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文化祭とクリアリーブル事件。
文化祭とクリアリーブル事件⑯
しおりを挟む翌日 沙楽学園 1年生のクラス
色折結人という少年が病院に運ばれた翌日。 結局椎野からは、昨日連絡が来なかった。 そして朝になっても連絡がないということは、結人はまだ目覚めていないのだろう。
そのこともあり彼が率いる結黄賊のメンバーは、朝から足取りが重く学校へ着いても笑顔を見せる者はいなかった。
結人が入院をしたということは、朝のホームルームによって1年の生徒たちに一斉に知らされる。 それを聞いた結人を知る者たちは、とても酷く悲しんだことだろう。
特に彼の居場所である5組に関しては、まるでお葬式のように静かだった。 その光景は、椎野が入院をしたと聞かされた時の3組の反応と全く同じものだ。
だが結人と椎野には違う点が一つある。 それは、今現在意識があるかないかということだった。 椎野は頭を打たれた直後、一度気を失ったものの、すぐに意識を取り戻した。
一方結人については、倒れてから12時間以上は経つが今でも目覚める様子はない。 椎野が連絡することを忘れているということはないだろう。
彼だって、結人の目覚めを今か今かと待ちわびているはずだから。 それなのに、連絡が来ない。
結人が目覚めないという事実もあり、彼を知る者はより大きな不安に押し潰されそうになっていた。
もちろん結黄賊の中には『学校を休んでユイの様子を見に行きたい』と言い張った者は何人かいるが、その行為は真宮によって拒まれる。
真宮いわく、もし見舞いへ行った時に結人が目覚めたら、彼はみんなに向かって叱り出すと思ったからだそうだ。
『学校をどうして休んだ、病院へ来るのは放課後でいいから学校を優先しろ』と、彼は言ってくると思ったから。
実際にそう言うのかは分からないが、真宮は“ユイならそう言いかねない”と思ったらしい。 どうして結人がそんなことを言うのかについては、いくつか考えられた。
まず、リーダーがやられたごときで心配する必要はないと思っているのか。 それとも、学校生活をみんなには楽しんでほしいと思っているのか。
もしくは、文化祭が近いため準備に集中してほしいと思っているのか。 もちろん本当の理由は、彼らには知る由もない。 だけど全て、結人が言いそうな理由だった。
だから真宮にそう言われた結黄賊のみんなは、彼の指示に素直に従い学校へと足を運んだのだ。 だが――――彼らの元気は、当然戻らず。
1年1組
「おい、御子紫。 ・・・色折がやられたっていうのは、本当か」
御子紫の席へ近付きそう口にする日向。 そんな彼に対し、疑問に思ったことを素直に返す。
「何だよ、ユイを心配してくれてんのか?」
御子紫なりには笑顔でそう言ったつもりだった。 だけど彼の顔には笑顔なんてモノは一つも存在しなく、悲壮感だけが漂う表情をしていた。
「・・・いや、別にそんなんじゃねぇけど。 クリーブルに、やられたのか?」
日向の口から“クリーブル”という言葉が出るとは思ってもみなかった御子紫は、一瞬ビクリと反応し視線を下へ落とす。
「クリーブルについて、知っていたのか」
「そりゃあ、クリーブル事件は今の立川で騒がれているからな」
「日向もクリーブルなのか?」
「も? も、って何だよ。 俺はちげぇよ」
「あ・・・。 いや。 そうか」
思わず口が滑ってしまい、咄嗟に口を結ぶ。 一方日向は、結人という少年を初めて認めるような発言を御子紫に言い放った。
「なぁ、色折って喧嘩が強いんだろ? だったらクリーブルにやられても抵抗できたり、その前に相手の気配にだって気付くはずだ。
そんな色折でも手に負えないような相手なのか?」
その問いに御子紫はしばし黙り込み、やっとのことで顔を上げた。 そしてそのまま日向の方へと視線を移し、またもや思ったことを素直に口にする。
「・・・ユイ、日向の前で喧嘩をしたりでもしたのか?」
「え?」
日向は思っていたものとは違う反応が返ってきて唖然としていると、一人の少女が御子紫たちの会話に割って入ってきた。
「御子紫くん! 結人がやられたって、本当なの? 結人は今・・・大丈夫なの?」
1組で結人と唯一仲のいい女子、高橋梨咲。 彼のことが心配で、御子紫のもとへ駆け付けてくれたようだ。
「大丈夫かは・・・分かんない。 まだユイは、目覚めていないと思うから・・・」
その答えに、梨咲は青ざめた顔をする。
「お願い! 今日の放課後、結人の様子を見に行ってもいい? ・・・どうしても、心配なの」
そう必死に頼んでくる彼女を見て、御子柴はほんの少し微笑みを浮かべた。
「・・・あぁ、もちろん。 ユイもきっと喜ぶよ。 ・・・日向も、来るか?」
目の前にいる梨咲から横にいる日向の方へと視線をずらす。 突然話題を振られ彼は驚くような顔をするが、すぐに返事をした。
「・・・いや、行かねぇ。 今日は用事がある」
「・・・そっか。 いいよ。 ユイの様子は、また明日学校で伝えるな」
御子紫はそれだけを言い、再び悲しそうな表情を見せた。
1年4組
「未来。 今日の放課後、クリーブルについて探るんだろ?」
未来を目の前に当然のようにしてそう口にした少年――――悠斗。 その言葉を聞いて嬉しく思ったのか、未来は険しい顔から少し微笑むように笑う。
「あぁ、よく分かったな。 真宮に『動くな』って言われているけど、そんな余裕ぶっこいてる場合じゃねぇ。 俺は今日から動く」
迷いのない力強いその言葉に安心したのか、悠斗も意を決したかのようにこう答えた。
「未来、俺も行く」
その発言に戸惑いながらも、彼に気を遣うよう言葉を返す。
「いいけど・・・。 でも俺と一緒に行動したら、真宮に怒られるのは確実だぞ?」
「分かっているよ。 それでも俺は、未来に付いていくから」
悠斗の迷いのないその答えに未来は“やれやれ”という表情をしたが、心の中ではきっと嬉しく思っているのだろう。 未来はその言葉を聞いて、力強く頷いた。
そんな中、ある一人の少年が彼らに近付く。
「未来、悠斗。 ・・・俺も、交ぜてくれ」
そう言葉を発した少年――――八代夜月。
未来と夜月は今現在喧嘩をしているということもあり、未来はそんな彼を睨むようにして見た。
「何だよ、今更」
だが夜月はそんな彼を物ともせず、自分の意見を述べていく。
「俺はユイと椎野をやった犯人が許せない。 だから放課後、俺もクリーブル捜索に加わりたいんだ。 ・・・駄目か?」
もちろんこの答えを求めたのは未来だ。 悠斗は必然的にそう受け取り、彼の答えを黙って待っていた。 そして未来はしばらく夜月の目を見ながら黙り込み、静かに口を開く。
「・・・好きにしろよ。 放課後俺たちは、ホームルームが終わった後すぐに教室から出る。 そして各自家へ帰って私服に着替え、駅前に集合だ。 ・・・来たかったら、来いよ」
1年3組
教室で一人、小さく座っている北野に近付く少女が一人。 そして彼に気を遣いながら、そっと口を開いた。
「・・・北野、くん? 大丈夫?」
「え? あ、あぁ、大丈夫だよ」
北野に声をかけたのは、ゴールデンウィークの時に北野に取材を頼みこんだ少女、小林。
小林は結黄賊みんなのことを知っているため、結人が入院したと聞き心配してくれたようだ。
北野は突然声をかけられ動揺を隠し切れないまま無理矢理笑顔を作り、何とか返事をする。 そんな北野に、少女は口を開いた。
「大変・・・だね。 椎野くんも、色折くんも入院しちゃって。 ・・・どうして、こんなことになっちゃったんだろうね」
「さぁ・・・。 俺だって、どうしてユイが狙われたのか分からない。 本当に・・・どうして、ユイなんだろう」
結人のことを思い出しながらどんどん落ち込んでいく彼に、少女は再び優しく語りかける。
「北野くん、そんなに気を落とさないで。 色折くんは大丈夫だよ。 絶対、目覚めるよ。 色折くんが、北野くんたちを置いていくわけがないでしょう?」
優しく接してくれるそんな彼女に、少しだがホッと胸を撫で下ろす。 あまり女子とは絡みのない北野だから、この瞬間がとても新鮮に感じたのだろう。
「うん、ありがとう小林さん」
礼を言う北野に、少女は微笑み返した。
「今日北野くんは、放課後色折くんの様子を見に行くの?」
「もちろん。 少しでもユイの隣に、いてあげたいからね」
「そっか。 私は今日部活があって行けないけど、私の分までお見舞いしてきてね」
優しく微笑んでそう言う彼女に、気持ちを込めて言葉を返す。
「うん、分かった。 ユイが目覚めたら明日ちゃんと言うね。 ・・・ユイ、早く目覚めてくれないかな」
1年2組
仲のいい二人はいつもと変わらず一緒にいた。 だが二人の間には笑顔がなく、それぞれが結人について、クリアリーブルについて、今後の結黄賊について考えていた。
本当にこのまま、真宮の命令を聞いていた方がいいのだろうか。 こうしている間にも、立川からはたくさんの被害者が出続けているというのに。
だけど彼らは未来のように、堂々と結黄賊のルールを破るということはできなかった。 それはもちろん、色折結人という少年に忠誠を誓っているから。
かといって未来は結人に忠誠を誓っていないのかというと、そういうことではない。 彼は忠誠を誓っていながらも、結黄賊のために自ら行動を起こしているだけなのだ。
「コウー・・・。 俺たち、これからどうしたらいいのかなぁ」
開いている窓に腕を置き、お世辞でも天気がいいとは言い難い薄暗い雲たちを見上げながら優はそう呟く。
そんな彼に対し、窓に背中を預けクラス全体を見渡しているコウが口を開いた。
「まぁ、真宮の指示に従った方がそりゃいいだろうな」
当然のようにそう口にするコウを見て、優は頬を膨らます。
「もぉー! コウは真面目なんだからぁー!」
「そんなことねぇよ」
苦笑しながらそう答えていると、ふとクラスの女子と目が合った。 その瞬間慌てて彼女から視線を外し、優と同じ方向へ身体を捩じる。
「ん? ・・・あぁ、また女子か」
コウの異変に気付いた優はクラスの方へと一度顔を向け、女子がこちらを向いているのを見ると呆れたようにそう口にする。
「モテる男は大変ですねー」
「・・・怒るぞ、優」
自分を落ち着かせるように、目を瞑りながらそう答えるコウ。 優はこれ以上彼の機嫌を損ねないため、再びクリアリーブルについて語り始めた。
「ねぇ、本当に俺たち動かないでいていいのかな」
真面目に考え込む優に、コウは決意したかのようにこう答える。
「でもさ。 ・・・俺たちって、ピンチになった時はいつもリーダーの命令を聞かないよな」
“結黄賊”というワードを出さずに、上手く言葉を綴った。 その発言に、優は突然目を光らせる。
「それって・・・!」
輝いた目で見つめてくる優に、コウも彼の方へと顔を向けた。
「俺たち、今日から動こうか」
「うん! 動く! もちろん、真宮には内緒でね?」
後半の発言をわざと小声にし、可愛らしい笑顔を見せてくる。 そんな彼を見て、再びコウは外の方へと視線を移した。 そして小さく独り言のように、こう呟く。
「・・・どうせ未来のことだ。 未来もきっと、行動を起こそうとしているはずさ」
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