアリーブルの基地に乗り込んで、一人で決着をつけようとしていた。 だけど相手は何人いるのかも分からないし、相手の強さも分からない。
そんな曖昧な状態で、悠斗までにも負担をかけたくはなかった。 これが未来の本心。 だが悠斗は、そんな未来の気持ちを受け止めながらもこう返事をした。
「俺は大丈夫だよ。 自分の身は、自分でちゃんと守れるから。 ・・・それに」
「?」
ここで一瞬の間を置いて、悠斗は優しい表情を見せながら言葉を発する。

「一人より二人の方が、心強いだろ」

「なッ・・・」

想像していなかった発言に思わず言葉が詰まり、そんな自分に対して、そんな発言をした悠斗に対して苦笑いをした。
「・・・ったく、悠斗って奴は・・・」
怒りを込めた一言だが、未来の表情は嫌な顔何一つしていなかった。 それを見て、悠斗も少し安心する。
そして未来は彼をこれ以上説得させても無駄だと思い、なおも苦笑しながら言葉を吐き出した。
「仕方ねぇな。 付いてくんなら付いてこい。 でも俺は、悠斗のことをちゃんと守れる自信はねぇぞ。 その覚悟ができているなら、な」
その言葉に対し、悠斗は自信満々な表情でこう返す。
「あぁ。 当然、覚悟はできているさ」
未来はその言葉に力強く頷き、悠斗と共に歩き出した。 この時未来は、彼に感謝していた。

―――悠斗・・・いつもこんな俺に、付き合ってくれてありがとな。
―――そこまでしてくれんのは、お前だけだぜ。

そして二人は、ある場所を目指して歩いていく。 だが目的地を知らない悠斗は、ただ未来に付いていくだけだった。
これからすることも、これから行く場所も全く分からない悠斗は、不安な気持ちを抱えたまま未来に向かって口を開く。
「なぁ・・・未来。 これからどこへ行こうとしているんだよ?」
その問いには戸惑い、渋い顔をしながら答えていく。
「それは・・・口では説明できねぇな。 まぁ、付いてきたら分かるさ」

それから数分後、目的地に辿り着きその場で足を止めて辺りを見渡した。 だがそれでも見つからず、声を上げて探すことにする。
「おい! どこかにいるんだろ! 出てこいよ!」
「・・・未来?」
意味不明な発言をしている未来に悠斗が不思議そうに呟くと、同時にある人物が二人の目の前に姿を現した。
「・・・ッ!」
悠斗は突然の登場に驚き、一歩後ろへ下がって身構える。 そんな彼を見て、二人の前にいる“女”は静かに口を開いた。
「お久しぶりね、坊や。 待っていたわよ。 ・・・その坊やは?」
そう言って、どう見ても男に見える自称“お姉さん”は未来の後ろにいる悠斗のことを見てそう尋ねた。 その問いに、悠斗の方へは振り向かず彼のことを紹介していく。
「コイツは俺が一番信用できるダチだ。 俺に協力してくれるみたいだから、悪い奴じゃない。 ・・・いいか、お前でもコイツには手を出すなよ?」
「へぇ、お友達ねぇ。 結構その坊やもいい顔しているじゃない」
「だからそんなに見んな! マジで手を出したら許さねぇからな!」
そう言いながら未来は悠斗を隠すようにして、彼の目の前に立つ。 一方悠斗は、強烈なキャラの人を目の前にして何も動けず、何も言えずにいた。
「文化祭、終わったの? どうだった、楽しめた?」
未来とは正反対の表情で、ニコニコしながらそう尋ねてくるお姉さん。 その言葉と態度に緊張が解け、リラックスした状態でその問いに答えた。
「あぁ。 おねーさんが止めてくれていたおかげで、沙楽からはこれ以上被害者は出ることなく文化祭を終えることができた。 ありがとな」
「そう。 坊やが楽しめたなら、私はそれで満足よ」
話の区切りがついたところで、未来は表情を優しいものから真剣なものへと切り替える。 そしてその面持ちのまま、早々本題を切り出した。
「文化祭はもう終わったんだ。 だからいきなりで悪いが、早速クリーブルのアジトの場所を教えてくれ。 知ってんだろ?」
「えぇ、もちろん。 約束だものね」
ニッコリとした表情で言葉を返すお姉さんを見て、悠斗の背中には一瞬にして夥しい量の冷や汗が流れ落ちる。 そしてすぐさま未来の名を呼んで、止めようとした。
「未来! お前」
だが未来はその発言にストップをかけるよう、手を上げ彼の目の前に突き出した。 その唐突な行動に、悠斗は嫌でも言葉を詰まらせ反論ができなくなる。

―――本当は、ユイたちをやった犯人の情報が知りたかったけど。
―――この際クリーブルのアジトに乗り込んで、全員を潰した方が効率いいし早いだろ。

そして未来は、悠斗の発言を制しながらもう一度お姉さんに向かって頼み込んだ。
「じゃあ・・・約束だ。 アジトの場所を、教えてくれ」


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