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うそつきピエロ。
うそつきピエロ⑱
しおりを挟む放課後
まず結人は、2組へ行き優のもとへ。 そしてそのまま彼を連れて、悠斗のもとへと向かった。
「じゃあ優。 悠斗に任せるけどいいか?」
その言葉に優が小さく頷くのを確認し、悠斗の方へ身体を向けた。
「悠斗、あとは頼んだぜ。 もし何かあったら、すぐに連絡してな」
「あぁ、分かった」
結人は悠斗に優を任せ、その足でコウの家へ向かうことにした。
―――そういや・・・コウに何て言うか、考えていなかったな。
というより、何と言えばいいのか未だに分からなかった。 だがとりあえず、コウを挑発するような発言はしないこと。 コウに対して怒らないこと。
そして――――ありのままのコウを受け入れること。 そう、それだけだ。
結人はこの間、優と一緒に留まっていた場所まで来た。
―――優いわく、ここでコウはいじめられていたと言っていたけど・・・。
―――・・・ん?
―――そこに誰かいんのか?
コウがいじめられていたという場所から、ふと誰かの声が耳に届いてきた。 どうやら独り言ではないようだ。 誰かに向かって、話しかけているような口調だが――――
結人は恐る恐る、声のする方へ足を進めていった。 だが突然自分が現れても危険だと思い、ひっそりと身を潜めながら。 そこで見たものは――――日向の姿。
だけど今いるここの角度からして、彼しか見えない。 日向が丁度結人の方へ身体を向けているため、彼の表情は何とか確認できた。
とても楽しそうで、ニコニコしながら目の前にいる者に話しかけている。 だが話の内容は聞こえなかった。 耳を澄ましても、日向の声が小さくて何も聞こえない。
それに彼が今誰と話しているのかも、結人のいる角度からはギリギリ見えなかった。
―――もしかして、ここにいるということは相手はコウなのか?
―――・・・くそッ、日向の姿しか見えないから何も動けないじゃないか!
どうしようかと迷い、しばらくここで留まっていると――――日向の背後から、ゆっくりと未来が現れる。
―――・・・未来?
―――どうして・・・未来がここに?
彼は日向から3メートル程離れたところまで近付き、その場に止まった。 未来の表情までは遠くてあまり見えないが、きっと険しい表情をしているのだろう。
「おい日向! ・・・お前、そのナイフで今から何をしようとしてんだよ」
―――は?
―――ナイフ?
先程背中に持っていった日向の片手には、ナイフが隠されているというのだろうか。 あまりにも自然な動作だったため、気付くことができなかった。
未来の声は普段通り大きな声で発言をしてくれているため、結人にはちゃんと聞こえている。
「・・・そのナイフで、今からコウを痛め付けるんじゃねぇだろうな」
―――・・・は?
―――そこには、やっぱりコウがいんのか。
―――日向の目の前にはコウがいて、日向はこれからコウを刺そうとしているのか?
この時日向は、未来に何かを言っているようだ。 だが相変わらず彼の声は小さくて、結人の耳には届いてこない。 だから、しばらく彼らの様子を見ていることにした。
二人を観察していると、日向はナイフをコウの目の前にゆっくりと突き出したのが見える。 そして――――もう片方の手を、ゆっくりと動かし始めた。
それはポケットの中へ入っていき――――そのまま何かを取り出す。 そのモノは――――カッターだ。
もう片方の手に持っているカッターを、今度はコウではなく未来の方へ向けた。 もちろん身体は、コウに向けたまま。
日向は未来がいる後ろをチラチラと確認しながら、両手をそれぞれに向けたのだ。 そして――――その態勢のまま、コウの方へゆっくりと歩き出す。
―――おい・・・日向、お前何をしようとしているんだよ。
次に日向はナイフを持った手を、適当に振り回し始めた。 それも――――速く、狂ったように。 もっと言うならば、扇風機の羽が刃となっている状態。
更に言えば――――刃が剥き出しの扇風機。 それを目にしている未来は止めたそうに、身体をむずむずさせている。
だけどこのまま未来が日向に向かって突進すると、日向はカッターを持っているため未来を傷付けてしまう可能性があった。 だから彼は、あの場から動けずにいるのだ。
だがそんな未来に対し、コウは――――
「おい・・・! コウ、逃げろよ・・・」
コウは、動いていないようだ。
「・・・コウ! 危ねぇから早く逃げろ!」
コウが――――危ない。 結人は我慢できずに“日向に見つかってもいい”という覚悟で身を少し乗り出した。 コウの状態が、見えるところまで。
そして――――結人が見た日向とコウの距離は、残り一メートルとなっていた。
「コウ早く逃げろよ!」
未来が泣きそうな顔でコウに向かって叫んでいる。 もう迷っている暇はない。 未来は動きたくても動けないのだ。 それにこのままだと――――コウがやられる。
その瞬間――――結人の脳には、危険信号が送られた。 その反応で――――結人の身体は勝手に、コウのもとへと全力で走っていた。
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