26 / 32
第一章
モルガン領 2
しおりを挟む
港に着くと、シュタインベックが出迎えてくれた。
その屈託のない笑みを見ていると、本当に私の来訪を喜んでくれているのかもと思ってしまう。
「ウィンローザ侯爵、ようこそモルガン領へ! ささ、足下にお気をつけください」
「ありがとう」
階段を降りようとすると、ルーカスが手を引いてくれた。
港に降り立つと、広大な湾岸都市の熱気がリアルに伝わってくる。
そこら中で忙しなく荷を運ぶ人夫達や、大きな掛け声を掛け合う商人、露店に集まる大勢の人々。
潮風の匂いと、どこまでも続く青い空の開放感が心地よかった。
「良い街ね」
「気に入っていただけて光栄です。では、早速ですが主の元へご案内いたします」
シュタインベックは丁寧に頭を下げ、港でも一際目立つ馬車に手を向けた。
屋根が無く、王都では見かけたことのない形の馬車だった。
「珍しい形ですね」
「こちらではこの形が主流です。気持ち良い風が感じられますから」
「へぇ……」
馬車に乗り込み、シュタインベックが御者に合図を送る。
ゆっくりと馬車は動き出し、次第に心地よい風が頬を撫でた。
「本当に気持ちいいわ」
「ええ、良い風ですね」
シュタインベックの前だからだろう、ルーカスは敬語になっている。
「あの、初めまして、シュタインベックと申します、そちらは……」
「ああ、私などに気を遣わずとも結構です。リリィ様の衣装番を務めるルーカスと申します」
「ルーカス様ですね、どうぞお見知りおきを。主人からウィンローザ家の方々は皆、お客様として丁重にお出迎えするよう、きつく命じられておりますので」
そう答えたあとでシュタインベックは、
「あの……失礼ですが、どこかでお会いしたことが……」とルーカスの顔をまじまじと見つめる。
「……気のせいでしょう。どこにでもある顔です」
いやいや、そのイケメン顔はどこにでもないでしょう――と、内心で突っ込みながら、私は二人のやり取りを見守っていた。
その屈託のない笑みを見ていると、本当に私の来訪を喜んでくれているのかもと思ってしまう。
「ウィンローザ侯爵、ようこそモルガン領へ! ささ、足下にお気をつけください」
「ありがとう」
階段を降りようとすると、ルーカスが手を引いてくれた。
港に降り立つと、広大な湾岸都市の熱気がリアルに伝わってくる。
そこら中で忙しなく荷を運ぶ人夫達や、大きな掛け声を掛け合う商人、露店に集まる大勢の人々。
潮風の匂いと、どこまでも続く青い空の開放感が心地よかった。
「良い街ね」
「気に入っていただけて光栄です。では、早速ですが主の元へご案内いたします」
シュタインベックは丁寧に頭を下げ、港でも一際目立つ馬車に手を向けた。
屋根が無く、王都では見かけたことのない形の馬車だった。
「珍しい形ですね」
「こちらではこの形が主流です。気持ち良い風が感じられますから」
「へぇ……」
馬車に乗り込み、シュタインベックが御者に合図を送る。
ゆっくりと馬車は動き出し、次第に心地よい風が頬を撫でた。
「本当に気持ちいいわ」
「ええ、良い風ですね」
シュタインベックの前だからだろう、ルーカスは敬語になっている。
「あの、初めまして、シュタインベックと申します、そちらは……」
「ああ、私などに気を遣わずとも結構です。リリィ様の衣装番を務めるルーカスと申します」
「ルーカス様ですね、どうぞお見知りおきを。主人からウィンローザ家の方々は皆、お客様として丁重にお出迎えするよう、きつく命じられておりますので」
そう答えたあとでシュタインベックは、
「あの……失礼ですが、どこかでお会いしたことが……」とルーカスの顔をまじまじと見つめる。
「……気のせいでしょう。どこにでもある顔です」
いやいや、そのイケメン顔はどこにでもないでしょう――と、内心で突っ込みながら、私は二人のやり取りを見守っていた。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる