心の交差。

ゆーり。

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うそつきピエロ。

うそつきピエロ㉔

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未来たちとは解散し、結人はコウを連れてスーパーへと来ていた。
「今日は何を作ってくれんのー? つか俺にだけ作ってくれるって、何か照れるー」
今日はコウが結人の家で晩御飯を作ってくれるらしい。 お礼、だと。 血に染まりきったパーカーは、流石にそれを着て公衆の前には出れないため脱いでおいた。
―――洗濯するにも血が他の服に移りそうだし、新しいパーカーでも買おうかな。
「何気持ち悪いことを言ってんだよ。 まぁー・・・今日はレバニラ炒めにでもしようかな。 ユイの貧血を防ぐために」
コウは結人に向かって、笑いながらそう言った。 

コウと二人きりで行動するのは今日が初めてだと言ってもいい。 いつも彼は優と一緒にいるため、そのうちの片方の仲間と行動を共にすることなんて滅多になかったのだ。 
だから今日は、何処か特別な感じがする。 

そして家へ着き、コウは早速夕食を作ってくれた。 彼は料理が得意なため、作り始めてすぐに出来上がる。 そしてその料理を、結人のもとへ持ってきてくれた。
「お待たせ。 たくさん作っておいたから、残ったものは藍梨さんと一緒に食べて」
「あぁ、悪いな。 藍梨も肉食わなくて貧血気味だから、助かるわ。 んじゃ、いただきまーす!」
そう言って、一口。
「・・・んっ! めっちゃ美味い! これ食えてよかったわー、俺今マジ幸せ!」
「そんなに急いで食うと、詰まらすよ?」
笑いながらそう言うコウの発言を無視し、結人はあっという間に晩御飯を平らげた。 
―――こんなに美味いもんを優は何度も食っているわけだもんなぁ、羨ましい限りだ。

夕食を終え互いに気持ちが落ち着いてきたところで、コウに向かって本題を持ちかけてみる。
「コウ。 ・・・コウがもう俺たちについたから、日向の件は既に解決しているんだ」
「解決?」
「そ。 だってコウ、日向にやられていることをいじめだとは思ってなんかいなかったんだろ? これは完璧ないじめなのにさ。
 ・・・でも、今のコウなら『俺は日向にいじめられている』って、言えるだろ」
「・・・」
その発言を聞いてコウは黙り込むが、結人はそんな彼にはお構いなしに言葉を続けた。
「別に無理して“今すぐコウ自身が変わってほしい”だなんて、思ってなんかいない。 少しずつでいいんだ。 
 少しずつでいいから、俺たちにコウの本当の心を打ち明けてくれればいい。 俺らはずっと待っているからさ。 コウから言ってくれんのを。 もちろんゆっくりでいいよ。 
 別に焦らそうだなんて思ってねぇから、難しく考えなくて大丈夫だからな」
「・・・ん、ありがとう」
そう言ってコウは、優しく微笑み礼を言う。
「じゃあ・・・コウはいじめられているっていうこと、今のコウなら認めてくれるか?」
彼はすぐには返事をしてくれなかったが、しばらく待っていると小さく頷いてくれた。
「ありがとな。 ・・・でも、コウがこうなっちまったのは、元はと言えば俺のせいなんだけどな」
「は? どうしてユイのせいになるんだよ」
「一番最初の出来事を思い出してみろよ。 ・・・日向は、俺のことが嫌いで俺の仲間に手を出し始めたんだぜ」
そう――――全ては結人のせいなのだ。 結人が存在するせいで日向は怒り、仲間にまで手を出し巻き込んでしまった。 

―――・・・でも、俺にどうしろと言うんだ。

「それは違うよ」
「え?」
コウがいきなり、否定の言葉を述べる。
「・・・ユイは悪い奴なんかじゃない。 ただ日向は、何でもできていつも仲間に囲まれているユイに、嫉妬しているだけなんだよ。 ・・・そうとしか、俺は考えられない」
「んー・・・。 そうかな」
「そうだよ。 ・・・マイナスな方向へ考えるんじゃなくて、そう考えて?」
そう言って、コウは苦笑をこぼした。 結人もそんな彼につられて、軽く苦笑いをする。
「あぁ、そうだな。 それじゃあ明日、早速先生に報告しよう。 ・・・日向のことを」
「おう」
これでコウは完全に、結人たちの方へついた。  
―――日向、今回もお前の負けだよ。 
―――日向には、俺たちの関係を壊すことなんて絶対にできないんだ。

そしてもう一つの話を、ここで切り出す。
「そういやさ。  どうして日向は、コウをいじめの標的に選んだんだろうな」
「え? ・・・さぁ」
分かっていない彼に対し、結人は自分の意見を述べた。
「俺思うんだけどさ。 日向の奴、コウは自分を犠牲にする奴だっていうことを知っていて、コウを選んだんじゃないかなって思うんだ」
「ん・・・?」
「まぁ、俺も分かんねぇけどな。 そんな気がするだけだ。 もしそうだったら、マジで日向の野郎ムカつくなって」

―――どうして・・・よりによって、コウを選んじまったのかなって。

だが今は、そうは思わなくなった。 コウの心を変えるいい機会だったのだ。 だからそのことに関しては、少しだけ日向に感謝しよう。

―――だけど俺は、日向のことを簡単には許さないよ。 
―――・・・まぁ、俺以上に優の方が、一番腹が立っているだろうけどな。 
―――・・・日向にさ。 
―――そりゃそうか。 
―――優の一番大事なダチ、コウを標的に選んだんだ。 
―――これは日向がいけない。 
―――コウ以外の奴を選んでいたら、まだよかったのにな。 
―――・・・日向の奴、可哀想に。

「俺さ」
突然コウが口を開いた。
「ん? 何だよ」
「・・・俺、明日優に謝るよ」
「・・・」

結人はこの時、何を思ったのだろうか。 嬉しかったんだろうか、悲しかったんだろうか。 それとも――――複雑な感情を、持ち合わせていたのだろうか。
コウが優に自ら謝りに行くのはいいことだ――――だけど何故か、コウに同情してしまう。 優自身も苦しかっただろうが、コウ自身も相当苦しかっただろう。
今の優の状態で、コウから会いに行ったら彼は何と思うのだろうか。 嬉しいのか、それとも“もう関わりたくない”と思うのか。 二人の仲、戻ってほしいとは思うけど。
その前に――――優の今の状態を、コウは知っているのだろうか。 だがコウのことだから、自ら優を引き離しても、ずっと遠くから彼のことを見ていたのだろう。
コウは、そういう少年だから。 なら、優が傷だらけになっているのを見て何と思ったのだろう。 自分のせいだと思って、自分を責めたりしたのだろうか。

―――・・・まぁ、いいや。 
―――二人のことなんて、俺には分かりやしない。 
―――きっと真宮だって、二人のことはよく分からないだろう。

―――・・・だって二人は、自分よりも互いのことの方が、一番知っているんだから。

「おう。 応援しているよ」
結人はコウに向かってそう言って、優しく微笑みかけた。


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