心の交差。

ゆーり。

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うそつきピエロ。

うそつきピエロ㉑

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同時刻 路上


その頃、悠斗は優を連れて帰宅をしていた。 優は先程からずっと俯いたままで、何も言葉を発しようとしない。 彼は今、何を思っているのだろうか。 
何を考えているのだろうか。 放課後に優を任せられる前、結人から悠斗宛にメールが来ていた。 その内容は、今の優の状態について。
彼の身体には今、アザや傷がたくさんあること。 コウをずっと見守っているのが苦しくて、自分自身を傷付けていたこと。 リストカットをしようとしていたこと。 他――――

―――リスカをしようとした、って・・・優は、コウのこと飽きてしまったのかな。

「今日」
「え?」
優は突然、口を開いた。 悠斗は少し驚くが、何とか冷静さを取り戻し彼から出る次の言葉を静かに待つ。
「今日、ユイは何かあるの? ユイは、どこへ行ったの?」
「・・・ごめん。 俺もそれについては、聞かされていないから分からない」
「・・・そっか」
これは事実だ。 あんな緊迫とした空気の中『ユイはどこへ行くんだ?』と尋ねることなんてできやしない。 ただ“ユイの言う通りにしないといけない”と思ってしまったのだ。

そして、二人の間には沈黙が流れた。 だがこの気まずい空気には耐えられず、勇気を振り絞って優に話を持ちかけてみる。
「優はさ。 ・・・今コウのこと、どう思っているの?」
「え?」
「もう、コウとは口を利かなくなってから一週間が経つんだろ?」
この情報も、結人から聞いたことだ。
「・・・」
―――何も言わない・・・か。 
そんな彼に対し、悠斗は更に問い詰めてみた。
「“俺の言うことを聞かないコウなんて、もう知らない”って、思ったりした?」
この考えが合っているのかは分からない。 だが悠斗は、結人から教えてもらった彼の今の状態を聞いて、そういう結論に至ったのだ。
そしてしばらく優の発言を待っていると、彼は静かに話し始める。
「・・・最近は、そう思い始めている。 ・・・もう、俺は疲れたんだ」
―――・・・だろうな。 
―――だと思った。 
もう既に疲れ限界を感じている彼に、悠斗も同情してみた。

「そっか。 苦しいよな。 確かにコウは“自分勝手な奴だ”って、俺だって思うよ。 結黄賊の中で一番!」

「え」
少し驚いている優を見て、より力強く言葉を発してみる。

「コウと一番仲がいい優までを突き放して“アイツは一体何を考えているんだ”って思う」

「・・・おい」
流石にこれ以上強いことは言えないと思い、今度は優しい口調へ戻してゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「まぁ、優がコウに何て言われたのかは俺には分からないけどさ」
「?」
「もしコウが、優のためを思ってそういう発言をしていたらどうする?」
「それは・・・どういう意味?」
「つまり、酷い目を遭わせないようにわざと優を離れさせようとしていたら?」
「・・・」
そう言うと、彼は黙り込む。 

―――でも俺は知っているよ、優はそういう奴だっていうこと。

続けて、優に向かって口を開いた。
「優のことだ。 今俺が言ったこと、本当は最初思ってはいたんだろ」
「・・・」
優は未だに言葉を発しない。 そんな彼をよそに、話を続けた。
「だけど最近の優は、そんな気持ちがなくなってきている。 それはコウのせいかもしれないけど、色々なことが優を追い詰めたせいで、優の本当の心が消えかけているんだ」
「・・・」
一度悠斗は歩いている足を止め、優と向き合った。 そして彼ときちんと目を合わせ、ゆっくりと言葉を綴っていく。

「それに優も今、心の何処かで思っているはずだ。 コウは俺たちを巻き込ませないように遠ざけている。 今でもコウは、日向にやられているのかもしれない。
 だから、今すぐにでもコウのもとへ行って助けなきゃ・・・って」

「・・・悠斗」

そう言うと、優は今にも泣きそうな顔をしながら悠斗の名を小さく呟いた。 彼の心を、少しでも動かすことができたのだろうか。 
彼の本来の気持ちを、少しでも取り戻すことができたのだろうか。 優の身体を見ると、今にでも動きたそうにむずむずしている。 
今すぐにでも、コウのところへ行きたいというような――――

―――本物の優は、これで戻ってきたかな。 
―――優はそうでなきゃ。 
―――そうでなきゃ・・・優じゃないよ。

「優? ・・・分かっているよ、コウのところへ行きたいんだろ? でも、今は我慢してほしい」
「え・・・?」
悠斗は今、結人から『優を見ていてほしい』と頼まれているのだ。 だから今優を、勝手に行かせるわけにはいかない。
そして悠斗は申し訳ない気持ちを表情に出しながら、彼に向かって口を開く。
「優をこのまま行かせたら、俺・・・ユイに怒られるからさ」
そう言うと、優はいつもの優しい表情で笑ってくれた。 みんなを癒してくれるような相変わらずの笑顔を、今は悠斗にだけ見せてくれている。 
彼の笑顔を見るのは、久しぶりだった。 

「ははッ。 そうだよね、ユイに怒られちゃうもんね。 ・・・分かった。 明日、コウと話すよ」


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