2 / 8
一章 一節 「行方不明」
1-1-2「不法侵入」
しおりを挟む
斜陽がその姿を隠していく。それを追うように紫色や深青色や黒色が頭上を覆いつそうとしている。
うざったい橙色とまとわりつくような熱が、また別の誰かを襲いに行くのだろう。
この場所で唯一移り変わるそれらだけが現在時刻を現していた。
敷き詰められた歩道の装飾が粗雑になった頃、目的の場所までたどり着いた。
それの何かは、ここを所望した。
それの何かは、ここに恨みのようなものがある。
それは空まで届きそうな塔に手を当てた。
腐って柔らかくなった木材の感覚。張り合いがないそれをすぐに見飽きると躊躇なく室内の暗闇へと足を踏み入れた。
室内はやはり真っ暗だった。
暗闇に順応した視覚は不便を感じさせない。ここまでの道で恐怖や不安も大分慣れてきたようだ。
無遠慮に土足で部屋を通り抜けて階段を上り続けると、だんだんそれの何かが疼き出す。
どうやら近づいてきているらしい。
歩くたびにきしむ音を立てる床。かなり老朽化が進んでいる。
暗闇に順応できない者はきっと床の裂け目に落ちて下の階に戻されてしまうだろう。
内心確率の旅を思い出しながら、しかしその確率の旅という言葉もノイズによってかき消されていった。
道中倉庫のような場所で見つけたカンテラには少量だがまだ油が残されているようだ。
携帯用の古びたライターと共にそれを拝借して手持無沙汰に弄んでいると、遂に最奥までたどり着いた。
近づいて分かったことだが、この扉だけ栓をされ固く閉ざされていた。
何かを引きずったような線状の黒い跡が部屋側に続く。
積み上げられた木箱が崩れ物が散乱している。
そして、
「あし?」
一本の足だ。
埃は被っていない。
手に取って模造品のように見えるそれに既視感を抱く。
ちょうど、自分の足とよく似ていて――
「うわ」
恐ろしい考えに至り、瞬間的に手を放した。
今更自分という信じきれない存在がいるのだ。こんなことに驚いてどうする。
自分を落ち着けるようにもう一度模造品の足を見る。
ここで何かあったことは間違いないが、今のままではすべて憶測として処理されてしまうだろう。
実際、この扉の奥で何が起こったのか?
カンテラを一度手放し、それは栓を取ろうと腕に力を入れた。
うざったい橙色とまとわりつくような熱が、また別の誰かを襲いに行くのだろう。
この場所で唯一移り変わるそれらだけが現在時刻を現していた。
敷き詰められた歩道の装飾が粗雑になった頃、目的の場所までたどり着いた。
それの何かは、ここを所望した。
それの何かは、ここに恨みのようなものがある。
それは空まで届きそうな塔に手を当てた。
腐って柔らかくなった木材の感覚。張り合いがないそれをすぐに見飽きると躊躇なく室内の暗闇へと足を踏み入れた。
室内はやはり真っ暗だった。
暗闇に順応した視覚は不便を感じさせない。ここまでの道で恐怖や不安も大分慣れてきたようだ。
無遠慮に土足で部屋を通り抜けて階段を上り続けると、だんだんそれの何かが疼き出す。
どうやら近づいてきているらしい。
歩くたびにきしむ音を立てる床。かなり老朽化が進んでいる。
暗闇に順応できない者はきっと床の裂け目に落ちて下の階に戻されてしまうだろう。
内心確率の旅を思い出しながら、しかしその確率の旅という言葉もノイズによってかき消されていった。
道中倉庫のような場所で見つけたカンテラには少量だがまだ油が残されているようだ。
携帯用の古びたライターと共にそれを拝借して手持無沙汰に弄んでいると、遂に最奥までたどり着いた。
近づいて分かったことだが、この扉だけ栓をされ固く閉ざされていた。
何かを引きずったような線状の黒い跡が部屋側に続く。
積み上げられた木箱が崩れ物が散乱している。
そして、
「あし?」
一本の足だ。
埃は被っていない。
手に取って模造品のように見えるそれに既視感を抱く。
ちょうど、自分の足とよく似ていて――
「うわ」
恐ろしい考えに至り、瞬間的に手を放した。
今更自分という信じきれない存在がいるのだ。こんなことに驚いてどうする。
自分を落ち着けるようにもう一度模造品の足を見る。
ここで何かあったことは間違いないが、今のままではすべて憶測として処理されてしまうだろう。
実際、この扉の奥で何が起こったのか?
カンテラを一度手放し、それは栓を取ろうと腕に力を入れた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
三度目の庄司
西原衣都
ライト文芸
庄司有希の家族は複雑だ。
小学校に入学する前、両親が離婚した。
中学校に入学する前、両親が再婚した。
両親は別れたりくっついたりしている。同じ相手と再婚したのだ。
名字が大西から庄司に変わるのは二回目だ。
有希が高校三年生時、両親の関係が再びあやしくなってきた。もしかしたら、また大西になって、また庄司になるかもしれない。うんざりした有希はそんな両親に抗議すべく家出を決行した。
健全な家出だ。そこでよく知ってるのに、知らない男の子と一夏を過ごすことになった。有希はその子と話すうち、この境遇をどうでもよくなってしまった。彼も同じ境遇を引き受けた子供だったから。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
神様のボートの上で
shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください”
(紹介文)
男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!
(あらすじ)
ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう
ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく
進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”
クラス委員長の”山口未明”
クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”
自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。
そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた
”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?”
”だとすればその目的とは一体何なのか?”
多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる