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47 その晩
しおりを挟むレイアにお風呂に入れてもらって、ドキドキしながら部屋に着く。
パジャマに身を包んだ私はベッドに座り、フレディを待っていた。
すっかり綺麗になった部屋で待つ時間は、嫌いじゃないけどやっぱり長く感じる。
覚悟は決まっているはずなのに、緊張でずっと胸がバクバクしていた。
ーーコンコン
ひえっ!
「っ!ど、どうぞ」
「失礼いたします」
トレーに酒瓶とグラスを持ったパジャマ姿のフレディが入室する。
それをハイテーブルに置くと、結っていない長髪を揺らしながらひらりとこちらを振り返った。
「エリーゼ様……本当によろしいのですか?」
フレディはきっと分かっている。
私があの光景を見てどう思ったか、どう惨めさを感じたか。
姉に嫉妬し、ヤケになっているのではないかと。
それもあって、とても心配そうに私を見ている。
でも、私は変わりたい。
「……はい、お願いします。
私、魔力をつけて人生を変えたいんです」
「そうですか……わかりました。
それではお注ぎします」
昨日と同じエイママギサスのお酒がグラスに満たされていく。
そして、ベッドに座る私にそのグラスを渡してくれた。
「私は、エリーゼ様に嫌な思いをさせたくありません。
ですから、嫌だったら嫌だと遠慮なくおっしゃってください」
「大丈夫です、わかってます」
「では、こちらを置いておきます」
ベッドの上に置かれたのは、手のひらサイズの人型の紙だ。
「これが……例の?」
「はい、これが形代です。
ご覧の通りただの紙です」
隣の部屋からこれに魔力を流せば、フレディの幻になるらしい。
そんなことが本当に可能なのか、やってみないと分からないけれど。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
そう言うと、フレディは観念したように溜息をつく。
「エリーゼ様のお望みでしたら、なんでも叶えます。
どうか、忘れないでください。
それと、お部屋の鍵は外側から私が掛けておきます。
それでは、失礼いたします」
酒瓶とトレーを回収して、フレディは部屋を出ていった。
扉が閉まった直後にカチャリと錠が降りる音が聞こえる。
あとは、これを飲むだけ。
妖しく揺らめくワインの水面を見て、覚悟を決める。
ぐいっ
一口飲めば、芳醇な甘味と酸味が瞬く間に広がる。
お、美味しい。
渋みがない、子供でも飲めるような美味しいワインだ。
味が好きなので、1人でも難なく飲める。
むしろリラックスしてきた。
もう一口。
そうやってグラスを傾けると、不意にすぐ隣から声がした。
「そう一気に煽らなくても、少しずつで大丈夫ですよ」
「ひあっ」
びっくりして、グラスを落としそうになるのを、フレディが支えてくれた。
「フレディ?」
「はい、エリーゼ様。
形代は問題なく使えたみたいですね」
何もないところから突然現れた、フレディの幻。
どう見たって本物にしか見えないし、今だってグラスを支えてくれてるようにしか見えない。
「ゆっくり飲みましょう。
こぼさずに、ね」
その長髪が、肩からさらりと流れた。
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