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20 花の妖精
しおりを挟むすべての支度が終わり、昼食を運んできたフレディが入室した。
「エリーゼ様、昼食をお持ちしまし……」
まるで時が止まったかのように、食事のトレーを持ったフレディは停止する。
フレディにこの大変身を見てもらいたくて、すくっと立ち上がった。
「ふ、フレディ、レイアが身支度をしてくれたんです。
…………どうでしょうか?」
フレディの前に立って、くるりと一回りする。
レイアの腕は確かだし、私もすごく満足しているけれど、フレディの目にどう映るか気になった。
「あの……フレディ?」
僅かに瞬きをした後、フレディは丁重に食事のトレーをハイテーブルの上に置く。
そして、唐突にもこめかみを押さえ、天井を仰ぎ見ながら苦悶の声を漏らした。
「くっ、エリーゼ様っ……!」
「えっ……!?」
予想していなかった反応に、驚いてしまう。
この反応は良いってことなのか、悪いってことなのか、全然わからない。
どうしようと思いレイアを見ると、レイアは肩をすくめて首を傾げた。
何かを堪えるように上を向いたまま胸を押さえると、フレディはゆっくりと視線を私に移す。
「エリーゼ様、まるで可愛らしい花の妖精のようです。
間違いなく世界一の美少女、この世の宝でございます」
「え、花の……妖精……?」
これは……褒められてるんだよね?
「エリーゼ様、執事フレディは独特な表現をしていますが、どうやらエリーゼ様のお姿は素晴らしいと言っているようです」
レイアの言葉で褒められているのだとわかり、少しホッとした。
本当に変だったらどうしようと思っていたから。
「エリーゼ様、申し訳ございません。
見苦しい姿を見せてしまいました」
フレディは少し胸を押さえていたが、綺麗な一礼をすると元のフレディに戻った。
「いえ、良かったです。
褒められるのは、すごく嬉しいです」
不思議と、私も胸の前に手を置いていた。
ホッとした……
そして、生まれ変わった私の外見を褒めてくれたことが純粋に嬉しかった。
「レイアのおかげです、本当にありがとうございま……」
ーーぐうぅぅぅ!
すごい音でお腹が鳴ってしまった!
「早くお食事にしましょう!
さぁ、お召し上がりください」
は、恥ずかしい……!!
フレディとレイアに促されて、席に着いた。
トレーの上には良い匂いのする豪勢な昼食。
恥ずかしさとお腹が空いたことにより、私はものすごい勢いで口の中にお料理を入れていく。
それをフレディは満足そうに見ていたが、レイアはどんどん青ざめていった。
そんなことよりも美味しい、このじゃがいものクリームポタージュの濃厚な味わいは最高。
レイアはフレディの耳元で、こそこそと小声で何か話している。
そんなことよりも美味しい、このステーキの焼き加減は最高。
時折フレディが何か小声でレイアに言っているが、レイアは顔を横に振っている。
そんなことよりも美味しい、この苺のパフェの甘さと酸味のバランスは最高。
ぐいっとグラスのお茶を飲み干すと、フレディが慌ててお茶を注ぐ。
そこで、意を決したようにフレディが話しかけてきた。
「エリーゼ様、明日からテーブルマナー講習を致しませんか?
世の中の食べ物にはそれぞれ上手で綺麗な食べ方というものがございます。
健康にも良いですし、今後のためにもいかがでしょうか?」
「テーブルマナーの……講習?」
私の中にときめきが駆け巡る。
「もしかして、お勉強を教えてくれるの?」
学校に行ったことのない私は、勉強することに憧れを抱いていた。
「はい、お教えいたします。
エリーゼ様は……もしかしてお勉強にご興味があるのですか?」
訝しげにフレディはこちらを見る。
「はい!あります!
学校に行けなかったから、お勉強というものをやってみたかったんです。
テーブルマナー、すごく楽しみです!」
フレディはレイアと顔を見合わせて、何やら頷く。
「かしこまりました。
それでは明日から少しずつお勉強の時間をお取りいたしましょう。
レイアにはテーブルマナーやダンスを、私は語学や歴史などを担当致します」
「そんなに色々あるんですね!
ぜひよろしくお願いします!」
明日からお勉強できる!
毎日が楽しくなる予感がした。
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