心の交差。

ゆーり。

文字の大きさ
上 下
154 / 365
うそつきピエロ。

うそつきピエロ㊳

しおりを挟む



翌日 放課後


「日向ー! 一緒に帰ろうぜ」

「・・・は?」

今日向の目の前には、色折結人という少年が一人笑顔で立っている。 この状況を、一体どうやって理解をしたらいいのだろうか。

「日向ー、一緒に帰ろうよー」

理解不可能な言動をしている結人を無視し、日向はクラスを出て一人で昇降口へと向かった。 

「なぁなぁ、聞いてんのかー?」

外靴に履き替え、正門へ向かう。 牧野たちとは家が反対のため、いつも通り今日も一人で下校した。

「日向ー、俺を置いていくなよー」

昨日の出来事は忘れてなんかいない。 流石にあの動画を見せられたら、どうしようもできなかった。
納得はできていないが、しばらくは手を出さない方がよさそうだ。 いや――――もしまた誰かに手を出したら、優が黙ってはいないだろう。
またあの動画を見せてきて、きっと脅すのだ。 

「そういやさー、未来の奴また悠斗と喧嘩したみたいなんだよー。 二人の喧嘩について俺に意見を求めてくるとか、もうマジ勘弁」

牧野と秋元に関しては、今日はいつも通りに接してくれた。 休み時間も、普通に話しかけてくれた。
そしてクラスのみんなも、あんなにシスコン呼ばわりしてからかっていたのに、今日は何事もなかったかのように接してきた。
これも全て、優がやったということなのだろうか。 

「アイツら次の日になったらケロッとした状態に戻ってんのにさー。 どうせまた、未来から悠斗に謝るんしょ。 だってそう思うだろ? 日向も」

だとしたら優は一体何がしたかったのだろう。 本当に日向に仕返しをしたかったのだろうか。 だったら何故、物を隠したのにわざわざ返してくる必要がある?
クラスのみんなだって、どうしてあんなにからかっていたのに今日はいつものように戻っているのだろうか。

「日向ー、俺の話聞いてんのー?」

「あぁもう、うっさいな! さっきから鬱陶しいんだよ、どうして俺に付いてくる!」

日向は限界がきて後ろへ振り返る。 声を張り上げながらそう言うが、結人は相変わらず笑顔を絶やさない。
―――つか、どうして色折が俺に関わろうとするんだ! 
―――俺に対しての嫌がらせか? 
「どうして、って言われても・・・。 まぁ、見張り?」
「はぁ?」
「そう、見張り! また日向が誰かをいじめないようにさ」
―――・・・何だよ、それ。
「ふざけたことを言ってんな。 さっさと失せろ!」
「ひっでぇなぁ。 日向はいつも帰り一人で寂しそうだから、俺はお前にわざわざ付き合ってやってんのによ」
「そんなこと、頼んだ憶えはねぇ!」

―ドスッ。

結人のことを見ながら話していると、突然誰かとぶつかり転びそうになるが、そこは踏ん張り何とか耐えることができた。 どうやら相手は集団でいるみたいだ。 
そんな彼らに、日向は咄嗟に口を開いた。
「ッ・・・。 あっぶねぇな、おい! ・・・あ」
「あぁ? 何だよ、俺に喧嘩売ってんのか?」
「あの、いや・・・。 す、すいません・・・!」
―――ヤバい。 
―――この状況はマジでヤバい。
「おいおい、さっきまでの威勢はどこへいったんだよ。 別に今時間あっから、相手してやってもいいぜ? お前なんざ興味ねぇけどな」
「あ・・・。 いや、その・・・」

―――また・・・やられる。

「あの! さっきからアンタ何なんすか。 コイツ、ちゃんと謝っているじゃないっすか」
やられる覚悟をし目を固く瞑ろうとした瞬間、結人が日向と男の間に割って入ってきた。 そんな行動に、男も結人を睨み付ける。
「あぁ? 何だお前」
―――マズい、このままだと!
「色折、いいからよせって」
「いいから、お前は少し離れておけ」
「いや、だから!」
結人を何とかしてこの場から離れさせようとするが、彼は一向に動こうとしない。 
―――何してんだよ! 
―――このままだったらお前もやられるぞ!
日向がわざわざ心配してやっているのをよそに、結人は男に喧嘩を売っていた。
「謝ったんだから許してやれよ。 コイツだって、悪気があ・・・って・・・え?」
―――・・・ん?
彼は強気になって言葉を発していたが、次第に語尾が小さくなっていく。 
―――何があったと言うんだ?
「あ・・・。 お前!」
何かを思い出したのか、男はそう言って結人の顔をまじまじと見た。

「ほぉ・・・。 ここで会えるとはな」

「・・・俺はアンタなんかと、会いたくなかったっすよ」

―――え、知り合い? 
―――二人は知り合いなのか?
「丁度いい。 今日で決着をつけようじゃんか。 ・・・彼女をめぐって、さ」
「まぁ、受けたくはないけど・・・。 いいっすよ」
結人は男の喧嘩を買い、本気となっている。 そんな彼に日向は止めに入った。
「おい色折! 止めておけよ、お前が勝てる相手じゃ」
「日向」
彼は名を呼び、静かに日向の方へ身体の向きを変える。
「大丈夫。 俺は強いから」
「は・・・。 いや、でも」
「すぐに終わる。 だからここから少し離れていろ」

―――何を言ってんだよ、色折。 
―――だって、だってアイツは・・・。

すると結人は、日向の肩を軽く押した。 “向こうへ行っていろ”という意味なのだろうか。 彼はもう一度相手のことを見て、そして――――ついに、喧嘩が始まった。
「先輩、俺らがやりますよ。 こんな高校生相手、先輩がやっちゃ勿体ないっす」
「あぁ、そうかぁ? そんじゃ任せるわ」
どうやら男の後輩が結人の相手をするらしい。 だが後輩と言っても、相手は強そうだ。 しかも3人もいる。 
―――これ、後輩にでも負けるだろ!
そう思ったのは束の間――――結人はその彼らを、一瞬にして無力化した。
「え・・・?」
その光景を見て、日向は言葉が出ずにいる。 今の一瞬の出来事が、よく理解できなかった。 この事態に把握できたのは、後輩らがやられてから数秒後。

―――・・・強い。 

そう、そのたったの一言だった。 結人は日向が思っていたよりも、はるかに強かったのだ。 あんな一瞬で終わる喧嘩なんて、今まで見たことがない。
―――色折・・・お前は一体何者なんだよ。 
―――どうしてこんなに強い相手を、素手だけで勝つことができる! 
そして――――もう一つ、思ったこと。

―――・・・俺は、こんな奴を標的にしようとしていたのか。

そう思うと、身体の震えが止まらなくなった。 
―――一歩間違えていれば、俺はアイツらと同じように・・・。
「さぁて・・・。 次はアンタっすよ」
「へぇ。 お前、結構強いんだな」
ついに、男と結人の一対一の勝負が始まった。 本当は今危険な状態にいるのだが、日向は彼らの喧嘩を釘づけとなって見ていた。 
彼がまた、カッコ良い技を見せてくれるのではないかと、僅かな期待を持ち合わせながら。 だが――――現実は、そうはいかず。
「・・・くッ」

結人が――――やられている。

「お前はその程度か? ははッ」
上手いこと相手の攻撃を避けようとしているが、それは叶わず攻撃はほとんど結人に命中していた。 だが彼は、負けじと相手に何度も食らい付いている。 
結人は強いとはいえ、まだ高校生で人間だ。 この男に勝てるはずがない。 
―――くそッ、どうして俺は油断しちまったんだ!
―――・・・どうしよう。 
―――このままだと確実に色折はやられる。 
―――じゃあどうしたら、どうしたら・・・!
そこで日向は、ある少年が頭の中を過った。 

―――・・・神崎。
―――確か、神崎の家はこの近くのはずだ。 
―――神崎をいじめている時、アイツの情報を得るために尾行をして付いていったことがある。 
―――だったら・・・色折のダチにでも助けを求めるか。
―――俺がいても、何もすることができない。 
―――だったらせめて、色折のダチでも連れてきて・・・!

そう決意し、酷くやられている結人をよそに、目を瞑りながらこの場から走り去った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...