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18 侍女
しおりを挟むベッドの上で、充足感に満ちた吐息を吐く。
疲れたというよりは、充実したという心持ちでいた。
体を綺麗にしてもらったせいか、不思議と自分が存在していても良いような気持ちになる。
……これからは生きるって決めたから、もっと頑張らなきゃ。
エステの後私は部屋で休むことになり、その間フレディとレイアは本邸に荷物を取りに行くことになった。
この後は、お昼ご飯を食べて……
……あれ?なにあれ?
ふと、部屋の隅に見慣れない麻袋が置いてあるのが目に入る。
なんだろう、ものすごく怪しい。
そっと近づいて袋の表面を触ってみると、何かがパンパンに詰まっている感じがした。
恐る恐る結び目を開いてみる。
「な、なにこれ……?」
目に飛び込んできたのは灰色の塊のようなもの、動物の毛?
あ……髪の毛だ。
中身は全て私のゴワゴワの髪の毛……でも、こんなものをなんでわざわざ袋に入れてあるんだろう。
レイアにはそんな時間がなかったから、多分フレディが私の髪の毛を集めて麻袋に入れたんだろうけど。
何故かは全く分からない。
「……まぁ、いいや。考えても分からないし」
ベッドに戻り、ごろんと横になる。
脱力して体重をすべてベッドに落とすと、ふわふわと睡魔が襲ってきた。
午前中の活動は、朝ごはん、ティータイム、怒る、泣く、鋏で刺されそうになる、髪を切ってもらう、エステだ。
色々あったけれど、特に運動はしていない。
それでもこんなに眠気に襲われるのは、体力が無いせいだよね。
体力をつけないと……
そう考えているうちに、眠ってしまった。
ーーコンコン
ノックの音で目が覚めた。
「エリーゼ様、失礼致します」
「……ふぁ、はい」
ベッドの上で、返事をした。
まだ眠い……でも、起きないと……
そんなことを考えていると、ガチャリとドアが開いた。
「エリーゼ様、お休みのところ失礼致します」
フレディの声が近づいてくる。
起きないと……
「エリーゼ様……その……」
「……え?」
ぼんやりしながら起きると、大きい荷物を持ったフレディが唖然とこちらを見ていた。
何か変なのかな。
起き上がってみると、バスローブの前が完全にはだけていて、シルクの上下の下着が丸出しになっていた。
「わわっ」
慌てて隠すと、フレディはにこりと微笑んだ。
「可愛らしい天使が寝ているのかと思いました」
その感覚は本当にどうかしてると思う。
「もう、ご飯の時間ですか?」
「そうですね、その前に少しだけ……レイア」
「はい」
フレディの背後からレイアが出てきた。
レイアもたくさんの荷物を持っている。
「レイアの美容技術には目を見張るものがありました。
ですので、エリーゼ様専属の侍女にしたいと思います。
先程、メイド長に話をつけてきましたが、特に問題はないそうです。
エリーゼ様、いかがでしょうか?」
「……レイアを侍女にしてもらえるんですか?
それはとても嬉しいです、素晴らしいです!」
私の専属の侍女……素敵な響きだ。
美容のために人をつけてもらえるなんて、すごくありがたい。
メイド長に許されたのなら、アイネリス家から正式に認められたってことになる。
本当に、夢みたいだ。
「エリーゼ様、今後とも宜しくお願い致します」
レイアは綺麗にお辞儀をすると、こちらを見て琥珀色の瞳を優しげに細めた。
「レイアは私の部下の扱いになります。
レイアが不祥事を起こしましたら、私の権限で侍女を辞任させますので、何なりとお申し付けください」
「は……はい、分かりました」
フレディが上司でレイアが部下、何だか似合う気がしてしまう。
綺麗な執事の隣に可愛い侍女はお似合いだな……なんて考えていると、少しだけ胸が痛くなった。
この胸の痛みは、何だか分からなかった。
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