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第一章

辺境伯の使い 2

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 翌日、約束通りウィンローザ家にシュタインベックと名乗る青年がやって来た。

 気弱そうな顔に栗色のくるんとした髪が似合っている。
 ロイドほどではないけど、美男子の部類に入るルックスだ。

「お初にお目に掛かります、ウィンローザ侯爵様。私、モルガン・ロッソーニからの使いで参りましたシュタインと申します。本日は突然の訪問をお許しくださり、ありがとうございます」
「そんなに畏まらないでください。さ、お掛けになって」

 私はソファに手を向ける。

「ありがとうございます、では……」

 アルフレッドが紅茶を運んで来た。
 物音一つ立てずに、私とシュタインベックの前にカップを置く。

「これは良い茶葉をお使いですねぇ! あ、商売柄、茶葉の目利きには自信があるんです」

 シュタインベックは、先ほどまでの強ばった顔はどこへ消えたのかと思うほど目を輝かせていた。

「モルガン辺境伯が私を食事にご招待くださると聞きましたが?」
「あ、はい! ぜひ、モルガン領へお連れするようにと。いやぁ、若き女侯爵の噂は南海にまで聞こえてますからねぇ。あのセフィーロ宰相に喧嘩を売った女傑ともなれば、噂にならないほうが……って、あ……も、申し訳ございません! 今のはそのぉ……なんと言いますか、き、緊張から来る虚言です! すみませんでしたぁ!」

 しどろもどろになりながら弁解するシュタインベックだが、何を言っているのかわからない。

「大丈夫です、そんなことで怒りはしませんよ」

 私がクスッと笑うと、シュタインベックがほっと息をつく。

「ありがとうございます。僕はすぐ調子に乗ってしまうところがありまして……ははは。以後、気を付けます」

 何とも忙しない青年だなと思いつつ、
「私の噂といいましたが、そんなに広まっているのですか?」と尋ねた。
「はい、商人は情報が命ですから。王宮の噂は三日もしないうちに広まりますよ」

「そんなに早いのですね……」
「ところで侯爵様、モルガン領へはおいでいただけるのでしょうか?」

「――お話中、失礼いたします。お菓子をお持ちしました」

 アルフレッドが絶妙なタイミングで話を遮り、さりげなく私にアイコンタクトを送ってきた。
 これは、返事を急ぐなってことね……。

「モルガン卿といえば、南海の覇者と名高い御方ですが、そのような御仁がなぜ私に興味を持ったのでしょう?」
「それは我が主に直接お聞きになるのがよろしいかと」
「……」

 紅茶に口を付けた後、シュタインベックは思い出したように付け加える。

「ただ、約束がある――、とだけ申しておりました」
「約束……」

 美味しそうにお菓子を頬張るシュタインベックを見つめながら、私はこの誘いを受けることを決めた。
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