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第一章

凱旋パレード 1

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 街の大通りには、アーガス王子の凱旋を一目見ようと見物客が集まっていた。
 親衛隊の兵士達が大きく手を振りながら、王宮へ向かっている。

「おい、リリィ、あんまり離れないでくれ」
 遅れてきたジョンが私の手を握った。

「あ、ごめん、つい」
「迷子になったらどうするんだ?」と、眉間に皺を寄せる。
「迷子って……ジョン、私をいくつだと思ってるの?」

 ジョンは一瞬、虚無の表情を見せ、
「あれ? いくつだっけ?」と小首を傾げた。
「もう! 十七よ、十七!」

「ご、ごめん……でも、心配でさ……」
「ほら、王子が来るわよ」

 遠くの方で歓声が上がっている。
 まだ見えないけど、王子が到着したのだろう。

「――うわっ⁉」
 叫び声に目を向けると、親衛隊の一人が孤児を突き飛ばしていた。

「この小僧! 王子の凱旋を邪魔するとは……」

『ちょっと、まだ小さい子じゃないの!』
『そうだ、勘弁してやれよ!』

 見物客が助けに入る。
 だが、兵士は高ぶっているのか、憤りを抑えきれない様子だ。

「黙れ! 俺達はお前らの為に命を賭けて戦ってやったんだぞ!」

「ご、ごめんなさい! わざとじゃないんです!」

 必死に頭を下げて許しを乞う少年。
 辺りには大きな竹笊たけざると数匹の青魚が散らばっていた。

「この汚らしい孤児が……」

 私の中で何かが切れる音がした。
 気付くと少年の前に立ち、私は兵士を睨みつけていた。

「な、何だ、お前は……⁉」
「謝りなさい!」

「何を……どけ! 邪魔だ!」
「どかないわ! この子に謝りなさいっ!」

「こ……の、女ぁ!!」
 兵士が手を振りかざした瞬間、私の背後から突き出た腕が兵士の首を掴んだ。

「ぐがっ……⁉」
「――彼女に触れるな」

「お、おい! 貴様! 何をやっている⁉」
 あっという間に兵士達がジョンを取り囲んだ。

「ちょ、ちょっとジョン⁉」
「悪いなリリィ、やっちまった……」

 ジョンは兵士を持ち上げたまま眉を下げ、私に情けない笑みを向けた。
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