21 / 69
20 花の妖精
しおりを挟むすべての支度が終わり、昼食を運んできたフレディが入室した。
「エリーゼ様、昼食をお持ちしまし……」
まるで時が止まったかのように、食事のトレーを持ったフレディは停止する。
フレディにこの大変身を見てもらいたくて、すくっと立ち上がった。
「ふ、フレディ、レイアが身支度をしてくれたんです。
…………どうでしょうか?」
フレディの前に立って、くるりと一回りする。
レイアの腕は確かだし、私もすごく満足しているけれど、フレディの目にどう映るか気になった。
「あの……フレディ?」
僅かに瞬きをした後、フレディは丁重に食事のトレーをハイテーブルの上に置く。
そして、唐突にもこめかみを押さえ、天井を仰ぎ見ながら苦悶の声を漏らした。
「くっ、エリーゼ様っ……!」
「えっ……!?」
予想していなかった反応に、驚いてしまう。
この反応は良いってことなのか、悪いってことなのか、全然わからない。
どうしようと思いレイアを見ると、レイアは肩をすくめて首を傾げた。
何かを堪えるように上を向いたまま胸を押さえると、フレディはゆっくりと視線を私に移す。
「エリーゼ様、まるで可愛らしい花の妖精のようです。
間違いなく世界一の美少女、この世の宝でございます」
「え、花の……妖精……?」
これは……褒められてるんだよね?
「エリーゼ様、執事フレディは独特な表現をしていますが、どうやらエリーゼ様のお姿は素晴らしいと言っているようです」
レイアの言葉で褒められているのだとわかり、少しホッとした。
本当に変だったらどうしようと思っていたから。
「エリーゼ様、申し訳ございません。
見苦しい姿を見せてしまいました」
フレディは少し胸を押さえていたが、綺麗な一礼をすると元のフレディに戻った。
「いえ、良かったです。
褒められるのは、すごく嬉しいです」
不思議と、私も胸の前に手を置いていた。
ホッとした……
そして、生まれ変わった私の外見を褒めてくれたことが純粋に嬉しかった。
「レイアのおかげです、本当にありがとうございま……」
ーーぐうぅぅぅ!
すごい音でお腹が鳴ってしまった!
「早くお食事にしましょう!
さぁ、お召し上がりください」
は、恥ずかしい……!!
フレディとレイアに促されて、席に着いた。
トレーの上には良い匂いのする豪勢な昼食。
恥ずかしさとお腹が空いたことにより、私はものすごい勢いで口の中にお料理を入れていく。
それをフレディは満足そうに見ていたが、レイアはどんどん青ざめていった。
そんなことよりも美味しい、このじゃがいものクリームポタージュの濃厚な味わいは最高。
レイアはフレディの耳元で、こそこそと小声で何か話している。
そんなことよりも美味しい、このステーキの焼き加減は最高。
時折フレディが何か小声でレイアに言っているが、レイアは顔を横に振っている。
そんなことよりも美味しい、この苺のパフェの甘さと酸味のバランスは最高。
ぐいっとグラスのお茶を飲み干すと、フレディが慌ててお茶を注ぐ。
そこで、意を決したようにフレディが話しかけてきた。
「エリーゼ様、明日からテーブルマナー講習を致しませんか?
世の中の食べ物にはそれぞれ上手で綺麗な食べ方というものがございます。
健康にも良いですし、今後のためにもいかがでしょうか?」
「テーブルマナーの……講習?」
私の中にときめきが駆け巡る。
「もしかして、お勉強を教えてくれるの?」
学校に行ったことのない私は、勉強することに憧れを抱いていた。
「はい、お教えいたします。
エリーゼ様は……もしかしてお勉強にご興味があるのですか?」
訝しげにフレディはこちらを見る。
「はい!あります!
学校に行けなかったから、お勉強というものをやってみたかったんです。
テーブルマナー、すごく楽しみです!」
フレディはレイアと顔を見合わせて、何やら頷く。
「かしこまりました。
それでは明日から少しずつお勉強の時間をお取りいたしましょう。
レイアにはテーブルマナーやダンスを、私は語学や歴史などを担当致します」
「そんなに色々あるんですね!
ぜひよろしくお願いします!」
明日からお勉強できる!
毎日が楽しくなる予感がした。
15
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる