私の全てを奪ってくれた

うみすけ

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4月1日。世間はエイプリルフールのこの日、私にとってはホストとして最後の出勤日になる。


この日に限っては、キャストが30人ほどの中のNo.5だった私が、まるで店一番のキャストかの如く扱われた。


私のエースのぴちゃんがシャンパンタワーを頼んだとのことで、業者の人がせっせとグラスを用意している。5段程度の小さめのタワーしか頼んでもらったことがない私にとって、今日のタワーの10段はシャンパンを注ぐ前の今の状況ですら既に圧巻。

ぴちゃんはどれだけお金をもってるんだ。

出稼ぎなんて行った所ではした金にしかならないのでは、と思うくらいの想像を絶する金額。


ぴちゃん以外にも、今日のために私のお客は15組ほど来る予定。この中には、他店の社長やキャストも来てくれるとの事で、最後の営業なのに気持ちは座らない。

今日来れなかったお客も、3月の間には来てくれていた。なので、私は色んな人に愛されてたんだと実感する。



普段は私服で接客をしているが、今日はドレスコード。月に1回は着ているはずなのに、未だにネクタイの付け方がわからなくて、携帯で調べてから首に巻いている。

髪の毛のセットをサロンで先程行い、既にいつもよりも準備万端の状態で私は待機していた。




さて、今日はみんなのお金を奪っちゃおうか。




「らいとー!10番シャンパン、コール5分後!」

お客が多くて周りが騒がしく、普段は大きな声を出さない内勤の人ですら大声で話しかけてくる。

営業開始の19時の時点から既にたらふく飲んでた私は20時現在の今ですら酔っ払ってるので、了解の合図を、ビシッと敬礼して見せる。


『本日王子の、らいとの可愛い姫より高級シャンパン頂きました!!』


5分後、こうしてシャンパンコールが始まる。

私と所謂姫は、ソファに座った状態でそこを囲うように他キャスト全員がコールをする。


『高級シャンパン開栓まで!!3、2、1』


ポンッ


その後に、シャンパンコールで飲み尽くす。
シャンパンは高価お酒ではあるが、味の方は、私ははっきり言って、好きではない。

しかし、これ1本は10万円。高いのを頼んでくれている。お酒を身体に入れるのではなくて、お金を入れてると思えば美味しくなくても飲み込めてしまう。


そうして、キャスト数人と姫でシャンパンを飲みきる。


『本日、姫様ありがとうと言うことで、みんなで、ごっつぁんコール!!』


こうして、シャンパンコールは終わる。大体5分程度。5分で10万円の売り上げを叩き出す。


「らいと!次8番シャンパン、コール10分後!」








こうして私は、全ての席でシャンパンを開けて貰った。シャンパン以外にも飲んでいる私は、この時点で既に記憶はかなり曖昧な状態。だが、最後に待っているシャンパンタワー。

おそらく、私にとって、最初で最後の巨大タワー。


『本日王子の最後のシャンパン、こちら可愛い姫よりタワーにして頂きました!!』


私はフラフラになりながらも、ぴちゃんの元へと行き、手を取り、タワーがあるステージへと向かう。

もう記憶が飛びそうな私は一言でも記憶がある内に伝えなければいけないと、ぴちゃんの耳元で「ほんまにありがとな」そう私が伝えると、ぴちゃんが泣き出した、そんなところまでは覚えている。
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