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52 魔封じの呪い
しおりを挟む「私には魔力が無かったから……
だから、この家のお荷物で……
それで、憎まれて……
そのはずじゃあ……」
カタカタと震え出す手に温かい手が重なるけれど、この震えが止まることはない。
「何があっても私がお側にいます。
ご安心ください」
強烈な悪意に、心臓まで凍ってしまいそうだった。
「だ、誰にやられたの?
ねぇ、私に何があったの?」
すると、フレディは苦々しく眉を下げる。
「エリーゼ様の身体に刻まれたそれは、強い儀式によって行われたものです。
そして、私やレイア、恐らくは他の使用人にも、エリーゼ様に対する行動を縛る呪魔法が掛けられていました。
こんな手間のかかる非人道的な魔法を、世間に知られずに実行できる人なんて、ほとんどいないでしょう。
できるとしたら、国家そのものか、もしくは魔法省の長官であり、この家の主人……つまりアイネリス卿くらいでしょう」
「っ!?」
心が黒く染まっていく。
ああ、そんなことがあるのか。
自分には、どうしようもできないことだった。
「……最初から、私は生まれてきただけで……嫌われてたのね」
今までは、親に愛されないのは魔力なしで生まれた自分のせいだって思っていた。
それで、自分を納得させていた。
だけど、その原因が自分に無かった。
私は親から呪いを刻まれ、使用人から嫌われるように仕組まれていた。
「憎まれる理由なんて、私には無かったのね……」
だったら……
どうしてこんなことを……
「そっか…………ただ、嫌われてただけ……」
ああ、そんなことか……
こんな灰色の髪もこんな暗い青い目も、愛される姉と妹とは違う。
彼女たちは綺麗なライラックの髪、宝石のようなアメジストの瞳。
なんだったんだろう、私って……
生まれてきたことや、虐められながら生きてきたことを後悔した。
なんで耐えていたんだろう。
最初から嫌われていたのに。
一度だって、愛されなかった。
涙がぽたりと落ちる。
「エリーゼ様……」
フレディがハンカチで涙を拭ってくれるけれど、情けないほどに涙が流れる。
「っく、私……こんな人生は辛いよ。
嫌だよ、逃げたいよっ!」
「エリーゼ様が望むなら、逃します。
あなたの望みを叶えるために、私はここにおります」
「ねぇ、じゃあ……」
フレディは私が何を願っているのか、気づいている。
「いえ、殺すことだけはしません。
自殺もだめです。
他の望みなら、なんでも叶えます」
その答えは残酷だった。
「もう辛いの……愛されずに生まれて、嫌われて、苦しめられて、もう全部たくさんなの!
何もかも終わらせたいっ!」
ぽた、ぽた、ぽた……
苦しみの涙が止まらない。
フレディにもらったハンカチでは、もはや受け止めきれない量になっている。
「エリーゼ様が幸せになれる道を探しましょう。
私がなんでもいたします」
「生まれてきて、すぐに嫌われたの!
私が欲しかったものは、最初から無かった!
この先も、永遠に手に入らない!!」
私が受け取れるはずの、親からの無償の愛なんてどこにも無い。
姉や妹が当たり前にもらっているその愛が、私にだけ無い。
「いらないよ……こんな命、いらない!!」
すると、強く身体が引き寄せられた。
フレディは私を抱きしめて、人攫いのように抱き上げてしまう。
「……いらないなら、もらいますよ」
感情の読み取れない、低い声だった。
「え?……え?」
「私がもらいます。
構いませんよね?」
何を言っているの?
身体が浮き、そのままどこかに運ばれていく。
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