【R15】専属執事に階段から突き落とされたのですが、どうも様子が変です。【完結】

ヨウカン

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横抱きに抱き上げられて、連れて行かれたのは隣の部屋。


「あっ」


フレディの部屋のベッドに降ろされた。


「あの、フレディ?」


もうすぐお昼になるというのに、この部屋の濃いブラウンのカーテンは閉じられていて室内は薄暗い。


フレディを見上げるけれど、少し暗くて表情が分からなかった。


……ああ、何か似てる。


……私が自殺した直後、階段の上で座り込んでいた時に、薄暗い廊下の奥からコツコツと靴音を鳴らして現れたフレディのことを急に思い出した。


爬虫類のような冷たい瞳で、暗がりから歩いてきた時に、ちょうどこんな雰囲気だった。


フレディはベッド脇に立ったまま、私を静かに見下ろしている。


沈黙を破ったのは、フレディだった。


「……エリーゼ様がその命を捨てるとおっしゃるなら、身分違いも、年齢差も、エリーゼ様が子供で判断がつかないことも、何もかも関係ない。
私はエリーゼ様が……本当に欲しいんですよ」


「え……?」


命を粗末にすることを怒っているのか、それとも……


「とても長い時間、我慢をしてきました。
呪魔法で行動を縛られていた時もそう。
エリーゼ様が大きくなることを望んで、幸福になることを望んできた。
エリーゼ様が幸せになれるなら、エリーゼ様が選んだ好きな相手と結婚することを応援しようと、本気で思っていましたよ。
……でも、ダメです。
変態だと詰られても、理解されなくても構わない。
心から望むそれが、今、目の前に落ちてきてしまった」


「何を……言っているの?」


わからない。


フレディが、何を言っているのか。


「わかりませんか?
こんなにも、エリーゼ様を愛しているんですよ」


フレディは私ににじり寄り、ベッドの上に向かい合うように座った。


そして当然のように、愛の言葉を口にする。


「なんで……こんな時に、そんな……」


魔封じの呪いの話を聞いて、こんなに頭が混乱しているのに。


今、そんなことを言われたって……


手を伸ばし、その長細い指で私の頬に伝う涙を拭った。


これは、今までみたいに子供をからかっている感じじゃない。


いつもみたいに、わざと大袈裟な言い方をしているわけじゃない。


このフレディは、本気だ……


「大切にしますよ、私のエリーゼ様」


エメラルドグリーンの瞳に、吸い込まれそうになる。


恋心を抱いている相手に、真剣な目でこんなことを言われて、心がときめかない訳はない。


でも、肉親に地獄に落とされた悲しみと、初恋の成就の喜びがないまぜになっていて、理解が追いつかない。


そんな中、顎に手を添えられて、フレディの顔が迫ってくる。


ま、まさか……キスされる?


心の準備が、まだ!


「待って!」


頭を下げて、両手を前に突き出した。


「ふふっ」


それを鼻で笑うフレディ。


ぐいっと腕を掴まれ、強引に引き寄せられ、気づけばフレディの腕の中にすっぽりとおさまっていた。


「可愛いですね。
キスは嫌ですか?身体を触られるのも?
でも、許しませんよ。
私はエリーゼ様の命を、頂きましたから」


に、逃げられない!


両腕が私の背中と腰にがっちりと回っている。


「っは!」


肺が押されて空気が漏れた。


強い力が加わって、これ以上ないくらい体が密着している。


いつの間にか、ベッドの上で安座で座るフレディにの上に、対面で跨るような体勢にされてしまっていた。


「私を煽ったのは、エリーゼ様ですよ。
二夜連続であのようなお姿を見せられ、今日は命がいらないなとどおっしゃる。
私にしてみたら、誘っているようにしか見えない。
理性を壊すのが、本当にお上手です」


昨夜のことがにわかに思い出されて、かぁっと顔が熱くなる。


恥ずかしい姿を見られたという実感が湧き上がってきた。


こんなに密着した体勢で、直接耳にかかる低い声に心を乱されていく。


昨夜とは違う、本物のフレディの身体。


首の近くから香る、フレディの匂い。


だめ、このままじゃ、本当に……


「良い子にしていてください」


そのまま後ろに身体を押し倒され、手首を押さえつけられる。


「待って!ダメ!」


「できれば、エリーゼ様と想い合って結ばれたかったのですが……仕方ありませんね。
大丈夫ですよ、お体に負担が出ることは致しません。
ですが、長年こじらせて来たので、少しだけ長いかもしれません……エリーゼ様は私に身を委ねているだけでいいですからね」


レイアから聞いた、この状況は……!


お、襲われる!!


私を組み敷いたまま、口で手袋を外してその辺にポイっと投げると、片手で私のワンピースのボタンに手を掛ける。


脱がされる!


このままじゃ、ダメ!!


「いる!命いるから!
死にませんから!
ちょっと待ってください!」




少しの間、静寂が駆け巡る。
 



一気にそう言うと、「チッ」と舌打ちが聞こえた。


なんかこの感じ、すごく懐かしい。


フレディはジトリとした目でこちらを見下ろすと、盛大なため息をついた。


「……さっき、手袋で口を塞いでおけば良かったと、心底後悔していますよ。
そうでなくても、キスの一つくらいしておけば良かった」


恨み言を吐き捨てるように言うけれど、本当になんてことを言うんだろう。


「エリーゼ様にはわからないでしょうが、私にとってはこれがエリーゼ様を欲しいままにできる、一生のうち最後のチャンスだったかもしれないんですよ」


「なっ!何を言っているのか全然分かりませんが、どいてください」


「ハァ……まぁ、いいですよ。
お楽しみは後に取っておくのも嫌いじゃないですから」


フレディは私の上から退くと、ベッドの上に落ちている手袋を拾い、肩を落としながら付けている。


本当に襲う気満々だったみたいだ。





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