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36 猜疑心
しおりを挟む2人っきりになった室内。
ベッドの上に横たえられ、診察は始まる。
ベッドサイドに座るクリス先生は、私の頭やお腹に手を翳し、いつものように手のひらから出るほわりとした緑の光を当ててくれる。
翳された部分はほのかに温かくなって痛みが和らぐ。
これは回復魔法だと、昔教えてくれた。
「うん、月のもので間違いなさそうだね。
おめでとう、リーゼは大人の身体になったよ。
なるべく温かくして、2、3日は安静にしておいてね。
痛み止めの飲み薬を出しておくよ」
黒い鞄を手に取ると、そこから薬の袋を取り出して、ハイテーブルに置いてくれる。
「あ、ありがとう。
クリス先生、あのね……話したいことがあって」
「なんだい?」
「えっと……」
私はフレディに階段から突き落とされたこと、フレディが呪魔法が解けたと言ったこと、レイアにハサミで刺されそうになったこと、レイアは悪魔がいなくなったと言ったこと、その後2人はとても優しく接してくれることを話した。
全て話し終えると、クリス先生の顔色が変わった。
穏やかな態度から、何か焦りを帯びた様に見て取れる。
「うん、さっきのフレディのあの態度はおかしいとは思っていたよ。
そうか、呪魔法……」
長い脚を組んで考え込む姿は、絵になっている。
その薄紫の瞳は窓の外のどこか一点をじっと見つめると、長いまつ毛を伏せた。
どこを見ているのか目で追ったけれど、どこかまでは分からない。
「リーゼは、これからどうしたいと思ってるんだい?」
「え?これから?」
そう聞かれて、少し呆気に取られた。
てっきり、私の話したことに対して何か聞いてくると思っていた。
自分でも変な話をしている自覚があったのに。
「えっと、これからは……フレディとレイアに支えられながら、立派な令嬢になれるように頑張ろうと思ってるよ」
思っていたことを、そのまま話す。
すると、クリス先生はにっこりと微笑んだ。
「そうだね、リーゼならきっと素敵な令嬢になれるよ」
「うん、ありがとう先生」
そう言う語尾は、少しだけ震えてしまう。
……なんだか、変だ。
確信は持てないし、その理由も分からないけれど、クリス先生の態度に違和感を覚えた。
あれほど心から信頼し、待ち焦がれた人なのに。
どうして、だろう。
どうして、クリス先生を怖く思うのだろう。
なぜ、こんな変な話をまるごと受け入れた?
なぜ、真っ先に聞いてくることが、今後のこと?
「ごめんね、今日は緊急で来たからあんまり時間がなくてね、次の定期診療の時にまた話そうね」
そう言われていつものように頭を撫でられた。
「うん、分かった」
こくりと頷いて、先生が退出するのをベッドから見送る。
不思議と、いつもの様に離れがたい気持ちは起こらなかった。
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