139 / 365
うそつきピエロ。
うそつきピエロ㉓
しおりを挟むこの時未来は、何も言葉を発さずに二人のやり取りを黙って見ていた。 あんな言葉、自分では言えやしない。 結人だからこそ言えたことだ。
もしかしたら、優でもコウの心を動かすことができたのかもしれないが。
―――いや、そんなことより・・・。
「いやー、これで一件落着だねー」
「・・・コウの泣いている姿、初めて見た」
「え?」
コウが涙を流す姿があまりにも衝撃的過ぎて、未来は真宮の発言をスルーし自分の気持ちを素直に口に出してしまった。
「・・・コウは泣くの、初めてなのか?」
真宮はその言葉を聞いて、そう尋ねてくる。
―――・・・そっか、真宮は中学校の頃一緒じゃなかったもんな。
「まぁ・・・。 俺の見ている限りではな。 もしかしたら、優ならコウの泣いている姿を・・・過去に見たことがあるかもだけど」
「あぁ、優か・・・。 まぁ、よかったよな。 コウの心を縛っていた何かが、ユイによって解き放たれたんだからさ」
「そうだな」
―――・・・何だ、コウでもちゃんと涙を流すことができるじゃないか。
―――喧嘩ではいつも強くて、俺たちを後ろから見守ってくれている立場だったけど・・・本当は今まで、苦しかったんだな。
―――まぁ、そんなコウの心に気付けなかった俺も、悪いけど・・・。
「コウ! ユイ!」
「ん?」
未来は声がした方へ振り返る。 そこにいたのは、北野だった。 彼が何故か、未来たちの後ろから走ってこちらへ向かってきている。
「北野? そんなに急いでどうしたんだよ」
「北野は俺が呼んだんだよ」
そう言ったのは真宮だ。
―――そうか、ユイの手当てがまだだったか。
「北野・・・。 わざわざ来てくれて、さんきゅーな」
「いいよ。 ユイ、手を見せて? あ、コウは怪我とかない?」
北野は結人のもとへ駆け寄り、すぐに彼の手当てをし始めた。 未来もそんな3人に近付き、北野に尋ねる。
「北野、ユイは病院とかへ行かなくても大丈夫なのか?」
「まぁ・・・。 一応、出血だけだからね。 身体の方の傷もそんなに深くはないし、風呂に入る時少し滲みるくらいかな。 でもちゃんと傷の消毒はするから。
・・・っと、左手の出血はこれで一応抑えられたけど・・・血は補給しないとね。 だから、今日は血になる食べ物とか・・・」
―――んー、食べ物か・・・。
そこで未来はあることを思い付いた。 これは我ながらにいい考えだと思う。
「ユイ、俺いいことを思い付いたぜ!」
「ん? いいこと?」
「今日さ、コウをユイん家に泊まらせてやってよ」
「まぁ、俺はそれでもいいけど」
「いや、でもそれは・・・」
そう拒んだのは、当然コウだ。 そんな彼を見て、未来は優しく言葉を紡ぎ出す。
「・・・コウは、ユイん家に一度も泊まったことがねぇんだろ? 折角のチャンスだし、泊まってこいよ。 そんで、ユイにスタミナ料理でも作ってやれ」
そう――――コウは一度も、結人の家に泊まったことがない。 みんなの身に何かしらの事件が起きて仲間が危険な状態になったら、結黄賊の誰かの家に必ず泊めていたのだが――――
コウはあんな性格だ。 自分が苦しい目に遭っても誰にも相談しないため、誰かの家になんて泊まったことがなかった。
当然、優の家には事件とは関係なしに、泊まったことがあるのだが。
―――いい機会だろ、ユイの家に泊まらせるの。
「・・・コウ、俺ん家来るか? 俺は、大歓迎だぜ」
結人はそう言うが、コウはまだ拒んでいるようだ。
―――・・・あ!
―――もう一ついいことを思い付いた。
結人の言葉に続けて、未来も笑顔で物を口にする。
「そうだよ、行ってこいよコウ! だから今日、藍梨さんは俺ん家で預かる!」
「は?」
真宮が隣で変な目で見てくるが、そんなことは気にしない。
―――コウはユイの家に泊まって、その間藍梨さんを俺ん家に泊めさせる。
―――もう俺幸せじゃん!
―――コウも幸せじゃん!
―――もう最高!
そして――――顔がにやけて胸がドキドキワクワクしている未来に対し、結人は冷静さを保ったまま冷たく言い放った。
「あー、悪い。 藍梨なら、とっくに夜月に任せているから」
「ん・・・。 はッ!? おいおい、今更それはないだろ!」
「だーれが未来なんかに任せるかッ! 未来に藍梨を任せられるのは、まだまだ先だな」
そう言って、彼はいたずらっぽく笑う。
―――・・・ちッ。
―――やっぱ、ユイにも敵わねぇな。
そんな笑顔を見せてきた結人に、未来は苦笑いをしながら軽く溜め息をついた。 そして――――最終的にコウは、今日結人の家に泊まることになった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる