127 / 365
うそつきピエロ。
うそつきピエロ⑪
しおりを挟む未来は牧野たちのもとへ、悠斗はコウのもとへと行っている間、結人と優はとある場所まで来ていた。
結人は優が歩いていくのを、後ろから何も言わずに付いていく。 そして、もう少しで優の家に着くといったところで彼は何も言わずに立ち止まった。
互いに何も言葉を発さず、黙ってこの場にしばし留まる。
そして――――ここへ来てから、早3、4時間が経った。 未だに特に何も起こらないし、人も誰も通らない。
―――ここに何があるっていうんだ?
そのような疑問を抱いていると、優は静かに口を開いた。
「・・・来ない」
「え?」
「・・・コウが、来ない」
何のことだろうか。
―――コウとここで待ち合わせをしている・・・ってことではないよな?
その発言について詳しく聞こうとすると、彼はこの場から立ち去ろうとした。
「おい優。 どこへ行くんだよ」
そう尋ねると優は足を止め、結人の方へゆっくりと顔だけを向けて小さな声で答える。
「・・・コウの家」
今から彼は、コウの家に行こうとしている。 だったら自分も付いていくしかない。
―――ここで優を、放ってはおけない。
そして二人は何も会話せず、コウの家の前まで来た。 結人にとってはコウの家に用事があって来るのは初めてだが、優にとっては何度もこの場所に訪れていることだろう。
滅多にないこの状況に緊張を隠せずにいたが、優はそんな結人をよそにチャイムを鳴らした。 だが――――しばらく待っても、返事はない。
だけど先刻このアパートの前を通る時、コウの部屋に明かりがついていることを確認していた。 ということは、彼は居留守を使っているのだろうか。
どうして優に対して、そんなことをするのだろう。 そう一人で考え込んでいると、目の前にいる少年が周りのことはお構いなしに突然声を張り上げた。
「コウ、いるんでしょ? 出てこいよ!」
そう言うが、やはりコウは出てこない。 それでも優は、彼に対して自分の思いを紡ぎ続けた。
「ねぇ、コウ。 コウが何と言おうとも、俺は諦めないよ。 やっぱりコウを一人にしてはおけない。 そんなことは俺が許さない。 コウは今、苦しいんでしょ?
泣きたいくらい、苦しいんでしょ。 ・・・じゃあ何で、俺に言ってくれないんだよ。 もし言ったら、迷惑がかかるとでも思った? その考えは間違っているよ。
俺がコウに頼られて『迷惑だ』って、言うと思う? 言わないだろ。 言うわけがない。 だから、いつでもいいから俺に言ってよ。
コウの言うこと、全て受け入れる。 それに俺は、コウに何を言われても諦めない。 だから、自分の心の準備ができたらでいい。
できたらでいいから、その時は俺を頼ってほしい。 コウは・・・そんなに俺のこと、信用できない?」
優は泣くのを必死に堪え、最後までそう言い終えた。 二人の間で何があったのかは、今の会話だけでは結人には分からない。
結人もコウに何かを言ってあげたいとは思ったが、場違いの発言はしたくないため、ここは素直に黙っておくことにした。
そして――――優が言い終え、少しの時間が経つ。 未だにコウからの返事はない。
“やっぱり、今家にいないのか”と、思ったその時――――コウの震えるような小さな声が、ドア越しから聞こえてきた。
「・・・しろよ」
「・・・え?」
突然彼の声がかすかに耳に届いたが、何を言っているのか聞き取れず優は聞き返す。 すると――――コウは突如、優に向かって声を張り上げた。
「いい加減にしろよ! 何度も何度も俺に関わってきて、鬱陶しいんだよ! もうしつこい!!」
―――ちょ、何を言ってんだよ、コウ・・・。
―――相手は優だぞ?
―――そんな発言、優に対して言ってもいいとでも思ってんのかよ・・・ッ!
結人がコウの発言に驚いているのと同時に、優はとても悲しそうな表情をしていた。 目には涙が溜まっている。
だけど――――そんな寂しそう顔とは裏腹に、優も彼に対抗して声を張り上げた。
「じゃあもういいよ! 一人で何とかする。 コウになんて、もう二度と頼まねぇよ!!」
それだけを言い捨て、優はこの場から離れてしまった。 結人はすぐに追いかけようとしたが、コウに何か一言だけでも言っておきたくて、この場に少し居座る。
―――どうしてコウは、こんな風になっちまったんだよ。
―――優とコウの間で何があった?
―――お前らは、こんなに残酷な関係じゃなかっただろ!
「・・・コウ。 頼むから、優だけは悲しませんなよ」
コウを気遣い静かな口調でそう言うと、彼はその発言をちゃんと聞いてくれたらしく、こう答えた。
コウが発したその言葉は――――彼の今の精一杯な気持ちが、とてもこめられているものだった。
「だったら・・・悲しませたくなかったら、もう優を俺に近付けさせないでくれ」
「・・・」
結人はその言葉を最後まで聞き、静かにこの場から離れた。 もちろん行く先は――――優のところだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる