13 / 32
第一章
招待状 1
しおりを挟む
――王宮・王の間。
バルコニーから王都を見下ろすエイラム王の元に、凱旋したアーガス王太子が姿を見せた。
「戻ったか」
「はい、父上。ウィルギスとは無事条約を締結しました。半年もすれば、人流も以前のように戻るかと」
「うむ、よくやった。これでしばらくは血を流さずに済むだろう……お前を誇りに思うぞ、アーガス」
「はっ、ありがとうございます」
アーガスは姿勢を正して頭を下げた。
そして、何度か目線を泳がせた後、ゆっくりと口を開く。
「ところで、父上……やっと、気になる女性を見つけました」
「ほぅ、それはめでたい! 心配しておったが、お前もやっとその気になったか……で、相手は?」
思いがけない言葉にエイラムが顔を綻ばせる。
「はい、ウィンローザ家の若き女侯爵をご存じでしょうか?」
エイラムの顔が一瞬曇る。だが、すぐに笑顔に戻り、
「おお、ウィンローザ卿か、噂は聞いておる」と何事も無く返した。
「彼女を凱旋パーティーに招待しようと思うのですが……いかがでしょう?」
「……うむ、主役はお前だ、好きにしなさい」
「ありがとうございます。では、私はこれで――」
アーガスは胸に手を当て、会釈をすると王の間を後にした。
§
「あ~、やっとゴロゴロできる~……」
背伸びしながらソファに寝っ転がっていると、開け放っていた扉をノックする音が聞こえた。
「リリィ、そんな格好していると、またアルフレッドに叱られるよ?」
顔を見せたのはロイドだ。
「大丈夫、今は居ないから、へへへ……」
横になったまま、顔だけ向けて答えると、
「誰が居ないのです?」と、いつの間にかアルフレッドが仁王立ちで私を見下ろしていた。
慌てて飛び起きて洋服の乱れをなおす。
「もう、ア、アルフレッドはいつも気配なさすぎなんだってば!」
アルフレッドは「そうですか」とそっけなく答え、
「それよりも、こんなものが届きました」と、指に挟んだ封筒を見せた。
私は起き上がってそれを受け取った。
「何これ……?」
「ふぅん、招待状だね、しかも王室からの……」
扉に凭れていたロイドが私の手元を覗き込んだ。
「え……王室?」
「早速、釣れたようで何よりです。上位貴族に話を伺う良い機会となるでしょう」
「釣れたって……誰が?」
「アーガス王子以外に誰がいると言うのです?」
アルフレッドはさも当然のように答えた。
「えっ⁉ でも、印象最悪だったと思うんだけど……」
「あの御方は、昔から少し変わった方に興味を惹かれるようですね」
「ちょっとそれ、どういう意味?」
「まぁまぁ、リリィが普通じゃないくらい可愛いってことだよ」
満面の笑みを浮かべたロイドが、恥ずかしげも無く言いのけた。
「なっ……⁉」
「なんとまぁ……」
「え? だって、そうでしょ?」
きょとんとした顔で、ロイドは私とアルフレッドを交互に見た。
「もう、その辺で結構です――、リリィ様、招待状を開けてみていただけますか?」と、アルフレッドが話を戻す。
「うん」
封筒を開けて中を見ると、ロイドの言うとおり王室からの招待状だった。
「凱旋パーティー……だって」
「あー、そういや条約が締結したんだよね?」
「となると、かなり上位の面子が期待できますが……リリィ様?」
王室のパーティーか……。
面倒くさそうだけど、アルフレッドの言うようにこれはチャンスだわ。
上位貴族の面々なら、社交界の内情や過去のスキャンダルについても詳しいはず……。
「行くわ、ヴィリアについて何かわかるかも知れない」
「――では、手配いたします」
「じゃあ、僕も予算組まなきゃね」
「予算?」
「そうだよ? ドレスやら宝石やら、パーティーにはお金が掛かるんだから」
「そ、そっか……」
「大丈夫、僕に任せておいてよ」
ロイドは片目を瞑って、ニッと口角を上げた。
不覚にも一瞬、可愛いと思ってしまった……。
これが三十路の男だなんて、世の中間違ってる。
部屋を出ていくロイドの後ろ姿を見ながら、私は小さく頭を振った。
バルコニーから王都を見下ろすエイラム王の元に、凱旋したアーガス王太子が姿を見せた。
「戻ったか」
「はい、父上。ウィルギスとは無事条約を締結しました。半年もすれば、人流も以前のように戻るかと」
「うむ、よくやった。これでしばらくは血を流さずに済むだろう……お前を誇りに思うぞ、アーガス」
「はっ、ありがとうございます」
アーガスは姿勢を正して頭を下げた。
そして、何度か目線を泳がせた後、ゆっくりと口を開く。
「ところで、父上……やっと、気になる女性を見つけました」
「ほぅ、それはめでたい! 心配しておったが、お前もやっとその気になったか……で、相手は?」
思いがけない言葉にエイラムが顔を綻ばせる。
「はい、ウィンローザ家の若き女侯爵をご存じでしょうか?」
エイラムの顔が一瞬曇る。だが、すぐに笑顔に戻り、
「おお、ウィンローザ卿か、噂は聞いておる」と何事も無く返した。
「彼女を凱旋パーティーに招待しようと思うのですが……いかがでしょう?」
「……うむ、主役はお前だ、好きにしなさい」
「ありがとうございます。では、私はこれで――」
アーガスは胸に手を当て、会釈をすると王の間を後にした。
§
「あ~、やっとゴロゴロできる~……」
背伸びしながらソファに寝っ転がっていると、開け放っていた扉をノックする音が聞こえた。
「リリィ、そんな格好していると、またアルフレッドに叱られるよ?」
顔を見せたのはロイドだ。
「大丈夫、今は居ないから、へへへ……」
横になったまま、顔だけ向けて答えると、
「誰が居ないのです?」と、いつの間にかアルフレッドが仁王立ちで私を見下ろしていた。
慌てて飛び起きて洋服の乱れをなおす。
「もう、ア、アルフレッドはいつも気配なさすぎなんだってば!」
アルフレッドは「そうですか」とそっけなく答え、
「それよりも、こんなものが届きました」と、指に挟んだ封筒を見せた。
私は起き上がってそれを受け取った。
「何これ……?」
「ふぅん、招待状だね、しかも王室からの……」
扉に凭れていたロイドが私の手元を覗き込んだ。
「え……王室?」
「早速、釣れたようで何よりです。上位貴族に話を伺う良い機会となるでしょう」
「釣れたって……誰が?」
「アーガス王子以外に誰がいると言うのです?」
アルフレッドはさも当然のように答えた。
「えっ⁉ でも、印象最悪だったと思うんだけど……」
「あの御方は、昔から少し変わった方に興味を惹かれるようですね」
「ちょっとそれ、どういう意味?」
「まぁまぁ、リリィが普通じゃないくらい可愛いってことだよ」
満面の笑みを浮かべたロイドが、恥ずかしげも無く言いのけた。
「なっ……⁉」
「なんとまぁ……」
「え? だって、そうでしょ?」
きょとんとした顔で、ロイドは私とアルフレッドを交互に見た。
「もう、その辺で結構です――、リリィ様、招待状を開けてみていただけますか?」と、アルフレッドが話を戻す。
「うん」
封筒を開けて中を見ると、ロイドの言うとおり王室からの招待状だった。
「凱旋パーティー……だって」
「あー、そういや条約が締結したんだよね?」
「となると、かなり上位の面子が期待できますが……リリィ様?」
王室のパーティーか……。
面倒くさそうだけど、アルフレッドの言うようにこれはチャンスだわ。
上位貴族の面々なら、社交界の内情や過去のスキャンダルについても詳しいはず……。
「行くわ、ヴィリアについて何かわかるかも知れない」
「――では、手配いたします」
「じゃあ、僕も予算組まなきゃね」
「予算?」
「そうだよ? ドレスやら宝石やら、パーティーにはお金が掛かるんだから」
「そ、そっか……」
「大丈夫、僕に任せておいてよ」
ロイドは片目を瞑って、ニッと口角を上げた。
不覚にも一瞬、可愛いと思ってしまった……。
これが三十路の男だなんて、世の中間違ってる。
部屋を出ていくロイドの後ろ姿を見ながら、私は小さく頭を振った。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
一体何のことですか?【意外なオチシリーズ第1弾】
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【あの……身に覚えが無いのですけど】
私は由緒正しい伯爵家の娘で、学園内ではクールビューティーと呼ばれている。基本的に群れるのは嫌いで、1人の時間をこよなく愛している。ある日、私は見慣れない女子生徒に「彼に手を出さないで!」と言いがかりをつけられる。その話、全く身に覚えが無いのですけど……?
*短編です。あっさり終わります
*他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる