ただの孤児だった私がなぜか女侯爵家の跡継ぎになってしまいました。あと、イケおじな使用人達が有能すぎるのですが……?

雉子鳥 幸太郎

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第一章

南海の覇者 2

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 私が腰を下ろすと、モルガン卿はまるで別人のような人懐っこい笑みを浮かべた。

「許してくれ、ヴィリアに頼まれてな」
「ヴィリアに?」
「ああ、何から話そうか……。そうだな、俺とヴィリアが出会ったのは王宮の舞踏会だった」

 モルガン卿はそう切り出して、懐かしそうに目を細める。

「俺はまだ女も知らない十五のガキでな、初めてヴィリアを見た時、冗談抜きで雷に打たれたと思った。今思えば、あの会場に居た連中は全員そうだったんだろうが……それくらい、あいつは美しかった。それで俺は身の程知らずにも声を掛けた。俺と結婚して欲しいってな」
「え……」

「驚いたか? ははは、皆に笑われたよ。まぁ、あの当時、ヴィリアに求婚した男は星の数ほどいたからな。俺もそのひとりだったんだが、その頃はこのモルガン領もただの寂れた田舎町でなぁ……俺は令嬢達から辺境の『外れくじ』って噂されてた。笑われて当然だったってわけだ」

 自嘲気味に笑って、モルガン卿は続けた。

「だが、ヴィリアは俺を笑わなかった。それどころか、俺がこの先何をすべきか示してくれた。信じられるか⁉ 年端もいかぬ美しい娘のアドバイスが、この辺境を広大な湾岸都市に変えたんだよ! はっはっは!」
「ヴィリアは……モルガン卿に何と?」

「所謂、ロードマップってやつさ。二年後までに港を整備し、三年後には船を最低でも二十隻建造して商隊を編成、そして貿易をする相手、売る品物、買い付ける時期、ま、いろいろと教わった。最初は信じちゃいなかったが、ヴィリアの気を引きたい一心でその通りにした。その結果がこれさ」

 凄い……やっぱりヴィリアは凄い人だ……。

「だが結局、ヴィリアが俺を選ぶことはなかった。俺が欲しかったのは、あいつだけだったのに……」

 ぶどうをまた口に入れ、空を仰ぐ仕草を見せる。

「モルガン卿……」
「はは、ここまでは良くあるくだらねぇ昔話さ。ここからが本題なんだが……、俺はヴィリアと、ある誓約を交わしている」

「誓約……ですか?」
「ああ、誓約っつっても、一方的にヴィリアに言われただけだが……」

「何を言われたんです?」
「私に後継者ができたなら『もう一人の私だから守ってくれるよね?』だとさ。……ったく、卑怯な女だぜ」

「え……」

 モルガン卿は私の前で片膝を付き、恭しく私の手を取りそっとキスをした。

「たった今、この時より、このモルガン・ロッソーニはリリィ・ウィンローザの庇護者となることを誓う」
「庇護者⁉」
「なんだ? 嫌なのか?」
「い、いえ……しかし、その……」

 ヴィリア、これはちょっとやり過ぎなのでは⁉
 パワーバランス的に大丈夫なのかな……?
 あぁ、もう! こういう時に限ってアルフレッドがいないっ!

「まあ、俺の出る幕はなさそうではあるがな」
 そう笑って、モルガン卿はルーカスを見た。


    §


 モルガン卿との会談が終わり、私とルーカスは客室に通された。

「しかし驚いたな、あの南海の覇者がねぇ……」
「ほんとよもう、びっくりした~」

 私は大きなベッドに倒れ込んだ。
 ルーカスはベッドの柱に手を掛け、私を覗き込んでいる。

「まあ、悪い話じゃない。細かいことはアルフレッドに任せておけばいいだろ」
「そうね……ごめん、ルーカス、私、疲れちゃった……」
「ああ、また明日。ゆっくりおやすみ、リリィ……」

 ルーカスが私の頭を優しく撫でる。
 ああ、安心するなぁ……って思うと同時に、私は意識を手放した。
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