ひーやん

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小学6年生までの話

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 ひーやんは私のことが好きだというの隠そうとはしないので、いろんな人にそのことが知れ渡るようになった。人気者のひーやんのことなので他の学年の子まで広まっていた。
 町の陸上大会は終わり、町大会で各種目上位3位以内に入った子は町の代表として地区大会に進むことが決まっていた。私は6年生女子の100メートルで1位、80メートルハードルで3位だった。ひーやんは6年生男子100メートル1位、ハードル2位。
 地区大会に進む人以外は放課後の陸上練習はなくなり早く帰るようになった。地区大会への練習からは全体でのウォーミングアップはなくなり、種目別練習から始まる。幅跳びや高跳び、ボール投げの準備をしている友人たちを見ながらトラック競技の私たちはウォーミングアップを始める。
 まだ右隣にひーやんがいる。
 地区大会の練習になり、短距離トラック種目(100メートルとハードル)の人数は4人になった。私、6年女子80メートルハードル1位のちっぴー。5年男子100メートルのそら。そしてひーやん。人数も少なくなって、なによりちっぴーがいたから他愛もない会話も少しはできるようになった。でもちっぴーがいないところで2人で喋るのはやっぱり無理だった。喋っているところを見られたらヒューヒュー言われるとかそういうのは二の次で、恥ずかしかったのだ。自分がひーやんのこと好きだとバレたらどうしよう。もうひーやんは気づいているのかもしれない。向こうは私のことを好きらしいから多分両思いなんだろうけど、この場合どう接したらいいんだろう。この緊張が、伝わらないようにするにはどうすればいいのだろう。お互いがお互いを意識しすぎていたのかもしれない。
 地区大会6年女子100メートル決勝。私の予選のタイムは決勝進出ギリギリでかなりはじの方のコースにいた。地区大会では、田舎すぎて指導者がいない私たちの学校のように、即席で2、3ヶ月練習するような学校は少数派だった。ちゃんと学校に陸上部があって毎日練習している子たちが出場している。決勝に残れただけでも奇跡だった。さらに今年はハードルでひーやん、ちっぴーも決勝進出というかなりすごいことが起こっていた。
 On your mark…Set…
 3年間。私はあなたにいつも敵わなかった。あなたに追いつきたくて、私は走ってきた。この期に及んでまだひーやんのことを考えていた。
 ピストルの音でスターティングブロックを蹴る。走る。走る。走る。集中しすぎて周りの歓声が聞こえたのはゴールラインを過ぎた後だった。
 まだ昔のことだったし、地区大会といってもやっぱり田舎の地区大会なので、タイムは役員の先生方がプールの監視員みたいに高いところからストップウォッチで測っている。
 どよどよしてて何事かと思ったら、場内アナウンスでビデオ判定に入ると聞こえた。
 私は町の出場者のいるテントに戻った。町大会ではライバルだったが地区大会では仲間だった。知らない小学校の子ともずいぶん仲良くなった。おつかれー、めっちゃ速かったよと声をかけてくれる。何位かは分からないらしい。みんなひと並びでゴールラインを割ったようだった。ひーやんもいた。男子と喋っている。
 14秒8で私は1位だった。4着まで同タイム。自分よりあんなに速そうな人がたくさんいたのに信じられなかった。嬉しいより、嘘でしょと思った。
 場内アナウンスを聞き、町のテントでは盛り上がって私を祝福してくれた。
 少し経って、私は役員テントの前の掲示板で自分の名前が載った結果の紙を見た。14秒8。自己ベストだった。ひーやんの今日の小学6年生男子100メートルの予選タイムは14秒6。やっぱり私は敵わなかった。
 掲示板の結果表を見ていると、隣にひーやんが1人で立っていた。
「見てたよ、おめでとう」とぼそっと言った。
なんでいつもあんなに元気でみんなの中心にいるリーダーみたいな子が、私にはこんなにゆっくり小さな声で話しかけるのだろうか。
「え、ありがとう!私もひーやんの見てたよ!入賞おめでとう!!そういえばちっぴーの決勝とか見た?あとさ、」
本当は2人きりで緊張して何喋っていいか分からなくなって、でもテンション上がって余計なことまで喋ってしまう。ひーやんはびっくりした顔をして私の話を黙って聞いていた。
 ありがとうと一言だけ返すのがかっこよくて可愛い女の子だったんじゃないかと分かっていたのに、余裕がない。
 
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