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第一章
ウィンローザ家の金庫番
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アルフレッドとロイドが邸内の廊下を並んで歩いている。
「予算はどのくらい必要かな?」
世間話でもするようにロイドが尋ねると、アルフレッドは前を向いたまま、
「そうですねぇ……今回の主賓は王太子ですが、ウィルギスから王族が参加する可能性もあります。リリィ様に恥はかかせられませんので、最低でも金貨二〇〇〇枚は欲しいところです……頼めますか?」と答えた。
「二〇〇〇かぁ~……」
「おや、厳しいですか?」
「ううん、大丈夫、ちゃ~んと約束は覚えてるから」
史上最年少で王立魔導学院を首席で卒業。
古今東西、ありとあらゆる学問を修め、大賢者ホトの再来とまで言われた男。
ウィンローザ侯爵家の金庫番――ロイド・ヴァレンタイン。
彼もまた、ヴィリアを慕って集まった一人であった。
「じゃ、アルフレッドも頑張って」
「ええ、では後ほど――」
ロイドは後ろ手に組み、鼻歌を歌いながら図書室へ向かった。
§
王都の一等地にある大きなリージェンシー様式の白い建物。
近くに住む住人や商人達も、古くからある建物ということ以外、ここが誰の所有物で、誰が住んでいるのかも知らなかった。
ただ、定期的に外観の手入れはされているようで、街の美観を損ねるようなことはない。
むしろ住人達からは、街の景観向上に一役買っているとさえ思われている。
そんな建物を訪れ、艶のある木の扉を開くロイドの姿があった。
「まぁ⁉ あなたがここに住んでいるのかしら?」
近所に住む年配の女性が、ロイドに声を掛ける。
ロイドは嫌な顔一つせずに、女性に向き直って笑みを作った。
「いいえ、マダム。年に何度か空気を入れ換えに来ているだけです」
「あら、そうなの? それはご苦労様だわねぇ……」
好奇心に目を輝かせながら女性が近づいてくる。
「ねぇ、ここはどなたが所有なさっているの? やっぱり、この場所なら有名な御方かしら?」
「マダム、残念ですが……僕にはお答えする権限がありません」
ロイドは申し訳なさそうに眉を下げた。
「あらやだ、困らせてしまったわね、ごめんなさいねぇ……気にしなくていいのよ、その綺麗なお顔を上げてちょうだい」
「ありがとうございます、マダム」
「いいのよ、じゃあ、お仕事頑張ってね」
「はい、では――」
ロイドは建物の中に入り、扉の鍵を閉めた。
「さてと……」
慣れた様子で廊下を進み、大きな暖炉のある部屋に入った。
暖炉に手を入れ、隠しスイッチを押すと、ガコンッというくぐもった音が響く。
上着をソファの背に掛け、シャツの袖を捲ったロイドが、部屋の壁に備え付けてある書棚を押す。すると、書棚が動いて奥に地下へ続く階段が現れた。
迷わず階段を下りるロイド。
コツ、コツ、と革靴の音が響く。
階段を下りきった所には両開きの大きな扉があった。
扉を押し開けると、広い部屋の奥の壁に、大きな肖像画が掛かっているのが目に入る。
ロイドは真っ直ぐにその肖像画の下まで歩いた。
「……やあ、久しぶりだねヴィリア」
そこには、若き日のヴィリアの肖像画が掛けられていた。
ロイドは近くの木箱に腰を下ろし、肖像画に語りかける。
「初めてアルフレッドにここを見せてもらった時はね……ここには、まだ、何も置かれていない棚が並んでいるだけだったんだよ?」
ロイドはクスッと笑って、近くの棚に置かれた革袋を手に取った。
手の平の上で革袋を逆さにすると、色とりどりの宝石が出てくる。
「……僕はね、こんなものいくら集めても、君がいなきゃ何の意味も無いって思ってたけど……悔しいな、アルフレッドが正しかったみたいだ。でも、まさか、君が可愛らしい女の子を拾ってくるなんてね……」
宝石を袋に戻し、立ち上がったロイドは、涙ぐんだ目で肖像画を見上げる。
「――ほら、見てヴィリア、僕、頑張ったんだ」
ロイドが振り返り、両手を広げる。
目の前に広がるのは、巨大な倉庫――。
背の高い物品棚が十列以上、部屋の端から端まで続いている。
そして、その棚には無数の、絵画、美術品、宝石、金塊、書物などが所狭しと並べられていた。
「……リリィのことは心配しないで」
ロイドはそう呟き、肖像画のヴィリアに目を細めた。
「予算はどのくらい必要かな?」
世間話でもするようにロイドが尋ねると、アルフレッドは前を向いたまま、
「そうですねぇ……今回の主賓は王太子ですが、ウィルギスから王族が参加する可能性もあります。リリィ様に恥はかかせられませんので、最低でも金貨二〇〇〇枚は欲しいところです……頼めますか?」と答えた。
「二〇〇〇かぁ~……」
「おや、厳しいですか?」
「ううん、大丈夫、ちゃ~んと約束は覚えてるから」
史上最年少で王立魔導学院を首席で卒業。
古今東西、ありとあらゆる学問を修め、大賢者ホトの再来とまで言われた男。
ウィンローザ侯爵家の金庫番――ロイド・ヴァレンタイン。
彼もまた、ヴィリアを慕って集まった一人であった。
「じゃ、アルフレッドも頑張って」
「ええ、では後ほど――」
ロイドは後ろ手に組み、鼻歌を歌いながら図書室へ向かった。
§
王都の一等地にある大きなリージェンシー様式の白い建物。
近くに住む住人や商人達も、古くからある建物ということ以外、ここが誰の所有物で、誰が住んでいるのかも知らなかった。
ただ、定期的に外観の手入れはされているようで、街の美観を損ねるようなことはない。
むしろ住人達からは、街の景観向上に一役買っているとさえ思われている。
そんな建物を訪れ、艶のある木の扉を開くロイドの姿があった。
「まぁ⁉ あなたがここに住んでいるのかしら?」
近所に住む年配の女性が、ロイドに声を掛ける。
ロイドは嫌な顔一つせずに、女性に向き直って笑みを作った。
「いいえ、マダム。年に何度か空気を入れ換えに来ているだけです」
「あら、そうなの? それはご苦労様だわねぇ……」
好奇心に目を輝かせながら女性が近づいてくる。
「ねぇ、ここはどなたが所有なさっているの? やっぱり、この場所なら有名な御方かしら?」
「マダム、残念ですが……僕にはお答えする権限がありません」
ロイドは申し訳なさそうに眉を下げた。
「あらやだ、困らせてしまったわね、ごめんなさいねぇ……気にしなくていいのよ、その綺麗なお顔を上げてちょうだい」
「ありがとうございます、マダム」
「いいのよ、じゃあ、お仕事頑張ってね」
「はい、では――」
ロイドは建物の中に入り、扉の鍵を閉めた。
「さてと……」
慣れた様子で廊下を進み、大きな暖炉のある部屋に入った。
暖炉に手を入れ、隠しスイッチを押すと、ガコンッというくぐもった音が響く。
上着をソファの背に掛け、シャツの袖を捲ったロイドが、部屋の壁に備え付けてある書棚を押す。すると、書棚が動いて奥に地下へ続く階段が現れた。
迷わず階段を下りるロイド。
コツ、コツ、と革靴の音が響く。
階段を下りきった所には両開きの大きな扉があった。
扉を押し開けると、広い部屋の奥の壁に、大きな肖像画が掛かっているのが目に入る。
ロイドは真っ直ぐにその肖像画の下まで歩いた。
「……やあ、久しぶりだねヴィリア」
そこには、若き日のヴィリアの肖像画が掛けられていた。
ロイドは近くの木箱に腰を下ろし、肖像画に語りかける。
「初めてアルフレッドにここを見せてもらった時はね……ここには、まだ、何も置かれていない棚が並んでいるだけだったんだよ?」
ロイドはクスッと笑って、近くの棚に置かれた革袋を手に取った。
手の平の上で革袋を逆さにすると、色とりどりの宝石が出てくる。
「……僕はね、こんなものいくら集めても、君がいなきゃ何の意味も無いって思ってたけど……悔しいな、アルフレッドが正しかったみたいだ。でも、まさか、君が可愛らしい女の子を拾ってくるなんてね……」
宝石を袋に戻し、立ち上がったロイドは、涙ぐんだ目で肖像画を見上げる。
「――ほら、見てヴィリア、僕、頑張ったんだ」
ロイドが振り返り、両手を広げる。
目の前に広がるのは、巨大な倉庫――。
背の高い物品棚が十列以上、部屋の端から端まで続いている。
そして、その棚には無数の、絵画、美術品、宝石、金塊、書物などが所狭しと並べられていた。
「……リリィのことは心配しないで」
ロイドはそう呟き、肖像画のヴィリアに目を細めた。
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