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第一章

モルガン領 2

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 港に着くと、シュタインベックが出迎えてくれた。
 その屈託のない笑みを見ていると、本当に私の来訪を喜んでくれているのかもと思ってしまう。

「ウィンローザ侯爵、ようこそモルガン領へ! ささ、足下にお気をつけください」
「ありがとう」

 階段を降りようとすると、ルーカスが手を引いてくれた。
 港に降り立つと、広大な湾岸都市の熱気がリアルに伝わってくる。

 そこら中で忙しなく荷を運ぶ人夫達や、大きな掛け声を掛け合う商人、露店に集まる大勢の人々。
 潮風の匂いと、どこまでも続く青い空の開放感が心地よかった。

「良い街ね」
「気に入っていただけて光栄です。では、早速ですが主の元へご案内いたします」

 シュタインベックは丁寧に頭を下げ、港でも一際目立つ馬車に手を向けた。
 屋根が無く、王都では見かけたことのない形の馬車だった。

「珍しい形ですね」
「こちらではこの形が主流です。気持ち良い風が感じられますから」
「へぇ……」

 馬車に乗り込み、シュタインベックが御者に合図を送る。
 ゆっくりと馬車は動き出し、次第に心地よい風が頬を撫でた。

「本当に気持ちいいわ」
「ええ、良い風ですね」

 シュタインベックの前だからだろう、ルーカスは敬語になっている。

「あの、初めまして、シュタインベックと申します、そちらは……」
「ああ、私などに気を遣わずとも結構です。リリィ様の衣装番を務めるルーカスと申します」

「ルーカス様ですね、どうぞお見知りおきを。主人からウィンローザ家の方々は皆、お客様として丁重にお出迎えするよう、きつく命じられておりますので」

 そう答えたあとでシュタインベックは、
「あの……失礼ですが、どこかでお会いしたことが……」とルーカスの顔をまじまじと見つめる。
「……気のせいでしょう。どこにでもある顔です」

 いやいや、そのイケメン顔はどこにでもないでしょう――と、内心で突っ込みながら、私は二人のやり取りを見守っていた。
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