専属執事に階段から突き落とされたのですが、どうも様子が変です。

24 おやすみの前に

【エリーゼ】


サンダース商会の2人が帰った後、緊張が解けてベッドに座る。


「エリーゼ様はお疲れでしょうから、少しお休みください」


フレディが促したその言葉を、素直に受け取った。


「ありがとうございます……」


私はごろんとベッドに寝転ぶと、あっという間にうつらうつらし始めた。


思っていたより疲れているみたいだ。


なんだか、とても眠い。


なんでだろう……すごく……眠い。













どれくらい寝ていたのだろう。


目を瞬かせると、辺りが薄ぼんやりと暗い。


すると、人の気配が動いた気がした。


「エリーゼ様、お目覚めですか？」


「フレディ……？」


フレディがベッドサイドの椅子に座り、こちらを見ているのがぼんやりと見える。


そして、その影がこちらに動いた。


え……？


大きな手が私に向かって伸ばされている。


「な、何……！？」



迫り来る手から逃れるように、ぎゅっと身を縮ませる。


するとフレディはややあって、手を引っ込めた。


「申し訳ありません、エリーゼ様の寝癖を直そうとしてしまいました」


「え、ああ、そうだったんですね……」


薄暗い中で手を伸ばされたから、反射的に身構えてしまったけれど、変な意味ではなかったみたい。


なんとなく気まずい空気感が漂ってしまう。


その時。


ーーぐうぅぅぅ！


私のお腹が大きく鳴って、飛び起きた。


「え！あれ！」


またやってしまった恥ずかしさに、どんどん顔が赤くなる。


「ふふ、もう夕飯時ですから無理もないですよ」


くすくす笑うフレディは、薄明かりの照明を全て明るくした。


「あ……夕ご飯！」


ハイテーブルには既に夕食のトレーが置いてある。


もしかして、この良い匂いで起きたのかもしれない。


フレディは私の背を腕で支えてベッドから立たせると、エスコートでハイテーブルに連れて行ってくれた。


今回も夕食も豪華で大満足だった。

















食事後にレイアにお風呂に入れてもらい、新品の白いシルクのパジャマに身を包む。


ピオニーの香りのボディークリームとツヤツヤのパジャマ、最高の気分で自室に戻った。


「エリーゼ様、おかえりなさいませ」


部屋には、フレディが敷布団やシーツ、掛け布団を取り替えていた様子だ。


「すごい、綺麗な真っ白い布団ですね」


「はい、本邸から新品を調達致しました。
これでゆっくりお休みください」


汗染みやカビのある布団が撤去されたのは、すごくありがたい。


「本当にありがとうございます。
ふかふかで最高です」


新品のシルクのパジャマの私は、新しい布団に横になる。


すごいふわふわで、肌触りは最高……


「それは良かったです」


疲れが出たのか、安心したからか、どちらとも分からないけれど、ベッドに疲れが溶けていくようにすぐに眠気は来る。


「明日の予定は午前中にテーブルマナー講座を行います。
そして、午後に傷んだ家具の交換作業が入ります」


「ふぁ、わかりました……」


既に半分夢の世界に足を突っ込んでおり、欠伸をしながら答えてしまう。


テーブルマナーのお勉強、楽しみだな……


家具の交換もありがたい……この部屋が綺麗になるのは嬉しい……


「それと……」


私の体は少しずつ浮いていく。


今日は、本当にいろいろなことがあったから……


「明日、隣の物置部屋を片付けまして……」


髪を切ってもらって、お風呂に入れてもらって、エステしてもらって、それから……レイアが私の侍女になって……


「………の部屋にしたいと思います」


フレディの声が、少しぼんやり聞こえる。



なんだっけ……ああ、そうだ。


こんなに色々としてもらったことは初めてで、内心はとても嬉しかった。


フレディにも、勇気をもらったから……


「……うん」


かつてのトラウマの対象に対してなかなか接し方が難しかったけれど、少しずつ心の整理がついてきている。


「かしこまりました。
それでは、おやすみなさいませ」


「おやすみ……」


ようやく、眠りの世界にことんと落ちた。