心の交差。

ゆーり。

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うそつきピエロ。

うそつきピエロ⑪

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未来は牧野たちのもとへ、悠斗はコウのもとへと行っている間、結人と優はとある場所まで来ていた。
結人は優が歩いていくのを、後ろから何も言わずに付いていく。 そして、もう少しで優の家に着くといったところで彼は何も言わずに立ち止まった。
互いに何も言葉を発さず、黙ってこの場にしばし留まる。 

そして――――ここへ来てから、早3、4時間が経った。 未だに特に何も起こらないし、人も誰も通らない。 
―――ここに何があるっていうんだ?
そのような疑問を抱いていると、優は静かに口を開いた。
「・・・来ない」
「え?」
「・・・コウが、来ない」
何のことだろうか。 
―――コウとここで待ち合わせをしている・・・ってことではないよな?
その発言について詳しく聞こうとすると、彼はこの場から立ち去ろうとした。
「おい優。 どこへ行くんだよ」
そう尋ねると優は足を止め、結人の方へゆっくりと顔だけを向けて小さな声で答える。
「・・・コウの家」
今から彼は、コウの家に行こうとしている。 だったら自分も付いていくしかない。 
―――ここで優を、放ってはおけない。

そして二人は何も会話せず、コウの家の前まで来た。 結人にとってはコウの家に用事があって来るのは初めてだが、優にとっては何度もこの場所に訪れていることだろう。
滅多にないこの状況に緊張を隠せずにいたが、優はそんな結人をよそにチャイムを鳴らした。 だが――――しばらく待っても、返事はない。 
だけど先刻このアパートの前を通る時、コウの部屋に明かりがついていることを確認していた。 ということは、彼は居留守を使っているのだろうか。 
どうして優に対して、そんなことをするのだろう。 そう一人で考え込んでいると、目の前にいる少年が周りのことはお構いなしに突然声を張り上げた。
「コウ、いるんでしょ? 出てこいよ!」
そう言うが、やはりコウは出てこない。 それでも優は、彼に対して自分の思いを紡ぎ続けた。

「ねぇ、コウ。 コウが何と言おうとも、俺は諦めないよ。 やっぱりコウを一人にしてはおけない。 そんなことは俺が許さない。 コウは今、苦しいんでしょ? 
 泣きたいくらい、苦しいんでしょ。 ・・・じゃあ何で、俺に言ってくれないんだよ。 もし言ったら、迷惑がかかるとでも思った? その考えは間違っているよ。 
 俺がコウに頼られて『迷惑だ』って、言うと思う? 言わないだろ。 言うわけがない。 だから、いつでもいいから俺に言ってよ。
 コウの言うこと、全て受け入れる。 それに俺は、コウに何を言われても諦めない。 だから、自分の心の準備ができたらでいい。 
 できたらでいいから、その時は俺を頼ってほしい。 コウは・・・そんなに俺のこと、信用できない?」

優は泣くのを必死に堪え、最後までそう言い終えた。 二人の間で何があったのかは、今の会話だけでは結人には分からない。
結人もコウに何かを言ってあげたいとは思ったが、場違いの発言はしたくないため、ここは素直に黙っておくことにした。 

そして――――優が言い終え、少しの時間が経つ。 未だにコウからの返事はない。 
“やっぱり、今家にいないのか”と、思ったその時――――コウの震えるような小さな声が、ドア越しから聞こえてきた。
「・・・しろよ」
「・・・え?」
突然彼の声がかすかに耳に届いたが、何を言っているのか聞き取れず優は聞き返す。 すると――――コウは突如、優に向かって声を張り上げた。

「いい加減にしろよ! 何度も何度も俺に関わってきて、鬱陶しいんだよ! もうしつこい!!」

―――ちょ、何を言ってんだよ、コウ・・・。 
―――相手は優だぞ? 
―――そんな発言、優に対して言ってもいいとでも思ってんのかよ・・・ッ!
結人がコウの発言に驚いているのと同時に、優はとても悲しそうな表情をしていた。 目には涙が溜まっている。
だけど――――そんな寂しそう顔とは裏腹に、優も彼に対抗して声を張り上げた。

「じゃあもういいよ! 一人で何とかする。 コウになんて、もう二度と頼まねぇよ!!」

それだけを言い捨て、優はこの場から離れてしまった。 結人はすぐに追いかけようとしたが、コウに何か一言だけでも言っておきたくて、この場に少し居座る。
―――どうしてコウは、こんな風になっちまったんだよ。 
―――優とコウの間で何があった? 
―――お前らは、こんなに残酷な関係じゃなかっただろ!
「・・・コウ。 頼むから、優だけは悲しませんなよ」
コウを気遣い静かな口調でそう言うと、彼はその発言をちゃんと聞いてくれたらしく、こう答えた。 
コウが発したその言葉は――――彼の今の精一杯な気持ちが、とてもこめられているものだった。

「だったら・・・悲しませたくなかったら、もう優を俺に近付けさせないでくれ」

「・・・」

結人はその言葉を最後まで聞き、静かにこの場から離れた。 もちろん行く先は――――優のところだ。


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