123 / 365
うそつきピエロ。
うそつきピエロ⑦
しおりを挟む優は上履きから外靴に履き替え、走って正門へと向かった。 もちろん行く先はコウのところだ。 もっと言うならば――――彼がいじめられていた、あの場所。
今まで二回コウがいじめられているところを発見したが、そこは両方共同じ場所だった。 そして時刻も同様、20時前後。
だったら、自分が先にその場へ行って彼らを待ち伏せしていればいい。 だがコウか日向、どちらが先に来るのかは分からない。
もし日向が先に来たら、彼の目の前に立って言ってやるのだ。 『もうコウをいじめるな』と。 それでもいじめを止めないと言うのなら、直接手を出せばいい。
日向と優だったら、優が勝つのは既に目に見えているのだから。 流石に彼も優にやられたら、懲りて今後コウには手を出さないだろう。 これでもう――――終わるのだ。
そして優は、目的としていた場所へ着いた。 時刻は16時。 他に用事もないため、ここで4時間程待つことになる。
―――まぁいいだろう。
―――コウのためなら、4時間待つことなんてへっちゃらさ。
そして――――待つこと、3時間半が経過した。 先刻から優は、角に隠れてその場を監視している。
薄暗い路地のせいか、人はあまり通らず今のところコウや日向らしき人影も現れない。
―――・・・今日は、いじめられない日なのかな。
―――いや、いじめられない日って何だよ。
だけど、コウの顔に傷ができていたのは毎日ではなかった。 だから、日向にいじめられていたのは毎日ではないのかもしれない。
―――今日は来て、失敗だったのかな・・・。
そう思った瞬間――――突如、背後から聞き慣れた声が優の名を呼んだ。
「・・・優」
「ッ、コウ・・・」
後ろを振り向くと、コウは優の姿を見るなりまたもや溜め息をつき、こちらへゆっくりと近付きながら口を開く。
「優、何度言ったら分かるんだ。 どうして俺の言うことが聞けない」
「コウこそ、こんなところへ来て何をしようとしたんだよ。 コウの家は、ここから少し離れているでしょ?」
「そんなこと、今は関係ない」
「関係ある! ・・・ねぇ、コウ。 一緒に帰ろう? こんなところにいないでさ」
「俺はまだ帰らない」
「・・・また、日向にやられに来たのか」
「・・・」
そう口にすると、彼は黙り込んだ。
―――やっぱり・・・そうだったのか。
―――今からここで、日向にやられるんだ。
―――だったら早く、コウをこの場から離れさせないと。
「・・・優。 いいから帰れ」
「嫌だ。 俺はコウを守る」
「何だよ、守るって・・・」
「俺はコウに約束した。 “コウを守る”って」
「・・・優。 何も言わないから、早く帰ってくれ」
「日向が今からここへ来るんでしょ? だったら俺はいるよ。 コウの代わりに俺がここに残るから、コウが帰って!」
優の意志は、コウに何を言われようが変わらなかった。 そして、彼を守ってやりたいと思う気持ちも変わらない。
たとえコウが――――何と、言おうとも。
「・・・早く、帰れ」
彼はその言葉を、静かに繰り返して言うだけだった。 だが優はこんな状況に、負けたりなんてしない。
「コウはどうせ、いじめを認めてはくれないんでしょ! だったらコウは諦める。 その代わり、俺が日向を懲らしめるから」
「何だよ、その代わりって」
「コウが無理なら、俺は日向に食らい付くって意味だよ」
「・・・優」
「何を言っても無駄だよ。 俺は決めたんだ。 コウを守るって。 この気持ちに偽りなんてないし、変える気もない」
「優」
「『関わるな』って言われても、俺がコウを放っておくわけがない。 このことは、コウだって分かっているはずでしょ?」
「優」
「俺の言いたいことが分かったなら、早く帰って! 俺は今から日向と決着をつける。 だから、早くコウは」
「しつこいんだよ!!」
「なッ・・・」
―――・・・駄目だ。
―――耐えろ、耐えるんだ俺。
―――今は・・・泣くところじゃない。
「邪魔・・・すんなよ。 しつこいんだよ、優は」
コウは優から目を離さずにいた。 優も、そんなコウから目を離せずにいた。 ここでそらしたら、本当の負けだと思ったから。
―――俺は・・・負けたくない。
「コウに、そう言われても・・・。 俺は、諦めないから」
優は頑張ってその一言を口にした。 だけど、声は震えていた。 どうしようもないくらいに震えていた。
だけどそんな優に対し、コウは何一つ表情を変えずにこう呟き――――この場から、去っていってしまった。
「・・・優のそういうところ、俺は嫌いだ」
―――どう、して・・・。
この瞬間――――優は耐えられずに、涙をこぼしてしまう。 彼を止めることができなかった。 もしかしたら、これから日向に会いに行くかもしれないのに。
それなのに、彼を止めることができなかった。 最後に、彼の名を呼ぶことすらもできなかった。 優はコウを――――この時、初めて見捨ててしまったのだ。
怖くて足が動けなかった。 いつもの優なら、いじめが起きているとすぐにでも駆け付けていたのに。 なのに――――何故か今は動けなかったのだ。 どうしてだろう。
やはり――――彼に言われた言葉が原因なのだろうか。
『しつこいんだよ!!』 『・・・優のそういうところ、俺は嫌いだ』
こんな言葉、コウから言われるなんて思ってもみなかった。
いつもなら、彼はそんな優に対して『いじめられている子を助けるなんて、カッコ良いね』と、言ってくれるはずなのに。
―――あぁ・・・そうか。
―――コウも、今の俺と同じ気持ちを味わっていたのか。
―――俺がコウに“自己犠牲野郎”って言葉を・・・言った時みたいに。
だから優は動けなかったのだ。 “コウを助けてやりたい”という気持ちよりも、彼に言われた言葉のショックの方が大きかったのだ。
もう――――優には、コウを助けたいという気持ちは生まれないのだろうか。 本当に、このままコウを見捨ててしまうのだろうか。
―――もう俺にはどうすることもできないのか。
―――いや・・・。
―――そんなことを考えてしまう俺こそが・・・最低だ。
優が一人で泣きながら、しばらく動けずにその場でたたずんでいる時――――一人でその場を静かに去ったコウは、違う場所へと移動していた。
「・・・優、ごめんな」
そう小さく呟き――――無力な自分に不甲斐なさを感じながら、その場から離れていったのだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。
ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は
愛だと思っていた。
何度も“好き”と言われ
次第に心を寄せるようになった。
だけど 彼の浮気を知ってしまった。
私の頭の中にあった愛の城は
完全に崩壊した。
彼の口にする“愛”は偽物だった。
* 作り話です
* 短編で終わらせたいです
* 暇つぶしにどうぞ
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。
桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -
鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。
饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。
【本編完結】【番外小話】【小ネタ】
このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
※小説家になろうでも公開中※
雨上がりの虹と
瀬崎由美
ライト文芸
大学受験が終わってすぐ、父が再婚したいと言い出した。
相手の連れ子は小学生の女の子。新しくできた妹は、おとなしくて人見知り。
まだ家族としてイマイチ打ち解けられないでいるのに、父に転勤の話が出てくる。
新しい母はついていくつもりで自分も移動願いを出し、まだ幼い妹を含めた三人で引っ越すつもりでいたが……。
2年間限定で始まった、血の繋がらない妹との二人暮らし。
気を使い過ぎて何でも我慢してしまう妹と、まだ十代なのに面倒見の良すぎる姉。
一人っ子同士でぎこちないながらも、少しずつ縮まっていく姉妹の距離。
★第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。
【完結】学生時代に実った恋は、心に痛みを残した。
まりぃべる
ライト文芸
大学を卒業して、四月から就職した川村千鶴。大学で付き合っていた彼と、仲が良かったはずなのにいつの間にかすれ違い始めてしまう。
別々の会社勤めとなっても、お互い結婚すると思っていたはずなのに。
二人、新たな選択をするお話。
☆現実にも似たような言い回し、言葉などがあると思いますが、作者の世界観ですので、現実とは異なりますし関係ありません。
☆完結してますので、随時更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる