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32 血赤色の印
しおりを挟む夢を見た。
大きな人喰い鬼から逃げる夢だ。
身体中を擦りむいて、やぶれかぶれになりながらも、必死に逃げる。
家具の上をよじ登り、テーブルの下を半ば転げ回りながらもくぐり、あちこち身体をぶつけて服が裂けながらも、全速力で走り抜けた。
だだっ広く薄暗い屋敷の中を逃げ回って、見つかるかどうかも分からない出口を探して、追いかけてくる巨体の鬼に身の毛をよだたせながらも走るしかなかった。
へとへとになりながら鬼に追いつかれないように屋敷を駆け回っていると、一つだけ綺麗な光の差し込む窓を見つけた。
あれは間違いなく出口だ。
すぐに駆け寄り、立て付けの悪いガラス窓を無理矢理に両の手でこじ開けて、脱出を試みた。
は、早く、早くしないと!
しかし、焦れば焦るほど指は震えて、窓を開ける操作は上手くいかない。
それを力任せに何とか小さくこじ開けて、どうにか光の方へ這い出ようとする。
けれど、窓自体が小さくて肩がつっかえてしまう。
それでも、逃げないと!!!
そうもがいているうちに、背後でミシリと木が軋む音がした。
「!!!!!」
不意に足首を圧迫されたような痛みが走る。
振り返って見れば、明らかに禍々しいオーラを放っている鬼が、一切の躊躇なくその無骨なおぞましい腕で、がしっと私の足首を掴んでいた。
「っ!!!」
脚をばたつかせて半狂乱になりながらも必死に窓枠にしがみつく私を、その化け物はいとも簡単に引っ張り出す。
声にならない声を上げながら、私の体は暗闇の方へ引き摺り込まれた。
やだ!離して!!
そう言いたいのに、声は出ない。
そうしているうちに鬼は私の足首を頭上に掲げて、私を宙吊りにしてしまっていた。
ひいいいいいい!
眼前に広がるその大き過ぎる口から覗くノコギリのようなギザギザの鋭い歯が、これから訪れるであろう激痛と死を嫌でも想像させる。
そして、一際大きな口を開けると、その鋭い歯で迷わず肩口を食いちぎった。
視界には真っ赤な鮮血が一斉に吹き飛ぶ。
いやあああああああ!!!
恐怖は限界を超えているのに、不思議と痛みはない。
それでも抵抗しようとするも、鬼の力に敵うわけはなく、腕を、肩を、首を、脇腹を、脚を無惨にも食いちぎられた。
血と臓物と脂が舞い散る中、ボキっ、ゴキっと骨まで砕かれる音が室内に響き渡る。
そして最後に、血溜まりの中で鬼は満足そうに笑った。
「っあっっ!!!」
大きな声を上げながら目を覚ました時には、全力疾走した後のように肩で息をしていた。
なんて酷い夢を見たのだろうか。
身体中は嫌な汗でじっとりと濡れており、心臓は早鐘を打っている。
怖かった……でも夢で良かった。
そして、身体を半身起き上がらせた時、ズキンと酷い頭痛に襲われた。
あ、頭が……痛い……
ズキズキとする頭を押さえて、深い呼吸をする。
落ち着いて、じっとしていれば治まる。
大丈夫、今日はちょっと怖い夢を見ただけ。
そうして頭の痛みをやり過ごしていると、今度は下腹部に鈍痛を覚えた。
痛い……お腹まで痛いなんて……
トイレに行こうと思い、這いずるようにベッドから出て、ルームシューズを履く。
床の上に立った時、ドロリと何かが下腹部から漏れ出たような感覚があった。
え、今のは……?
恐ろしくなって、自分の下着を下ろしてみると、そこには水気を帯びた赤黒い血のようなものがドロリと付着している。
な…………に、これ……
自分がどうなってしまったのか分からず、恐怖に立ち尽くしてしまった。
これは何かの病気……?
それとも、まだ夢の中なの?
ーーコンコン
そこで、部屋にノック音が響いた。
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