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うそつきピエロ。
うそつきピエロ㉗
しおりを挟む放課後
授業が全て終わり、あとは下校だけとなった。 結人は藍梨を真宮に任せ、早速日向のいる病院へと向かう。
先生から彼のいる病院と病室は予め聞いておいたため、スムーズに行けるだろう。 それに最近の立川は物騒だ。 藍梨を一人にさせておくわけにはいかない。
今から日向に会いに行くのは、見舞いのためではなくもちろん誰にやられたのかを聞き出すためだ。 尋ねたらすぐに外へ出る。 長くいる必要なんてない。
結人だって彼のいる病室にわざわざ足を運びたくはないのだが、これは仕方がないと思っていた。
結黄賊のメンバーがもし日向をやったのなら、それはリーダーにだって責任がある。 だから、その時は当然結人が彼に謝罪をする。
その理由はもちろん、人を病院送りにさせたから。 そんなことは――――当然、許されるわけがない。
―――俺はリーダーだ、嫌いな相手でも謝る覚悟はできているさ。
そんなことを考えていると、日向のいる病室の目の前まで来ていた。 ここまで来たら、もう逃げられない。 どんな答えが返って来ようとも、全てを受け止める。
―――たとえ・・・俺の仲間の名前を聞かされたとしても、な。
もう一度気を引き締め直し、ノックをした。
「はい」
日向の声だ。 返事がきたことを確認し、結人は静かに扉を開ける。
「・・・色折」
扉を開けてすぐ目に留まったのは、当然日向の姿。 彼はベッドに座り、上半身を起こしている。 怪我は全身にしているようだが、本人はいたって元気だった。 そしてもう一つ。
それは、日向と仲がいい牧野と秋元がいたことだ。
―――まぁ、この二人が見舞いに来るのは自然な事か。
「色折が俺に何の用だよ。 ・・・俺に仕返しでも、しに来たのか」
「・・・いや、流石に今はそんなことしねぇよ」
―――違う、仕返しに来たんじゃない。
―――俺は真実を知りに来たんだ。
流石に今入院している日向に、仕返しをしたら可哀想だ。 それに卑怯だ。 そこまで結人は、悪い奴ではない。
扉を静かに閉め、ゆっくりと日向のいるベッドの近くまで足を進めた。
「日向・・・。 元気そうだな」
彼は怪我を負っているのにも関わらず、結人に対抗する気は相変わらずあるみたいだ。
―――まぁ、入院した程度で大人しくなっているわけねぇか。
「・・・お前はここへ何をしに来た」
日向は結人を睨むようにしてそう聞いてきた。 彼から聞いてくれた、折角のチャンス。 これを逃すわけにはいかない。
「お前・・・誰にやられたんだよ」
この発言をしたことに関しては、後悔なんてしていない。 日向の口から知っている名が出たとしても、絶対に驚かない。
「どうしてそんなことをお前に言わなきゃなんねぇんだ」
「いいから教えてくれ。 ・・・ソイツによって、俺がソイツをやり返しに行かなきゃだから」
「は? 意味が分かんねぇ」
「いいから教えてくれ!」
流石にここは病室のため、大きな声を出すのを控えた代わりにその言葉に力を込めてそう発言をした。 すると日向は――――次のような人物の名を、静かに口にする。
「・・・清水海翔だよ」
「・・・は?」
―――いや・・・誰だよ。
てっきり日向の口からは結黄賊の誰かの名が出ると思っていたため、聞き覚えのない名に呆気に取られてしまった。
―――何だ・・・結黄賊の奴じゃ、なかったんだ。
「知らねぇのか? 立川にいる奴はみんな知ってんぞ」
「いや・・・。 俺、立川に来てからそんなに長くねぇし」
「あぁ・・・。 そうか。 お前、横浜から来たんだったな」
結黄賊のみんなが横浜から来たということは、結人たち学年には結構広まっていたため、日向が知っていてもおかしくはない。
「誰だよ、ソイツ」
「立川では、喧嘩がすげぇ強いって有名な奴だ」
「どうしてソイツにやられたんだ」
「俺が自ら喧嘩を売ったんじゃねぇ。 ただ、ソイツが喧嘩をしているところに運悪く出くわして、そのまま巻き込まれただけだよ」
―――ッ、喧嘩に巻き込まれただけで病院送りにされたのかよ!
―――・・・有り得ねぇ。
―――つか、結黄賊以外に強い奴なんて、立川には存在すんのか?
結黄賊は横浜ではトップのチームだ。 だから結人たちが、ソイツ一人に負けるわけがない。
―――・・・いや、負ける気がしねぇ。
「何だよ、ソイツをやり返しに行く気か?」
「あぁ? んなわけねぇだろ。 つか日向のためにわざわざ仕返しに行くとか、そんなことしたくもねぇ」
―――でも・・・本当によかった。
―――結黄賊のメンバーじゃなくて。
―――これからはちゃんと、みんなのことを信じないとな。
―――・・・今回疑ってしまった俺のことを、みんなは許してくれんのかな。
聞きたいことも日向から聞けたため、軽く挨拶を交わし病室から出ようとした。 だがあることを思い出し、結人は足を止め日向の方へ振り返る。
「あ・・・。 そういやさ、日向はいつ退院するんだ?」
「明後日だよ」
「てことは・・・」
「明々後日には学校へ行く」
―――ふーん・・・。
―――そうか。
―――じゃあ、まだ結構時間はあるんだな。
「そっか。 んじゃ、俺帰るわ。 ・・・お大事にな」
心にも思っていないことを日向に向かって冷たくそう言い放ち、病室から出る。
出ると、未来と悠斗が病院の前で待っていてくれていた。
「あれ、どうしてお前らこんなところにいんだよ」
「日向に誰にやられたのか、聞いてきたんだろ?」
「本当はユイに全て任せようかと思っていたけど、やっぱりできなくてさ。 で、誰だって?」
―――何だ、そのことか。
「清水海翔って奴だってさ。 まぁよかったわ、俺たちメンバーの奴じゃなくて。 少しでも疑った俺が悪い。 って・・・おい、どうした?」
結人が“清水海斗”という名を口にしたら、二人は同時に青ざめた顔をする。 理由を聞くと、伊達からソイツのことについて丁度今日聞いていたらしい。
伊達いわく“立川最強”
結人たちよりも強い奴が、本当に立川に存在するというのだろうか。
―――・・・だとしたら、厄介だな。
「・・・まぁ、どうせ俺たちの方が強いっしょー」
結人が難しく考えているのをよそに、未来は陽気な声でそう口にした。
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