23 / 32
第一章
辺境伯の使い 1
しおりを挟む
凱旋パーティーからの帰り、馬車の中で向かいに座るロイドに訊ねた。
「ねぇ、あの本、大事なものなんじゃないの? 本当にあげちゃって良かったの?」
「うん、大丈夫だよ」
「でも、何か凄い貴重なものだって……」
ロイドは身を乗り出し、クスッと笑う。
「心配いらないよ。肝心な情報は消してあるしね」
「え⁉ そ、そんなことして平気⁉」
「問題無いよ。学院でも内容を理解してたのは僕だけだし、それに……ちょっと危険な魔術も書かれていたからね、そういうものは権力者に渡さないほうがいい」
「まあ、ロイドがそういうなら間違いないんだろうけど……」
「それより、収穫があったよ」
ロイドの声のトーンが僅かに下がった。
「え?」
「あの後、僕に接触してきた貴族の中で面白いことを言う人がいた」
面白いこと? と、その前に貴族達がロイドに接触……っていつの間に……。
「――モルガン・ロッソーニ辺境伯」
アルフレッドの資料にあった名前だ。
モルガン領はレイセオン王国の最南端にある。
王都から見れば辺境だが、実際は他国との交易が盛んなモルガン領の方が貿易都市として栄えているらしい。
「正確には、彼にいくつかの商会を任されているシュタインっていう若者なんだけど、彼がヴィリアと辺境伯との間に交流があったと言ってたんだ」
「ヴィリアが?」
――何かが変だ。
ヴィリアは社交界を去ってから、森の中の侯爵邸から出ていないはずだけど……。
「気になるよね? だって、僕も初耳だし、アルフレッドは知ってるのかなぁ……」
§
侯爵邸に戻った私とロイドは、アルフレッドに辺境伯のことを訊ねてみた。
「モルガン辺境伯……?」
「うん、ヴィリアが何度か来てたらしいよ。何か知らない?」
アルフレッドは顎に人差し指の背を当て、
「私も初耳ですね……。しかし、侯爵邸に隠居してからは会われていないはずです。私の目を盗んで会うとも考えにくいですし、それは不可能です」きっぱりと言い切るアルフレッド。
「じゃあ辺境伯に会って、直接聞いてみる?」
「そう簡単なことではありません。相手は南海の覇者、海運王です。いくらウィンローザ侯爵家といえども、そう簡単に会うことなど……」
「遊びにおいでってさ」
「はい?」「え?」
珍しく、私とアルフレッドの息が合った。
「だから、その辺境伯がリリィを食事に招待したいんだって」
「何でそれを先に言わんのだっ!」
珍しく感情を露にしたアルフレッドがロイドに詰め寄る。
「いやぁ、ごめんごめん。すっかり忘れちゃってたよ。明日、シュタインベックくんが訪ねてくるそうだから、返事はその時ってことになってる」
「……はぁ。わかった、すぐに用意を始めよう」
「アルフレッド、大丈夫?」
「ご心配なく――こういう時のために私がいるのですから」
アルフレッドはそう言い残すと、音も無く部屋を出て行った。
「ねぇ、あの本、大事なものなんじゃないの? 本当にあげちゃって良かったの?」
「うん、大丈夫だよ」
「でも、何か凄い貴重なものだって……」
ロイドは身を乗り出し、クスッと笑う。
「心配いらないよ。肝心な情報は消してあるしね」
「え⁉ そ、そんなことして平気⁉」
「問題無いよ。学院でも内容を理解してたのは僕だけだし、それに……ちょっと危険な魔術も書かれていたからね、そういうものは権力者に渡さないほうがいい」
「まあ、ロイドがそういうなら間違いないんだろうけど……」
「それより、収穫があったよ」
ロイドの声のトーンが僅かに下がった。
「え?」
「あの後、僕に接触してきた貴族の中で面白いことを言う人がいた」
面白いこと? と、その前に貴族達がロイドに接触……っていつの間に……。
「――モルガン・ロッソーニ辺境伯」
アルフレッドの資料にあった名前だ。
モルガン領はレイセオン王国の最南端にある。
王都から見れば辺境だが、実際は他国との交易が盛んなモルガン領の方が貿易都市として栄えているらしい。
「正確には、彼にいくつかの商会を任されているシュタインっていう若者なんだけど、彼がヴィリアと辺境伯との間に交流があったと言ってたんだ」
「ヴィリアが?」
――何かが変だ。
ヴィリアは社交界を去ってから、森の中の侯爵邸から出ていないはずだけど……。
「気になるよね? だって、僕も初耳だし、アルフレッドは知ってるのかなぁ……」
§
侯爵邸に戻った私とロイドは、アルフレッドに辺境伯のことを訊ねてみた。
「モルガン辺境伯……?」
「うん、ヴィリアが何度か来てたらしいよ。何か知らない?」
アルフレッドは顎に人差し指の背を当て、
「私も初耳ですね……。しかし、侯爵邸に隠居してからは会われていないはずです。私の目を盗んで会うとも考えにくいですし、それは不可能です」きっぱりと言い切るアルフレッド。
「じゃあ辺境伯に会って、直接聞いてみる?」
「そう簡単なことではありません。相手は南海の覇者、海運王です。いくらウィンローザ侯爵家といえども、そう簡単に会うことなど……」
「遊びにおいでってさ」
「はい?」「え?」
珍しく、私とアルフレッドの息が合った。
「だから、その辺境伯がリリィを食事に招待したいんだって」
「何でそれを先に言わんのだっ!」
珍しく感情を露にしたアルフレッドがロイドに詰め寄る。
「いやぁ、ごめんごめん。すっかり忘れちゃってたよ。明日、シュタインベックくんが訪ねてくるそうだから、返事はその時ってことになってる」
「……はぁ。わかった、すぐに用意を始めよう」
「アルフレッド、大丈夫?」
「ご心配なく――こういう時のために私がいるのですから」
アルフレッドはそう言い残すと、音も無く部屋を出て行った。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません
黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。
でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。
知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。
学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。
いったい、何を考えているの?!
仕方ない。現実を見せてあげましょう。
と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。
「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」
突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。
普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。
※わりと見切り発車です。すみません。
※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる