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Extra 2 短髪のフレディ
しおりを挟む離れエリーゼの部屋
チョキ、チョキ……
エメラルドグリーンの長い髪が床に落ちていく。
ケープをつけて椅子に座るフレディと、その背後から髪を切るレイア。
私は下手な遺書を書きを終えて、紅茶を飲みながらハイテーブルで一息ついていた。
男性にしては珍しい、肩甲骨の下まで伸びた長髪。
それが、レイアの見事な技術によって、短く整えられていく。
綺麗な髪なので、どこか勿体なくも思うけれど。
「髪を切るのは、変装のためですか?」
フレディといえば長髪が目印だ。
このエメラルドグリーンの長髪は、遠くからでもとても目立つ。
他にここまでの長髪の使用人が歩いているところを見たことがない。
「ええ勿論それもありますが……一番の目的は死体の偽装に使用するためです」
「えっ?髪を?
死体の偽装に使うんですか?」
切った髪で、死体を偽装できるの?
全然、仕組みが分からない。
髪を切っているレイアも、少し驚いたような顔をしている。
「……そうですね、少し説明しておきましょうか」
そう言いながらも、少しだけ言うのを躊躇う気持ちがありそうにも見えた。
「今回の偽装死体の基本構造は、形代です」
形代……
そう言われても、まだピンとは来ない。
確か形代って、魔力を流して本人の姿に見えるってやつだったと思うけど。
「えっと、形代で出来るの?」
「はい、発動する魔法によって、形代は死んでいるように見せることも可能です。
ですが、今回はそれを山に放置して逃走するので、私が魔力を流し続けることは出来ません。
必要な仕掛けは、形代に魔法碑の欠片をつけ、骨付き肉を必要な本数置き、それに破れた服を着せて人毛を付けるというところです」
なんだか分からないけど、手が込んでることだけはわかった。
「なるほど、魔法碑を……
魔力を流し続けることができないから、魔法碑の魔力を使うということですね?」
少し驚きながらも、レイアがフレディに聞いた。
「その通り。
……ですが、魔法碑の欠片も、その貯蔵している魔力を全て放出してしまえば消えて無くなります。
そこで、骨付き肉や人毛、服が必要になるのです。
3日後の埋葬までは魔法碑の欠片で偽装死体は保てます。
しかし、その後は跡形もなくなる。
なんの重さもない、腐乱臭もない、髪も服もない、それは怪し過ぎますから」
「……すごい」
「そんなところまで考えていたんですね」
私もレイアも、その偽装方法に感心してしまう。
「過去の資料にそれで偽装死体と発覚したケースがあっただけですよ。
今回は、その改善点を考慮して偽装死体を作成します。
骨付き肉があれば、動物や虫も寄ってくるでしょうから、より死体らしくなって良いと思いまして」
「そうなんだ……」
私の髪の毛を麻袋に入れて保管していた意味が、ここにきてようやく分かった。
「勿論、こんなことは魔法の教科書には載っていませんよ。
調べ尽くしましたから、死体を偽装する方法を」
「それってつまり……かなり前から計画していたってこと?」
こんなこと、すぐに思いついて行動なんて出来ない。
「お気づきと思いますが、私はエリーゼ様の執事に就任してから、エリーゼ様をお助けするための方法をずっと探していました。
どのパターンでも動けるようにと考えてはいましたが、この家から逃亡する可能性が一番高いと思っていました。
そのために、死体の偽装が必須であると考えていました。
何もかも、かなり前からの計画です」
そこでハッとする。
まさか……
「憶えています……
そういえば、フレディと最初に会った頃は……」
遠い記憶、5歳だった私に、就任の挨拶をしてきた執事は……
フレディは目を閉じて頷いた。
「フレディの髪は短かった……」
いつからか、その髪を伸ばすようになった。
「この方法を思い付いてから、髪を伸ばしましたよ。
……エリーゼ様をこの離れから連れ去り、どこか遠くに逃亡するために」
チョキ……という音と共に、一房の髪が床に落ちる。
この執事の狂気を垣間見てしまった気がした。
フレディは、私と生きる覚悟を、私が想像するよりもずっと前からしていた……
この秀麗な執事が私を虐めながらも、共に逃げたいだなんて……
少しだけ、背筋がゾクっとした。
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