54 / 58
第十一章「あなたの人生を委ねてほしい」
第53話 修羅の前夜
しおりを挟む
次の日、豪華で美味しいディナーをご馳走になって、素敵な夜景を堪能できる部屋で夜を過ごし、至り尽せりの誕生日を過ごした。
しかも今回、壱嵩さんだけでなく葉月さんや瑛太さんからもお祝いのメッセージが届いて、思わぬサプライズをもらった気持ちだった。
「スゴく嬉しい……生まれてきて良かった」
「そんな大袈裟な。明日花さんはまだ二十歳になったばかりなんだよ。まだまだ楽しいことはたくさんあるよ」
壱嵩さんはそういうけれど、逆に言えば壱嵩さんに会うまでは死んだような日々だったのだ。
「私……一番の幸せは壱嵩さんに出会えたことだと思う。これからもよろしくね」
「こちらこそ。ちなみに、明日花さんは結婚式はちゃんとしたい派? もしこだわりがなかったら、新婚旅行を兼ねて南国で挙げたいんだけど」
「南国? は、ハワイとか?」
「そこまでの予算がないかも。でも沖縄とか、奄美、屋久島とか?」
海が綺麗な島で挙式なんて素敵だ——と、思いつつ、私は飛行機が大の苦手だった。
閉塞的な空間に大きな騒音、揺れ。
一時間足らずのフライトでも限界だったのだ。とても長時間耐えられるものではない。
「私は父や葉月さん達に祝ってもらえたら、それだけでいいよ。でもウェディング姿はお母さんの仏壇に備えてあげたいかな」
「——分かった、そうしようか。俺さ、できれば明日花さんのドレス姿を何着か見たいんだよね。かしこまった披露宴はしなくても、写真はたくさん撮ろう」
指を絡めてくる彼に、私は静かに頷いた。
朧げだった未来予想図が少しずつ形になっていく。
「——ちなみに、俺の母が何を言っても、俺は明日花さんと結婚するから。その事実だけは絶対に変わらないから安心して」
「え?」
不穏な言葉に思わず疑問符を漏らしてしまった。
たしか統合失調症だった気がするが、そんなに症状が良くないのだろうか?
幻覚や幻聴が聞こえたり、忘れっぽくなったり、まともに会話のキャッチボールができなくなると聞いたことがあるが、彼のお母さんがどの程度の状況なのかは全く教えてもらえなかった。
「そもそも今の状況がどうのこうのじゃなくて、母親として欠落した人だったから。逆に調子がいい時の方が恐いんだ。もし明日花さんに暴言でも吐いたりしたら、俺は正常ではいられないかもしれない」
「そんなこと気にしないで。私は——否定的な言葉には慣れているから。大丈夫」
でも出来れば好きな人の家族には良く思われたい。
「いや、そんな言葉に慣れないで。たとえ発達障害について無知な人間の言葉だとしても、許されることじゃない。あぁ、俺が昔の明日花さんのそばにいたら、そいつらのことをぶん殴ってやるのに」
思わぬ暴力的な言葉に驚いてしまったが、壱嵩さんならやりかねないと想像してしまった。
「そう言ってくれてありがとう。でも、今でも十分幸せだから大丈夫だよ」
もう前みたいに卑屈になるのはやめた。
昔の私と違って、ちゃんと私という人間を見て、肯定してくれる人がいる。その人の期待を裏切らないためにも、背筋を伸ばして生きていきたい。
「明日、壱嵩さんのお母さんに……報告しよう」
こうして私は、彼と共に大きな困難を乗り切るために手を取り合ったのであった。
———……★
しかも今回、壱嵩さんだけでなく葉月さんや瑛太さんからもお祝いのメッセージが届いて、思わぬサプライズをもらった気持ちだった。
「スゴく嬉しい……生まれてきて良かった」
「そんな大袈裟な。明日花さんはまだ二十歳になったばかりなんだよ。まだまだ楽しいことはたくさんあるよ」
壱嵩さんはそういうけれど、逆に言えば壱嵩さんに会うまでは死んだような日々だったのだ。
「私……一番の幸せは壱嵩さんに出会えたことだと思う。これからもよろしくね」
「こちらこそ。ちなみに、明日花さんは結婚式はちゃんとしたい派? もしこだわりがなかったら、新婚旅行を兼ねて南国で挙げたいんだけど」
「南国? は、ハワイとか?」
「そこまでの予算がないかも。でも沖縄とか、奄美、屋久島とか?」
海が綺麗な島で挙式なんて素敵だ——と、思いつつ、私は飛行機が大の苦手だった。
閉塞的な空間に大きな騒音、揺れ。
一時間足らずのフライトでも限界だったのだ。とても長時間耐えられるものではない。
「私は父や葉月さん達に祝ってもらえたら、それだけでいいよ。でもウェディング姿はお母さんの仏壇に備えてあげたいかな」
「——分かった、そうしようか。俺さ、できれば明日花さんのドレス姿を何着か見たいんだよね。かしこまった披露宴はしなくても、写真はたくさん撮ろう」
指を絡めてくる彼に、私は静かに頷いた。
朧げだった未来予想図が少しずつ形になっていく。
「——ちなみに、俺の母が何を言っても、俺は明日花さんと結婚するから。その事実だけは絶対に変わらないから安心して」
「え?」
不穏な言葉に思わず疑問符を漏らしてしまった。
たしか統合失調症だった気がするが、そんなに症状が良くないのだろうか?
幻覚や幻聴が聞こえたり、忘れっぽくなったり、まともに会話のキャッチボールができなくなると聞いたことがあるが、彼のお母さんがどの程度の状況なのかは全く教えてもらえなかった。
「そもそも今の状況がどうのこうのじゃなくて、母親として欠落した人だったから。逆に調子がいい時の方が恐いんだ。もし明日花さんに暴言でも吐いたりしたら、俺は正常ではいられないかもしれない」
「そんなこと気にしないで。私は——否定的な言葉には慣れているから。大丈夫」
でも出来れば好きな人の家族には良く思われたい。
「いや、そんな言葉に慣れないで。たとえ発達障害について無知な人間の言葉だとしても、許されることじゃない。あぁ、俺が昔の明日花さんのそばにいたら、そいつらのことをぶん殴ってやるのに」
思わぬ暴力的な言葉に驚いてしまったが、壱嵩さんならやりかねないと想像してしまった。
「そう言ってくれてありがとう。でも、今でも十分幸せだから大丈夫だよ」
もう前みたいに卑屈になるのはやめた。
昔の私と違って、ちゃんと私という人間を見て、肯定してくれる人がいる。その人の期待を裏切らないためにも、背筋を伸ばして生きていきたい。
「明日、壱嵩さんのお母さんに……報告しよう」
こうして私は、彼と共に大きな困難を乗り切るために手を取り合ったのであった。
———……★
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる