145 / 365
うそつきピエロ。
うそつきピエロ㉙
しおりを挟むコウは急いで気を失ってしまった優を抱え、ベッドまで運んだ。 そして、そっと横にして布団を優しくかけてあげる。
だがそこで安心する時間もなく、急いで携帯を手に取り北野に電話をした。
『もしもし?』
「もしもし、北野か? あのさ、優が突然倒れちまったんだ。 なぁ、俺はどうしたらいい? 病院へ連れていった方がいいのかな」
このまま優をどうしたらいいのか分からなかった。 優が目の前で倒れたのは初めてで、自分としたことがいつもとは違い動揺してしまったのだ。
こういう時こそ――――落ち着かなければならないのに。
『え、優が? ・・・そっか、倒れちゃったかぁ』
「いや、おい北野! どうしてそんなに落ち着いていられるんだよ。 こっちは大変なんだぞ?」
そう言いながら、優の額に手を当てた。 熱があるかを確かめようと思ったのだが、どうやらなさそうだ。
『大丈夫だよ、コウ』
「大丈夫って何がだよ」
『優は疲労による寝不足だよ、きっと』
「え・・・」
―――寝不足?
『コウは・・・今優と、一緒にいるんだよね? ということは、少しでも打ち解けることができたのかな』
「それは・・・まだ。 俺からの気持ちを言おうとしたら、優が突然倒れたんだ。 優が一方的に俺に向かって言ってきただけで」
『・・・そっか』
そう言って、北野は電話越しで軽く笑う。 どうして彼はそんなに余裕でいられるのだろうか。
「北野、俺は今真剣なんだ」
『うん、分かってる。 だから大丈夫って言ったでしょ。 ・・・優は、今まで精神的に凄く追い詰められていて、凄く苦しかったんだと思う。 コウと一緒でさ。
俺は優とあまり関わらなくて遠くから見ているだけだったけど、どうやら寝不足みたいじゃん。 ・・・ご飯も、ちゃんと食べていないみたいだったし。
コウも気付いていたでしょ?』
「え・・・?」
『優の生活習慣も、きっと乱れていたんだ。 だけどその苦しい精神が、コウに今全てを打ち明けたことによって安心したんだよ。 そう、苦しい気持ちがなくなったんだ。
だから、今までの疲れがどっと出ただけ。 そのまま寝かせておいてあげて? 寝不足が解消されたら、もう優は大丈夫だからさ』
―――そう、なんだ・・・。
―――よかった・・・。
―――・・・心配させんなよな、優。
北野の言葉を聞いて一安心し、優が寝ているベッドに腰をかける。
「分かった。 ありがとな、北野。 ・・・あと、強く当たって悪い」
『いいよ。 ・・・でもよかった、コウがちゃんと優のことを心配してくれていて』
「は? 何を言ってんだよ。 優を心配すんのは当然だろ」
『ははっ。 だよね。 ・・・じゃあ、優を安静にさせておいてね。 そして起きたら、何か食べさせてあげて』
「分かった。 ありがとう」
コウは北野との電話を切って、気持ちよさそうに眠っている優のことを見た。
―――優に・・・先を越されちまったな。
本当はコウから、優のところへ行って謝りに行く予定だった。 だが学校では言う勇気が出なくて、一度家へ帰って覚悟ができたら、彼の家へ行こうと思っていたのだ。
でもまさか――――優から来てくれるなんて、思ってもみなかった。
―――本当は、俺から優に心を打ち明けるはずだったのにな。
ふと時計を見る。 時刻は17時になろうとしていた。
―――・・・買い物にでも行くか。
最近の立川は、物騒で危ない。 ニュースでもよく騒がれている。 その事件が起きるのは全て夜のため、暗くなる前には買い物を済ませておいた方がいいだろう。
米を炊き、財布と携帯を持って再び優のところまで戻った。
「優、買い物へ行ってくるな」
返事がこないことを分かっていながらも、わざと優に向かってそう声をかける。 そして家を出てスーパーへと向かった。
向かっている最中でも、コウは優のことを考える。 彼からの言葉は全て心に届いていた。 それに言われて嬉しかった。 “今の俺が好き”という言葉が。
結人と同じで、優は今の弱い自分を認めてくれたのだ。
“どうして優は俺の苦しい気持ちを知っておきながら、俺に関わってくるんだ”と思っていたが、それは全て彼の優しさだった。
―――いや・・・そんなことは、とっくに知っていたけどな。
自分からも優に言わないと。 そして謝らないと。 あんな酷いことを――――自分は、言ってしまったのだから。
買い物を終え暗くなる前には、家に戻ることができた。 ベッドに目をやると、優はまだ寝ている。
コウは優が目覚めるまで音をあまり出さないよう、勉強をしたりネットをしたりして時間を潰した。 21時を過ぎるが、彼は未だに起きる様子がない。
晩御飯を食べる時間を逃したが、あまり食欲がなかったため今でも食べずにいる。
そして――――いつの間にか、もうすぐ日付が変わる時間になっていた。
―――・・・このまま待っていても仕方ないか。
―――風呂でも入ってこよう。
コウは再び優が気持ちよさそうに寝ているのを確認し、着替えを持って風呂場へと向かった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
文化祭のおまじない
無月兄
ライト文芸
七瀬麻、10歳。その恋の相手は、近所に住む高校生のお兄ちゃん、木乃浩介。だけどそのあまりに離れた歳の差に、どこかで無理だろうなと感じていた。
そんな中、友達から聞かされた恋のおまじない。文化祭の最後に上がる花火を、手を繋ぎながら見た二人は結ばれると言うけれど……
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
【完結】学生時代に実った恋は、心に痛みを残した。
まりぃべる
ライト文芸
大学を卒業して、四月から就職した川村千鶴。大学で付き合っていた彼と、仲が良かったはずなのにいつの間にかすれ違い始めてしまう。
別々の会社勤めとなっても、お互い結婚すると思っていたはずなのに。
二人、新たな選択をするお話。
☆現実にも似たような言い回し、言葉などがあると思いますが、作者の世界観ですので、現実とは異なりますし関係ありません。
☆完結してますので、随時更新していきます。
大学受注発注
古島コーヒー
ライト文芸
きっかけは「実は先輩と同じ大学に合格しました」という何気ないメッセージだった。高校時代の部活の憧れの先輩、藤代宗(ふじしろ そう)に挨拶のつもりでチャットメッセージを送り、うきうきした気持ちで大学デビューを待ち望んでいた宮中万一(みやなか かずひと)。しかし、入学しても憧れていたキャンパスライフはどこか地味で、おまけに憧れだった先輩は性格が急変していた……。普段であったら関わることない人々と、強制的に(?)出会わせられ、面倒なことに手助けを強いられる羽目になってしまう。一見地味に見えるが、割とすごいことに巻き込まれるおふざけ日常学園コメディ。
傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。
実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。
それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。
ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。
目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。
すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。
抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……?
傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに
たっぷり愛され甘やかされるお話。
このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。
修正をしながら順次更新していきます。
また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。
もし御覧頂けた際にはご注意ください。
※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。
都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」
可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス
竹比古
ライト文芸
先生、ぼくたちは幸福だったのに、異常だったのですか?
周りの身勝手な人たちは、不幸そうなのに正常だったのですか?
世の人々から、可ではなく、不可というレッテルを貼られ、まるで鴉(カフカ)を見るように厭な顔をされる精神病患者たち。
USA帰りの青年精神科医と、その秘書が、総合病院の一角たる精神科病棟で、或いは行く先々で、ボーダーラインの向こう側にいる人々と出会う。
可ではなく、不可をつけられた人たちとどう向き合い、接するのか。
何か事情がありそうな少年秘書と、青年精神科医の一話読みきりシリーズ。
大雑把な春名と、小舅のような仁の前に現れる、今日の患者は……。
※以前、他サイトで掲載していたものです。
※一部、性描写(必要描写です)があります。苦手な方はお気を付けください。
※表紙画:フリーイラストの加工です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる