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文化祭とクリアリーブル事件。
文化祭とクリアリーブル事件㉑
しおりを挟む夜 都内某所
辺りはすっかり暗くなり、夕日が全て沈み終えた頃、ある3人組は次の場所へと行動を移していた。 日が落ちると更に空気が冷え込み、冷たい風が身体に鋭く突き刺さる。
だがその寒さに反するよう、この3人の意志だけはとても固く彼らの周りには熱いオーラが漂っていた。 そんな中、真ん中にいる少年がこの場にいる代表として口を開く。
「いいか。 また俺たちはここで見張りをする。 だけどこの前とは違って、少し強化したいと思う。 効率よくクリーブルを見つけるためにな。
だから俺たちがそれぞれ見張る場所を、少しだけ離れさせる。 といっても、危険だからあまり遠くまでは離れない。 20メートル間隔で広がって、監視すればいいだろ」
悠斗と夜月に対しそう指示をする少年、未来。 3人は今、先日クリアリーブル事件の被害者になりそうな人を助けた場所に来ている。
他の場所を見回ってもいいのだが、昨日も調べたらやはりこの場所が一番多く被害者が出ていたのだ。
今日こそクリアリーブルを捕まえて白状させようと、気合いを入れる。
「分かった。 どう並ぶ?」
夜月のその問いに、未来は自分の意見を述べていった。
「夜月を真ん中にしよう。 視力がいいし、電灯がなくても多少は見えるだろ。 できれば俺と悠斗の方も少し見て、もしピンチになっていたら助けに来てほしい。 いいか、悠斗。
何かあったら大声を出すんだぞ」
「うん、分かった」
電灯がなく薄暗い真ん中を、この中では一番喧嘩が安定していて強い夜月に任せた。
そして十分に打ち合わせをした後、未来と悠斗は夜月を基準にして20メートル間隔で左右に分かれる。
今未来がいる場所の近くには電灯があるため、より周りに注意を払わなければならない。 ここにいることがバレたら、クリアリーブルに狙われる可能性があるのだから。
―――さて・・・クリーブルを捕まえたら、まず何から白状させようか。
彼らに聞きたいことはたくさんあった。 まず、結人と椎野をやった犯人は誰か。 他にこの事件を起こす理由、そして結黄賊をどうして敵視しているのか。
もっと言えば、どこから結黄賊という名のチームを知ったのか。 そのようなことを考えていると、あることがふと頭の中を過った。
―――・・・まさか、俺が外で結黄賊っていう名前を、大声で言ったせいじゃねぇよな。
そんな嫌な理由が頭を過り、未来は寒気がして少し身体を震わせる。
―――まぁ・・・いいや。
―――俺が理由なら、俺が全て責任を取ればいい。
―ドゴッ。
―――ッ、何だ!?
そんなことを考えていると、突然遠くから低くて鈍い音がこの静かな夜道に響き渡った。
その音に反応し咄嗟に悠斗たちのいる方へ顔を向けると、そこからは仲間の声が聞こえてくる。
「未来! 悠斗がやられた!」
―――・・・は?
4、50メートル程離れているところから、かすかに聞こえる夜月の声。 彼からは『悠斗がやられた』という言葉が、ちゃんと未来の耳に届いていた。
「悠斗!」
それを聞き、悠斗のもとまで全力で走る。 50メートルなんて全力を出せば7秒以内で走れるため、すぐさま彼らのもとへ駆け付けた。
「おい悠斗、しっかりしろ! 何があった」
悠斗は夜月が支えてくれているため、その場に座り込み悠斗と同じ目線に合わせそう尋ねる。 すると殴られたのは首部分なのか、首を抑えながら未来を見据えてこう言ってきた。
「俺は・・・大丈夫だよ。 首を、バッドみたいなモノでやられただけ・・・。 でも、命中はしなかったから大したことはないよ」
無理矢理笑顔を作りながらそう答えた彼を見ていると、未来はふとあることを思い出し非常に暗い周りを必死に見渡した。
―――まだ犯人は、この近くにいるのかもしれない。
「悠斗、大丈夫か? 痛いところは首以外ねぇか?」
「あぁ、うん・・・」
―――くそ、犯人はどこに・・・ッ!
―――・・・ッ、いた!
「夜月、悠斗を今すぐ病院へ連れて行け」
未来はその場に素早く立ち、悠斗を気にかけている夜月に向かってそう言い放った。
「は? 未来はどこへ行くんだよ」
「犯人があそこにいる。 俺は奴を追いかける」
「おい待てよ! 悠斗がやられたんだぞ、今は身勝手に行動すんなよ!」
「分かっている! だから、悠斗を病院へ連れていけって言ってんだろ!」
彼らはこの場から動かないため、目だけを犯人の方へ向けてその状態のまま夜月に言葉を返す。
「未来は悠斗が心配じゃねぇのか!」
「ま、待って・・・。 俺、本当に大丈夫だから」
―――・・・あ、逃げやがった!
―――このままここにいたら、また見失うだけだ。
悠斗自身は大丈夫だと言っているが、自己判断では危ない。 未来は身体を犯人の逃げた方向へ向け、今にでも走り出せる体勢になる。
そして今度は顔だけを夜月たちへ向けて、力強く言葉を言い放つ。
「いいか、悠斗を病院までちゃんと運べ! やられたのは首だ、だから念のために検査を受けておけよ!」
そう言い終わるのと同時に、未来はこの場から勢いよく駆け出した。 悠斗が言っていた通り、目の前にいる奴は棒らしき物を持っている。
しかも服装は全身黒で纏っており、今未来から逃げているということからおそらくクリアリーブルの一員なのだろう。
「おい待てよ!」
夜に構わず、大声で目の前にいる奴を呼び止める。 だが当然、相手は止まってはくれずただひたすら前へと走り続けた。 それでも未来は、諦めずに追いかける。
息が切れて苦しいが“アイツは悠斗をやった犯人だ。 だから許すわけにはいかない”と思っていれば、こんな苦しさなんて微塵も感じられなくなった。
そして全力で追い続けて、約10分――――奴は行き止まりのところまで走っていき、行き場がなくなったためそこで足を止める。
「おい・・・。 お前、クリーブルだな?」
「・・・」
相手を追い詰めその場に止まり、呼吸を整えながら静かにそう問う。 それでも答えない彼に、未来は一歩ずつゆっくりと近付いていった。 すると、相手の顔がよく見えてくる。
どうやら若くなく、かといってかなりの年上とでも言えないため、おそらく未来と歳は近いのだろう。
奴は未来が近付くと同時に少しずつ後ろへ下がっていたが、壁が近くなったせいで逃げることを諦めたのか、急にその場に立ち止まった。
「クリーブル、なんだろ? ・・・お前ら、一体何が目的でこんなことをしている」
未来は鋭く睨み付けながら近付き、ついに相手との距離が1メートル程となったところで、奴はポケットからゆっくりとあるモノを取り出す。
―――なッ・・・スタンガン!?
そう確認するのと同時に、奴はソレを未来に向けながら突進してきた。 距離が近かったためその攻撃を間一髪のところで避け、ソレを持っている奴の手を掴み背中へと無理矢理回す。
その流れで未来は相手の背中側へ回り、完全に動きを封じた。 手に持っている物を見ると、それはやはりスタンガンだった。 だがそんなことには構わず、もう一度怒鳴り付ける。
「答えろ! お前らの目的は何だ!」
「・・・」
どう見ても奴の負けなのに、それでも口を開かなかった。 その代わり、口ではなくスタンガンを持っている手首だけを、器用に動かし未来に向けくる。
「・・・うわッ、あっぶねぇな!」
今回も接触するギリギリのところで気付き、その手首を自分に近付けさせないよう奴の背中に押し当てる。 だが、その瞬間――――
―ビリッ。
「うああぁ!」
奴はそう大きく悲鳴を上げ、その場に倒れ込んでしまった。 未来はその光景がすぐには理解できず一瞬戸惑うが、頭を必死にフル回転させこの状況を整理する。
「え・・・。 おい、マジかよ」
―――スタンガンのスイッチ、つけっぱなしだったのか!
未来がスイッチの入ったスタンガンを奴の背中に押し当てたため、その電気ショックを食らいこの場に倒れてしまった。
すぐさま奴の正面まで行き、軽く頬を叩きながら必死に声をかける。
「おい起きろよ、おい!」
―――マジかよ、折角のチャンスだったってのに・・・!
目覚める気配なんて一切ないが、それでも起こし続けた。 悠斗をやった犯人が彼だと分かっているため自業自得だとは思うが、簡単に気絶してもらっても困る。
これから聞きたいことがたくさんあったというのに、最終的には罪を認めてもらいたかったというのに――――
「誰かそこにいるのか?」
―――ッ!
大きな声で話しかけていると、突然近くから男の声が聞こえてきた。 それは未来たちの方へ、次第に近付いてくる。
―――・・・くそ、警察か。
いったんここは諦め、未来はこの場から去ることにした。 本当は奴が起きるまで待っていたかったが、このまま警察に捕まったら元も子もない。
今回で、クリアリーブル事件を終わらせようとしていたのに。 全てが解決できると思っていたのに。
結局有力な情報を何も得ることができなかった自分に腹が立ち、手を強く握り締め自分の太ももに向かって思い切り何度もぶつけた。 もちろん痛さなんて、微塵も感じられない。
―――そういや・・・悠斗の奴、大丈夫かな。
苛立ちを無理矢理抑え冷静になっていると、突然悠斗のことを思い出した。 ポケットから携帯を取り出し、画面を確認する。すると、メールや着信がたくさん届いてた。
そのほとんどが真宮からのものだ。 だが今は彼のメールを読む気にはなれず、ついさっき届いていた夜月のメールを開く。
『今悠斗を病院へ運んだ。 未来も用が終わったら、病院へ来てくれ』
その内容を見て、深く溜め息をつく。 それは夜月へ向けたものではなく、自分へ向けたものだった。
―――・・・悠斗の様子、見に行くか。
未来は重たい足取りのまま、この薄暗い夜道を歩き病院を目指した。
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