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執事コンテストと亀裂。
執事コンテストと亀裂⑤⑨
しおりを挟む翌日 朝 結人の家
目が覚めると、藍梨は結人の横にいる――――はずだった。
「ん・・・。 藍梨・・・?」
だが横には、彼女の姿はない。 どこへ行ったのだろう。
「結人ー! おはよー!」
―――ん?
―――藍梨?
横になったまま、声のした方へ身体を捩じると藍梨が急に目の前に現れたかと思いきや、思い切り身体の上に乗っかってきた。
「うッ・・・」
あまりにも突然な出来事だったため、思わず小さな呻き声を上げる。 だがすぐに気持ちを切り替え、自分の上に乗っかっている彼女に笑いかけた。
「何だよ朝から。 元気だな」
「元気だよ! だって今日から、ずっと結人と一緒にいられるんだもん。 これ以上に幸せなことなんてないよ」
「これだけのことで幸せに思っちまうのかよ。 でもまぁ、これからは一緒にもっと幸せを見つけていこうな」
そう言いながら、藍梨の頬に自分の手を添える。 そしたら彼女は、優しい顔でにっこりと笑ってくれた。
今日は藍梨の家から大半の荷物を持ってくる日。 だが全てを持ち出すのは大変なため、彼女の服や私物をある程度持ち運べば大丈夫だろう。
日用品は結人の物を使えばいいとして、考えないことにする。 朝から二人は一度藍梨の家へ向かった。
そして彼女が荷物を詰めるのを見ているだけなのも何かあれなので、結人も手伝うことにする。 手伝うこと――――10分。
~♪
突然、結人の携帯がこの部屋に鳴り響いた。 相手は椎野からだ。 一度手を休め、電話に出ることにした。
「もしもし?」
『あ、もしもしユイ? 今日はみんな、集まんねーの?』
「あー、今日はちょっと藍梨の荷物を運ばなきゃだからな」
『終わったらでいいから、こっちに来れねぇ? 今日は未来も御子紫もいなくて、あまり盛り上がらなくてさー』
「分かった、いいよ。 昼過ぎくらいにそっちへ行くようにするわ。 てか、伊達は今日いねぇの?」
『んー、伊達? さっき連絡してみたけど、今日は予定があるから来れないって。 あ、でも予定が早く済んだら来てくれるみたい』
「ふーん・・・。 そっか」
『ん。 じゃ、待っているからなー!』
彼からの電話を切り、藍梨との作業を続行する。
「椎野くんは何て言ってたの?」
「ん? あぁ、椎野が俺たちも公園に来いって。 後で一緒に行こうか」
「うん、行く!」
藍梨も結黄賊のみんなといることに慣れたようだ。 これからは結黄賊のみんなに、彼女を任せるようなことがたくさんあるのかもしれない。
―――藍梨にもみんなにも、互いに慣れてもらわないとな。
そして結人たちは家を2、3往復し、やっと藍梨の荷物を運び終えた。 重たい荷物を持ったため、かなりの運動量だ。 このまま近くのカフェへ行って、二人はそこで休憩した。
ついでに昼食もそこで済ませ、その足で公園へと向かう。
「お、来た来た!」
「ユイ、待ってたよー!」
みんなに迎えられながら、結人と藍梨はみんなの中へ入っていく。 いつものようにみんなと話していると、結人はあることに気付いた。
「あれ、コウ? その顔の傷どうしたんだよ」
―――てより、このようなこと前にもあったような・・・。
「別に何もないよ。 ただ擦っただけ」
「んー・・・。 そうか」
あまり納得はいかないが、彼がそう言うのなら気にせずそのままにしておくことにした。
そして、時刻は16時になろうとした――――その時。
「お、伊達じゃん!」
「来てくれたんだ」
そう――――結黄賊のいる場所に、伊達は来てくれたのだ。
伊達の私服を見るのは今日が初めて。 彼はファッションセンスがよく、お洒落に気を遣っている感じが見て分かる。
身長が高くすらっとした体型の伊達には、カジュアルなファッションがとても似合っていた。 どこかの――――男性モデルのような。
かといって、結人の服装がダサいというわけでもない。 これでも一応、アクセサリや小物には気を遣っている方だ。
伊達も交え話をしていると、こんな話題になった。
「そういやさー、伊達はいつ藍梨さんを好きになったの?」
藍梨がこの場から離れていることを確認し、椎野は伊達に話を振る。
「え、俺?」
「てか、伊達はユイと藍梨さんが付き合ってんの知らなかったんだろ? ユイのことは知らなかったのか?」
「ユイのことは、入学した時から知っていたよ」
「ふーん・・・。 って、え!?」
結人は昨日伊達から聞かされた話を思い出しながら、椎野たちの会話を聞いていた。 そんな中、悠斗が突然結人に向かって口を開く。
「そういえばさ、ユイも伊達のこと入学した時から知っていたよね」
「え、それマジ!? 俺と伊達って、何かで関わっていたっけ?」
―――俺が伊達のことを知っていた?
―――いや、俺はコンテストの期間に入ってから、伊達のことを知ったはずだ。
悠斗の発言に全く思い当たる節がなく、彼に聞き返した。
「憶えてない? ほら、あの時のこと」
そう言って、結人が伊達を初めて知った時のことを話してくれた。 そう――――あれは、入学式を終えてからのこと。
未来と悠斗と、藍梨の話をしている時、結人はたまたま教室から廊下を覗き込んでいたのだ。
それを思い出すのと同時に、まだ藍梨と付き合っていなくて――――片思いをしていた時の気持ちも、蘇ってきた。
「一言くらい声かけたのかよ?」
―――かけたかったけど、実際目の前にすると緊張するんだよ・・・。
未来の問いに何も答えることができなかった結人は、その場から逃げるようにして席を立ち、教室の窓から顔を出して廊下の行き交う人を見ていた。
廊下に藍梨がいることは、すぐに分かる。 だって――――彼女のことを、ずっと目で追っていたのだから。 だがその瞬間、誰かが藍梨とぶつかった。
「あッ・・・」
「どうした?」
結人の一瞬の言葉に反応し、未来も同じ窓からひょっこりと顔を出した。 突然視界に未来の姿が少し入るも、結人は一人の少年のことを軽く睨み付ける。
―――誰だよ、今藍梨さんにぶつかった奴。
―――しかも藍梨さんの手を触りやがって!
「あー、確かアイツ俺んちクラスにいたよな? 悠斗」
「いたね。 伊達くん、だっけ? 結構目立っていたから名前憶えているよ」
―――伊達・・・。
―――・・・まぁ、いっか。
―――あんな一瞬の出来事なんて。
「あぁ・・・」
―――何か俺にとって、最初はあんまりいい印象じゃなかったのか・・・伊達は。
そう思うと、少し申し訳なく思ってしまう。
―――藍梨にぶつかっただけで、印象悪くなるなんてな。
―――伊達は今では、すげぇいい奴なのに。
「へぇ、じゃあユイも伊達も互いに入学式の時から知っていたんだ! 何か運命的ー」
そう言いながら、優はニコニコと笑っている。
―――何だよ、運命的って。
そこで椎野がふと思い付いたのか、ニヤリと笑いながらこう口にした。
「あ! もしかして伊達は、その時に藍梨さんとぶつかって恋しちゃったとか?」
「あー・・・。 まぁ・・・」
「え、マジで!?」
―――・・・伊達は藍梨に一目惚れ、か。
―――未来と一緒だな。
椎野が一人で舞い上がっているのを冷めた目で見ながらみんなと話していると、結人はあることに気が付いた。 藍梨が――――いない。
彼女を捜すため、公園内を大きく回ってみることにした。 すると、藍梨が倉庫の方にいるのが見える。
「藍梨ー? そんなところで何してんの?」
そう声かけながら、彼女の方へ近付いていく。 が――――その行為は、藍梨によって止められた。
「あっ! 来ちゃ駄目ー!」
「・・・は?」
そう言いながら藍梨は結人に近付き、結人の胸板を頑張って押し倉庫には近付けさせないようにした。
―――藍梨は何がしたいんだ・・・?
「何で来ちゃ駄目なんだよ」
「だから駄目なの!」
抵抗している彼女をよそに、倉庫の方へ目を向ける。
―――・・・あ、あそこは。
藍梨が先程いた場所は、倉庫の角だった。 その角の下には、結人が前に書いた落書きが残っている。
―――落書き?
―――どうして、藍梨がここに?
―――あ・・・もしかして、あの落書きを書いたのは藍梨なのか?
「もしかして、あの落書きは藍梨が・・・」
そこまで言いかけると、彼女は顔を真っ赤にしながら抵抗してきた。
「ちっがーうッ!」
―――はは、そこまで分かりやすい反応されると逆に困るな。
そう思い、結人はこう返すことにした。
「そっか。 あれを書いたのが藍梨だったらいいなって、思っていたのにな」
「・・・え?」
その言葉を聞いて唖然としている彼女に、もう一つ付け加える。
「まぁ、子供の落書きってことにしておいてやるよ」
そう言って、藍梨の頭を軽く撫で公園へ戻った。
「ユイー! そろそろ北野は帰るって」
「あ、もう? 明日何か予定でもあんの?」
「うん。 明日、インタビューを頼まれていて」
「インタビュー?」
北野によると、新聞部というものが沙楽学園にはあるらしく、結人たちのことを記事にしたいらしい。 結人たちはよく大人数で行動しているため、学園内でも結構目立つ。
だから一年生からは、よく注目されていた。
―――そのせいで、俺たちに目を付けたのか新聞部は・・・。
「俺たちのこと、ちゃんといいように言っておいてくれよー」
椎野がニヤニヤとしながら、北野にそう声をかける。
「分かったよ」
そして彼を先に帰らせ、結人たちは日が沈むまで一緒に話し解散をした。
執事コンテストは無事に終え、藍梨ともよりを戻すことができた。 また新しい一歩を、藍梨とみんなと共に踏み出していくのだ。 そして、楽しい日常を築いていこう。
みんなにとって、いい想い出になるように。 そして、あの倉庫の落書きも――――永遠に残って、結人と藍梨の想い出になるように。
結人はあの問いに対して、こう答えたのだ。
“あなたが一緒にいたいのは誰ですか?” “藍梨”
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