【R15】専属執事に階段から突き落とされたのですが、どうも様子が変です。【完結】

ヨウカン

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56 純白のワンピース

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ジーモンとスーザン


『今日中に急ぎ届けてください』


その指示を受けて、アイネリス家の離れに足を運んだ。


ジーモンの判断は正しかった。


針子たちにボーナスをあげて、急ぎ作らせておいて本当に良かった。


早くこの件を終わらせないといけない気がするから。




数日ぶりに来たこの別邸は少し様変わりしていた。


「なんだか、綺麗になってるわね」


「確かに、そうだな」


虐待している娘への態度を改めたのだろうか。


玄関のチャイムを鳴らすと、無表情なメイドが出てきた。


「サンダース商会です、お届けに上がりました」


「お待ちしておりました、どうぞ」


室内も綺麗になっていて、なんと一階に立派な応接室が出来ていた。


厄介ごとには巻き込まれたくないので、突っ込んで聞くことはしないが。





商品を並べて少し待っていると、エリーゼ様とその執事が現れた。


「お待たせしました、よろしくお願いします」


あ……変わってる……!


その表情は明るく、頬に赤みが差していることに気づく。


痩せこけていた彼女は、心なしか体格が良くなっており、まだ通常の女の子とは言えないものの、全体的に肉がついて、健康状態がかなり改善しているように見て取れた。


良かった……食べさせてもらえているみたい。


その姿を見て、安堵した。


「エリーゼ様、お待たせいたしました。
こちらがご注文のお品です」


ジーモンが服の箱を開けると、エリーゼ様の表情が輝く。


「わぁっ、可愛い!」


箱の中には純白のワンピースと白いシューズ、クリアビーズのネックレスだ。


飽きのこないようなシンプルなデザインで、日常使いしやすいように、そこまで華美にはなっていない。


「気に入っていただけて良かったです。
袖を通していただいて、おかしなところがあればすぐに直します」


作業鞄も持ってきている。


でも、エリーゼ様のこの肉付きの感じだと、すぐに着れなくなくなってしまうかもしれない。


「はい、それでは着て来ますね」


エリーゼ様とメイドは箱を持って退出された。





「請求書はアイネリス家に送ってください」


執事からそう告げられる。


「はい、かしこまりました」


いつもの請求に入れればいいとのこと。


アイネリス卿も、ようやく娘を可愛がり始めたようだ。


ほっと胸を撫で下ろす。


この前の状況があまりに異常だったから。


程なくして、着替えたエリーゼ様が戻ってきた。


「すごく可愛くて、嬉しいです」


純白のワンピース、リボンの付いた白い靴、クリアビーズのネックレスのその姿は、とても可憐で清らかで儚げな印象になる。


「サイズもぴったりでした」


メイドの言葉にホッと胸を撫で下ろした。


「それは良かったです」


ジーモンも安心したようだ。


くるりと回ってにこにこと笑うエリーゼ様とは対照的に、どこか悲しそうな笑顔を向ける執事とメイド。


「良かったですね、エリーゼ様。
とても似合っていますよ。
……最後にこんなに可愛い服が着れて、本当に良かったですね」


……最後?


執事の言葉に、ぴくりと反応しそうになった。


ジーモンから目配せを受ける。


何も言ってはいけない。


「はい、とても幸せです。
……最高の思い出です」


眉を下げて笑うエリーゼ様の表情に、悪寒が走った。


嫁ぐ前にしたっておかしい。


こんな悲しそうに最後だなんて、言うだろうか。


あの無表情だったメイドも、うっすらと涙を浮かべている。


なんなの、これは……


嫌な予感が駆け巡る。


そんなはずはない、そんなはずは……


頭に浮かんだ嫌な想像を、必死にかき消した。







それから、またあのカエデ道を2人で歩いて帰る。


言葉が出ない。


納品はいつもお客様の笑顔が見られる楽しいものだ。


なのに……あんなに悲しい笑顔があっただろうか。


ジーモンは店に着くと、事務所に引きこもってしまった。


何かわからないけれど、嫌なことが間違いなく起こる。


新聞を見るのが、しばらく怖くなりそうだ。













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