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40 フレディの部屋

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感覚が鋭くなっていく。


心臓の音、血液の流れ、身じろぎするたびに擦れる皮膚感覚、フレディが部屋に戻ってくる足音。


これが酔った感覚なのか、それとも魔力が作り出されている過程なのか、分からない。


ーーガチャ


ドアの開く音がした。


ぐにゃぐにゃと歪む視界でフレディの輪郭を捉える。


「エリーゼ様、お加減はいかがですか?」


とても心配そうに声をかけてくれるのに。


「うう、あ……」


まともな言葉にならない理由は、その鼓膜を揺らす低い声に身体が痺れてしまうせい。


「もしかして、気持ちが悪いのですか?
申し訳ございません、お酒をもっと早く止めさせるべきでした。
こういう時はお水を飲んで、吐いてしまった方が楽になります。
しかし……エリーゼ様の部屋を汚すわけにはいきませんので、私の部屋にお連れ致します」


その言葉の意味を理解できるのに、別のことにばかり気が回る。


その低い声の振動を過敏な感覚で受けてしまい、ゾクゾクとする身体を鎮める方に意識を集中してしまう。


正気を保つことで精一杯だった。


全身に正体不明の鋭い感覚が駆け巡っていくのを、目を閉じて両肩を抱く様にして耐える。


だから、フレディの動きを見落とした。


にわかに背中と膝の裏に手が回されて、ふわりと身体が持ち上がる。


「っあ!」


肌に食い込む指の感覚に、思わず声が出てしまった。


羞恥に顔が熱くなるけれど、フレディは意にも介さない。



「すみません、痛いですか?
すぐお運びしますね」


フレディが一歩ずつ歩くたびに、足の裏がぶらぶらと揺れる。


私の部屋を後にしたフレディは、私を抱えたまま器用にも隣の部屋のドアを開けた。


ーーキィ


扉が開かれると、薄明かりの部屋の中で、すとんとベッドの上に降ろされる。


「!!」


ベットに降りた途端に肺を満たすのは、フレディの香り。


どうにかなってしまいそうだ。


「フレ……」


「エリーゼ様、お水は飲めますか?」


「ううっ」


是とも否ともつかないけれど、フレディは私の上半身を起こして、口元にグラスを差し出す。


当然、水を飲むどころではない。


フレディのベッドで、こんなに密着して水を与えられるなんて、どうかしている。


「っごほっ」


うまく飲めるはずもなく、口の端からだらだらと水を溢し、そのいく筋もの水滴が首から鎖骨、胸に這ってしまう。


「っ!申し訳ありません、すぐにお拭きします」


心底申し訳なさそうなフレディは慌てて、机の上のタオルに手を伸ばした。


「っうう!」


手にしたタオルで口の周りから首、胸にかけて拭いてくれるのに、拭かれるたびにどうしようもない感覚に襲われる。


手のひらや足の裏まで響くほどにむず痒く、耐え難いものだった。


「エリーゼ様?痛かったですか?」


そのエメラルドグリーンの瞳と目が合った。


「たすけ……」


どうにか声を絞り出す、そうしないと、おかしくなってしまう。


この迫り来る全身の過敏な感覚を、どうにかして欲しい。


「エリーゼ様?
どのように苦しいのですか?」


私はどくどくとする心臓をおさえた、つもりだった。


しかし、フレディにはそうは見えていない。


「ああ、服が濡れているのが嫌なのですね。
すぐにお着替えを……」


その言葉が、どこか遠くに聞こえた気がした。




















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