16 / 69
16 エステ
しおりを挟むレイアに怪しい素振りは無かったけれど、フレディと連携できていなくて、身動きが取れなかっただけかもしれない。
であれば、もう少しこちらから隙を見せた方が良いだろう。
「私……綺麗にしてもらえるのが楽しいです。
他にレイアに頼める美容はありますか?」
「そうですね、エステはいかがでしょう?」
「エステ?
何ですかそれは?」
「エステとは、身体のお手入れのことです。
皮膚を美しくしたり、体型を整えたりすることができます」
「ぜひお願いしたいです」
「かしこまりました。
施術は浴室で行います」
「なっ、それでは見張りが……」
事の成り行きを聞いていたフレディが、慌てて制止しようとした。
「フレディ、レイアの……えっと、なんでしたっけ?あ…悪魔とか呪いみたいなものは解けたんです。
だから、見張りは必要ありません」
「では、扉の前で待機致します。
何かあればお声がけください」
よし!
思惑通りに事が進み、心の中で踊っていた。
浴室でレイアと2人きりになれば、殺される可能性はかなり上がる。
私は妙な高揚感で浴室に入った。
そこからの流れはこうだ。
レイアは本邸から最高級の洗髪セットとボディーソープを持ってきて、髪と体をピカピカに洗ってくれた。
そして、何か泥のようなもので全身をパックされ、さらにピカピカに洗われて、オイルを塗り込まれた。
そして、真新しいバスローブに身を包まれ、髪を風魔法で乾かしてもらい終了した。
「エリーゼ様、いかがでしょうか?」
「これが……私?」
脱衣所の椅子に座りながら鏡を見せてもらうと、顔の肌のトーンが上がった私がいた。
もう瞼もブヨブヨではないし、肌もいくらかマシになっている。
先ほどとは違いちょっと不健康そうな顔のツヤツヤしたおしゃれなショートカットの自分がそこにいた。
「これは、すごいわ!」
全く違う狙いで頼んだ事だったのに、なぜか大満足だった。
「お気に召していただき、ありがとうございます」
晴れやかな顔のレイアは、つり目がちな目を優しげに細める。
「レイア、あなたは天才ですね。
バケモノだった私を、ここまで治してくれた」
フレディのレイアのことを「優秀なメイド」と言っていたのは、それは本当のことだった。
朝の醜悪な姿からは想像できないほど、奇跡のような変貌を遂げた。
「エリーゼ様……申し訳ありません。
その暴言につきましては撤回させていただきます。
エリーゼ様はそのようなものではございません。
ですが、お手入れが必要だったのは間違いありませんでした。
こうして、エリーゼ様の美容に携われて本当に良かったと思っております。
また、エリーゼ様に危害を加えようとしたにも関わらず、私を信じてくださった……そのお心の大きさに感服致しました。
お手入れは毎日必要ですので、今後も参らせていただきたいと思っております。
よろしくお願い致します」
レイアはとても美しい礼を取った。
すごい……できた人だ。
こんな風に扱われたことが無かったので、驚き固まってしまった。
「美容って……すごいですね。
見た目が良くなるのが、こんなに楽しいことだったなんて……初めて知りました」
美容というものに初めて触れた嬉しさが、じんわり心の中に広がっていく。
レイアの手つきはとても丁寧だったし、安心できた。
なんなら、やすらぎすら覚えるくらいだった。
……同じ手が私の首を刺そうとしたなんて、思えないくらいに。
「そんなふうに喜んでもらったことは、初めてです。
明日も参りますね」
「本当に?いいんですか?」
「もちろんです、エリーゼ様」
嬉しくて、レイアをキラキラした目で見てしまった。
明日が来て欲しいと思うことは、初めてだった。
15
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる