心の交差。

ゆーり。

文字の大きさ
上 下
111 / 365
みんなでキャンプ。

みんなでキャンプ⑤

しおりを挟む



現在 


「手分けして捜そうぜ。 もうすぐ暗くなるし」
「そうだな、そうしよう」
未だに戻ってこない藍梨たちが心配なため、結人は真宮のその意見に賛成した。
「じゃあ、ユイと伊達はここで待ってて! それでもし未来たちが戻ってきたら、連絡して!」
「あぁ、分かった! みんな電波が届くところにいろよ! それと、必ず二人以上で行動しろ!」
「「「了解!」」」
みんなが返事をし、バラバラになってこの場から離れていくのを最後まで見届ける。

―――・・・無事でいてくれよ。
―――藍梨、未来、悠斗。 

結人と伊達は特にすることもなく、家族連れの人が次々と帰っていくのをただぼんやりと眺めていた。
ここで藍梨たちのことを心配しても、今の自分は動いてもいないため意味がない。 だから3人が戻ってくることを、そして仲間が無事に戻ってくることを待つしかできなかった。
未だに何も話さず、少しずつ時間が過ぎていく中――――伊達は静かに口を開き、こう言葉を発する。
「・・・ユイ」
「ん? どうした」
「・・・どうして、みんなは俺に優しくしてくれるんだよ」
「え?」
―――何だよ、その質問。 
―――・・・みんなはそういう奴だから、答えようがないじゃないか。
その問いに何も返すことができず黙っていると、彼は続けて発言する。
「・・・ユイが、俺に優しくするようみんなに命令したのか?」
「は? 何だよそれ」
―――いや・・・待てよ。 
―――その言葉、どこかで聞いたことがあるような・・・?
―――・・・そうか。
―――藍梨に言われた言葉と同じか。 
―――俺が藍梨に、結黄賊みんなのことを紹介した後に言われたんだっけ。

結人が『みんなは藍梨のことを大切にしてくれるよ』と言ったら、藍梨は『そうみんなに命令したの?』と返してきたのだ。

―――何で、藍梨と伊達の言葉が重なるのかな。 
―――・・・こんな時に限って。 
そのことが気に食わなくて、少し伊達に八つ当たりするよう言葉を返す。
「俺はみんなにそんなことは言ってねぇよ。 それに命令もしてねぇ。 伊達は、みんなのことをそんなに信用できないのか」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「別にいいよ、無理しなくて。 伊達はまだ、俺たちと出会ってばかりだしそう思われても仕方ないからな」
「だから違うって!」
「じゃあどういう意味なんだよ」
冷たい口調でそう言い放つと、彼は少し困ったような表情をした。
「・・・ただ、俺がみんなと交ざってこの場にいて、迷惑じゃないのかなって」
―――・・・そっか。 
―――伊達は、みんなが伊達に対して異様に優しくしてくれるから、違和感を感じていただけなのかな。
そんな彼に、気持ちを切り替えて明るい口調で言葉を綴る。
「そう思いながらダチの関係を保つドロドロとした友情は、女だけだっつーの。 俺たちは男だぜ? そんな難しいこと、考えんなよ」
「・・・」
何も言おうとしない伊達に、結人は続けた。

「それに、俺たちは伊達がいて迷惑だなんて思っていない。 寧ろ歓迎する。 いて迷惑な奴を、キャンプになんて誘わねぇよ。
 ・・・俺たちには、伊達みたいな存在も必要だからさ」

最後の発言に伊達は再び困った表情を見せたが、それは一瞬にして消え去った。 彼はその言葉を聞いて安心したのか『そっか』と言いながら微笑んでくれる。
その時――――聞き慣れた声が、ふと遠くから耳に届いた。

「結人ー!」

―――え・・・? 
―――藍梨?
声のした方へ振り返ると、そこには藍梨がこちらへ向かって走ってくる姿が目に入った。 彼女の後ろには、未来と悠斗もいる。 
―――・・・あれ、未来はどうしてあんなに服が汚れてんだ?
「俺、みんなに連絡するよ」
「あぁ、ありがとう」
伊達に“見つかった”という連絡を任せ、結人は彼女のもとへと走った。
「藍梨! 無事だったか? 心配していたんだぞ」
「ごめんね? でも楽しかったよ」
「楽しかった?」
藍梨と会話をしていると、未来と悠斗も遅れてやって来た。 そして悠斗から口を開く。
「遅くなってごめん。 電波も届かなかったみたいだね、藍梨さんの携帯にたくさん連絡がきていたみたいだけど」
「みんなはー?」
「みんなはお前らを捜しに行ったよ。 つか、今までどこへ行っていた」
「これは全部未来が悪いんだ」
「未来が?」
そのことについて、悠斗に詳しく聞いてみた。 未来は彼らの後ろでふてくされた態度をとっているため、話が聞ける状態ではないと思ったからだ。
「3人で歩いていたらさ。 未来が突然『出たー!』とか言いながら、一人で騒ぎ出して。 何が出たのか聞き出そうとしたら、走ってどこかへ行っちゃったんだよ。
 それで未来がいなくなって、追いかけて捜そうとしたら、俺と藍梨さんの目の前に突然白いワンピースを着た小さな女の子が現れてね。
 だからきっと、未来はその子を幽霊だと思って勘違いしたのかなって」
「勘違いじゃねぇ! あれは本物だ!」
「本物じゃないって。 あの後、女の子の後ろから家族が付いてきていただろ」
「そんな家族、俺は見てねぇ」
「未来が走ってどこかへ行った後に来たんだよ」
「でもアイツは地面から浮いていた!」
「浮いていないから」
悠斗は身体を結人の方へ向けたまま、顔だけを後ろへ向け未来と言い合っていた。 そんな二人の会話の中に、結人も割り込む。
「でッ! 未来をどうやって見つけたんだ?」
そう尋ねると、悠斗が再び視線を戻し口を開いた。
「俺と藍梨さんで、一緒に未来を捜し回っていたんだ。 未来がどんどん山の中へ入っていくから、きっと電波が届かなかったんだと思うよ。
 しばらく捜していると、遠くから『悠斗ー!』って叫ぶ声が聞こえて。 声を頼りに足を進めていったら、未来はこんな姿になって見つかったよ」
そう言って、悠斗は泥だらけの未来を見た。
「何があったんだよ、未来」
「・・・転んだ」
「転んだ?」
「走っていたら滑って崖から落ちそうになったんだ! 俺はマジ危なかったんだからな!」
「あぁ・・・。 はいはい」

―――そういうことか。 
―――未来の今の姿は醜いけど、無事ならよかった。 
―――でもまぁ、未来らしい理由だな。 
―――いい冒険ができたんじゃないか?
―――3人もちゃんと、戻ってきてくれたことだし。

「未来ー!」
すると遠くから、優たちが走って戻ってきた。
「お前らどこへ行っていたんだよ」
「うわ、何で未来そんなに汚れてんの!?」
「誰かにいじめられた?」
「いじめられてねぇ」
「誰かに泥でも投げられた?」
「だから投げられてねぇ!」
みんなが無事に戻ってきて、再集合した。 
―――みんな、ちゃんといるよな。
未来と悠斗が相変わらずの仲でよかった。 
未来が遠くから『悠斗ー!』と叫び助けを求めるのは“やはり未来は子供だな”と思うが、これは相手が悠斗でないときっと呼ばなかっただろう。
みんなのくだらない会話に耳を傾けながら少し楽しむと、結人はみんなをまとめ上げた。

「よし! それじゃあみんな、キャンプ場へ戻るか」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

僕とメロス

廃墟文藝部
ライト文芸
「昔、僕の友達に、メロスにそっくりの男がいた。本名は、あえて語らないでおこう。この平成の世に生まれた彼は、時代にそぐわない理想論と正義を語り、その言葉に負けない行動力と志を持ち合わせていた。そこからついたあだ名がメロス。しかしその名は、単なるあだ名ではなく、まさしく彼そのものを表す名前であった」 二年前にこの世を去った僕の親友メロス。 死んだはずの彼から手紙が届いたところから物語は始まる。 手紙の差出人をつきとめるために、僕は、二年前……メロスと共にやっていた映像団体の仲間たちと再会する。料理人の麻子。写真家の悠香。作曲家の樹。そして画家で、当時メロスと交際していた少女、絆。 奇数章で現在、偶数章で過去の話が並行して描かれる全九章の長編小説。 さて、どうしてメロスは死んだのか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...