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第一章
社交界デビュー 2
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騒然としていた場が、水を打ったように静まりかえる。
その中でプリシラだけは、一人恥辱に震えていた。
(な、なんなのよ、これは……)
先程までは、プリシラが場の視線を一点に集めていた。
だが、今はエスコート役を買って出たフィリオ殿下でさえ、あの得体の知れない女に目を奪われている。
『ウィンローザ家が公の場に現れるとは何事だ?』
『ヴィリア侯はお亡くなりになったと聞いたが……』
『見ろ、あの美しい白金の髪色を……かつてのヴィリア侯を彷彿とさせるではないか』
「プリシラ様、少し失礼を――」
「あ、フィリオ殿下……」
プリシラの手を離し、フィリオはウィンローザ家の馬車から降りたレディに声を掛けた。
「お初にお目に掛かります、エイリスヴェルダ公爵家のフィリオと申します……ウィンローザ家の御方とお見受けしますが……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
場が一斉に静まりかえった。
誰もが謎の淑女の言葉を待っている。
だが、淑女は質問には答えず、微笑を浮かべたままだ。
「どうかされ――」
そう、フィリオが口を開き掛けた時、隣に立つ執事が口を開いた。
「フィリオ殿下、並びにお集まりの皆様、お騒がせして申し訳ございません」
『お、おい、あれは……アルフレッドだぞ⁉』
『また随分と懐かしい顔だな……』
『ウィンローザ家の執事……では、あれが噂の……『霧』か』
「こちらは我がウィンローザ侯爵家現当主――、リリィ・ウィンローザ様でございます。正式なご挨拶は後ほど」
恭しく頭を下げる執事。
そしてリリィをエスコートして会場に入っていく。
残されたフィリオは、ぽかんと口を開けたまま、その場に立ち尽くしている。
『おい、あのドレス……』
『まぁ……流行色ではないわね』
リリィが纏った真紅のドレスに注目が集まる。
中には流行遅れだと嗤う声もあった。
だが、ヴィリアを知る古参貴族達は、亡き先代当主が愛用したドレスを仕立て直し、この特別な日に着ることで、ヴィリアはもちろん、貴族社会の歴史そのものに敬意を表しているのだと好意的に受け取っていた。
ルーカスとの特訓で培ったリリィの流れるような歩き姿は、残光の如く見る者の目に焼き付き、二代に渡りロイドが調香した香水は、忘れ得ぬ薔薇の残香を皆の心に落とした。
誰もがリリィの美しさに心を奪われ、感嘆の息を漏らしている。
それは、フィリオやリロイも例外ではなかった。
ただ一人、憎らしげに扇子を握り絞める、プリシラ・スノウホロウを除いては……。
その中でプリシラだけは、一人恥辱に震えていた。
(な、なんなのよ、これは……)
先程までは、プリシラが場の視線を一点に集めていた。
だが、今はエスコート役を買って出たフィリオ殿下でさえ、あの得体の知れない女に目を奪われている。
『ウィンローザ家が公の場に現れるとは何事だ?』
『ヴィリア侯はお亡くなりになったと聞いたが……』
『見ろ、あの美しい白金の髪色を……かつてのヴィリア侯を彷彿とさせるではないか』
「プリシラ様、少し失礼を――」
「あ、フィリオ殿下……」
プリシラの手を離し、フィリオはウィンローザ家の馬車から降りたレディに声を掛けた。
「お初にお目に掛かります、エイリスヴェルダ公爵家のフィリオと申します……ウィンローザ家の御方とお見受けしますが……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
場が一斉に静まりかえった。
誰もが謎の淑女の言葉を待っている。
だが、淑女は質問には答えず、微笑を浮かべたままだ。
「どうかされ――」
そう、フィリオが口を開き掛けた時、隣に立つ執事が口を開いた。
「フィリオ殿下、並びにお集まりの皆様、お騒がせして申し訳ございません」
『お、おい、あれは……アルフレッドだぞ⁉』
『また随分と懐かしい顔だな……』
『ウィンローザ家の執事……では、あれが噂の……『霧』か』
「こちらは我がウィンローザ侯爵家現当主――、リリィ・ウィンローザ様でございます。正式なご挨拶は後ほど」
恭しく頭を下げる執事。
そしてリリィをエスコートして会場に入っていく。
残されたフィリオは、ぽかんと口を開けたまま、その場に立ち尽くしている。
『おい、あのドレス……』
『まぁ……流行色ではないわね』
リリィが纏った真紅のドレスに注目が集まる。
中には流行遅れだと嗤う声もあった。
だが、ヴィリアを知る古参貴族達は、亡き先代当主が愛用したドレスを仕立て直し、この特別な日に着ることで、ヴィリアはもちろん、貴族社会の歴史そのものに敬意を表しているのだと好意的に受け取っていた。
ルーカスとの特訓で培ったリリィの流れるような歩き姿は、残光の如く見る者の目に焼き付き、二代に渡りロイドが調香した香水は、忘れ得ぬ薔薇の残香を皆の心に落とした。
誰もがリリィの美しさに心を奪われ、感嘆の息を漏らしている。
それは、フィリオやリロイも例外ではなかった。
ただ一人、憎らしげに扇子を握り絞める、プリシラ・スノウホロウを除いては……。
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