4 / 10
時は流れて 失われた繋がり
しおりを挟む
西暦6017年、崩壊の危機に瀕しているエリア060が他のエリアへの攻撃を開始した。この世界で暮らす誰もが、これが世界大戦の始まりであると予想していた。
居住区中の人間を動員して戦争を仕掛けた060は、決して強大な兵力を持っている訳では無い。しかし、エリア崩壊による死を恐れた住人達は、全力で他のエリアに攻撃を仕掛けている。
他のエリアは特攻同然の作戦も行う060に、苦戦を強いられていた。既に大きな被害を出してしまっているエリアも多い。
兵器を保有していても、多くの人間にとって戦争は過去のものだった。それ故に、060の猛攻を信じられずに、苦戦しているのだ。
各地で混乱が生じて、治安は少しずつ悪化している。それでも、戦時不介入や中立を決め込んでいるエリアは、比較的マシな状況である。
ーー
エルナ:はぁ…
今は12月。どのチャンネルのニュースも、戦争の状況を伝える様になっていた。今はどっちが優勢だとか、何人死者が出たとか…もう既に疲れ切っていた。
エルナ:まぁ、ここは比較的マシな状況か…
エリア012は中立を決め込んでいた為、他のエリアも介入しづらかった。物価の上昇もかなり緩やかで、人々の生活にも余裕がある。
ーー
高校を卒業した私は、eLNAとして芸能活動に専念していた。私に熱狂するファンは一時期よりは減ったが、まだまだ忙しい日々を送っていた。
サーシャ:今回の060問題について、どう思いますか?
エルナ:一刻も早い解決を祈っています
戦争に関する話題になると、無難な解答をする様になっていた。特に、元々は060出身だという事がバレると、面倒な事になりそうだ。
エルナ:ミサキはどうしているのかな…
ーー
エルナ:何で?!メッセージを送っても返信が無い…
以前交換したアドレスにメッセージを送っても、返信が来ないどころか既読にすらならない。どうやらこちらに連絡をする暇もなく、デバイスを変える必要になったみたいだ。
ーー
エルナ:ママ!エリア012に行ってもいい?!
ヘレナ:こんな情勢の中で行くなんて駄目に決まってるじゃない…
012の様子が気になった私だけど、当然ながらママにはすぐ却下された。やはりというか、パパの意見も似たようなものだった。
ノア:許可出来ない。012も中立地帯だから治安は悪化していないが…それでも危険だ
私も既に有名人である以上、この情勢下で地上に降り立つのは危険だと分かっている。それでも、他の人の言葉に止められたくはなかったのだ。
ーー
エルナ:まずは休みを取って…
休みを取る事を伝えた私は、親に内緒で012行きリニアの乗車券を購入した。後は012に行く日まで、乗車券を隠し続けるだけだ。
エルナ:伊達メガネ、帽子ヨシ!
変装用の装備のチェックも、忘れる訳にはいかない。eLNAが地上にいるとバレたら、大騒ぎになる事間違いなしなのは、事実だからだ。
ーー
エルナ:012の治安は、悪化していないはず…
帽子とメガネを装備した私は、リニアの客席に座っていた。個人用の席を予約したので、隣に別の客が座る可能性も無かった。
エルナ:ミサキはいるはず…きっといる!
何の根拠もないのに、まだ012にミサキがいると信じていた。きっと、そう信じたい自分が、いなくなってるなんて思いたくない自分がいたのだろう。
ーー
ヘレナ:エルナはどこ?!
ノア:今日は休みを取る日だったけど…
エルナの姿が見えなくなった事で、案の定母親であるヘレナは大騒ぎしていた。ノアの方は冷静に、エルナの行方について考えていた。
ノア:今日は朝早くに出たぞ。夜遅くになるって言ってたよ
ヘレナ:そんな…私には何も言わずに行くなんて…
ヘレナは過保護な面がある母親で、父親であるノアはそんな彼女に呆れていた。休みを取っていたお陰で、エルナが012に行っていると考える者は、ほとんどいなかった。
ーー
エルナ:012の地上は…以前来た時と、殆ど変わりはないな
地上は以前と変わらず、様々な建物が雑然と並んでいた。私からすれば、無機質な雰囲気の建物が整然と並ぶ空中居住区よりも、こちらの方が好きかも知れない。
ーー
私はエリア012の地上の街を、早歩きで進んでいた。もちろん、ミサキの家の場所は覚えていて、そこに急いでいるのだ。
エルナ:急に来たら迷惑かな…でも笑って許してくれるよね…
ーー
エルナ:え…そんな…
ミサキが両親と一緒に暮らしていた家は、既に空き家になっていた。いついなくなったのかを確かめたくても、私相手に答える可能性は低いだろう。
もうミサキは、エリア012からいなくなっていたのだ。
ーー
以前の端末にもう一度メッセージを送ってみた…やっぱり返信が無い。もう既に、ミサキと連絡を取る手段は無くなっていた。
エルナ:繋がりなんて…とっくに無くなってた…
いつか、ミサキにまた会いに来るから
そんな言葉は結局子供同士の、果たされる事のない約束だったのだ。その事実を知った私の頬には、既に涙が伝っていた。
ーー
エルナ:もうこんな時間…帰ろうかな
夕暮れの012の街並みは嫌いじゃ無いけど、ミサキがいないならいつまでもいる意味は無い。エリア019に戻ったら、ママとパパになんて説明しようかな…
エルナ:…お腹空いた
昼ごはんも軽くしか食べていないので当たり前なのだが、お腹が空いていた…折角だし019に戻る前に、この街のどこかで夜ご飯を食べる事にしよう。
エルナ:そう言えば、あのラーメン屋は…
ーー
エルナ:麺屋…まだ残ってた
地上の端っこにあるラーメン屋は、つぶれていなかった。ミサキと一緒に食べたあの豚骨ラーメンは、かなり美味しかった。
エルナ:本当に久しぶりだ…
私はすぐに夜ご飯は、ここのラーメンにする事に決めた。本当にお腹が空いていたから、深く考えずに店に入った。
ーー
店に入った私は食券を購入して、カウンター席に座った。客はたまたま私1人だったけど、特に意味はなく、ミサキと一緒の時はカウンター席に座っていたからだ。
ゴロウ:あれ…あんた、eLNAさんか?
……ヤバい、バレた…
居住区中の人間を動員して戦争を仕掛けた060は、決して強大な兵力を持っている訳では無い。しかし、エリア崩壊による死を恐れた住人達は、全力で他のエリアに攻撃を仕掛けている。
他のエリアは特攻同然の作戦も行う060に、苦戦を強いられていた。既に大きな被害を出してしまっているエリアも多い。
兵器を保有していても、多くの人間にとって戦争は過去のものだった。それ故に、060の猛攻を信じられずに、苦戦しているのだ。
各地で混乱が生じて、治安は少しずつ悪化している。それでも、戦時不介入や中立を決め込んでいるエリアは、比較的マシな状況である。
ーー
エルナ:はぁ…
今は12月。どのチャンネルのニュースも、戦争の状況を伝える様になっていた。今はどっちが優勢だとか、何人死者が出たとか…もう既に疲れ切っていた。
エルナ:まぁ、ここは比較的マシな状況か…
エリア012は中立を決め込んでいた為、他のエリアも介入しづらかった。物価の上昇もかなり緩やかで、人々の生活にも余裕がある。
ーー
高校を卒業した私は、eLNAとして芸能活動に専念していた。私に熱狂するファンは一時期よりは減ったが、まだまだ忙しい日々を送っていた。
サーシャ:今回の060問題について、どう思いますか?
エルナ:一刻も早い解決を祈っています
戦争に関する話題になると、無難な解答をする様になっていた。特に、元々は060出身だという事がバレると、面倒な事になりそうだ。
エルナ:ミサキはどうしているのかな…
ーー
エルナ:何で?!メッセージを送っても返信が無い…
以前交換したアドレスにメッセージを送っても、返信が来ないどころか既読にすらならない。どうやらこちらに連絡をする暇もなく、デバイスを変える必要になったみたいだ。
ーー
エルナ:ママ!エリア012に行ってもいい?!
ヘレナ:こんな情勢の中で行くなんて駄目に決まってるじゃない…
012の様子が気になった私だけど、当然ながらママにはすぐ却下された。やはりというか、パパの意見も似たようなものだった。
ノア:許可出来ない。012も中立地帯だから治安は悪化していないが…それでも危険だ
私も既に有名人である以上、この情勢下で地上に降り立つのは危険だと分かっている。それでも、他の人の言葉に止められたくはなかったのだ。
ーー
エルナ:まずは休みを取って…
休みを取る事を伝えた私は、親に内緒で012行きリニアの乗車券を購入した。後は012に行く日まで、乗車券を隠し続けるだけだ。
エルナ:伊達メガネ、帽子ヨシ!
変装用の装備のチェックも、忘れる訳にはいかない。eLNAが地上にいるとバレたら、大騒ぎになる事間違いなしなのは、事実だからだ。
ーー
エルナ:012の治安は、悪化していないはず…
帽子とメガネを装備した私は、リニアの客席に座っていた。個人用の席を予約したので、隣に別の客が座る可能性も無かった。
エルナ:ミサキはいるはず…きっといる!
何の根拠もないのに、まだ012にミサキがいると信じていた。きっと、そう信じたい自分が、いなくなってるなんて思いたくない自分がいたのだろう。
ーー
ヘレナ:エルナはどこ?!
ノア:今日は休みを取る日だったけど…
エルナの姿が見えなくなった事で、案の定母親であるヘレナは大騒ぎしていた。ノアの方は冷静に、エルナの行方について考えていた。
ノア:今日は朝早くに出たぞ。夜遅くになるって言ってたよ
ヘレナ:そんな…私には何も言わずに行くなんて…
ヘレナは過保護な面がある母親で、父親であるノアはそんな彼女に呆れていた。休みを取っていたお陰で、エルナが012に行っていると考える者は、ほとんどいなかった。
ーー
エルナ:012の地上は…以前来た時と、殆ど変わりはないな
地上は以前と変わらず、様々な建物が雑然と並んでいた。私からすれば、無機質な雰囲気の建物が整然と並ぶ空中居住区よりも、こちらの方が好きかも知れない。
ーー
私はエリア012の地上の街を、早歩きで進んでいた。もちろん、ミサキの家の場所は覚えていて、そこに急いでいるのだ。
エルナ:急に来たら迷惑かな…でも笑って許してくれるよね…
ーー
エルナ:え…そんな…
ミサキが両親と一緒に暮らしていた家は、既に空き家になっていた。いついなくなったのかを確かめたくても、私相手に答える可能性は低いだろう。
もうミサキは、エリア012からいなくなっていたのだ。
ーー
以前の端末にもう一度メッセージを送ってみた…やっぱり返信が無い。もう既に、ミサキと連絡を取る手段は無くなっていた。
エルナ:繋がりなんて…とっくに無くなってた…
いつか、ミサキにまた会いに来るから
そんな言葉は結局子供同士の、果たされる事のない約束だったのだ。その事実を知った私の頬には、既に涙が伝っていた。
ーー
エルナ:もうこんな時間…帰ろうかな
夕暮れの012の街並みは嫌いじゃ無いけど、ミサキがいないならいつまでもいる意味は無い。エリア019に戻ったら、ママとパパになんて説明しようかな…
エルナ:…お腹空いた
昼ごはんも軽くしか食べていないので当たり前なのだが、お腹が空いていた…折角だし019に戻る前に、この街のどこかで夜ご飯を食べる事にしよう。
エルナ:そう言えば、あのラーメン屋は…
ーー
エルナ:麺屋…まだ残ってた
地上の端っこにあるラーメン屋は、つぶれていなかった。ミサキと一緒に食べたあの豚骨ラーメンは、かなり美味しかった。
エルナ:本当に久しぶりだ…
私はすぐに夜ご飯は、ここのラーメンにする事に決めた。本当にお腹が空いていたから、深く考えずに店に入った。
ーー
店に入った私は食券を購入して、カウンター席に座った。客はたまたま私1人だったけど、特に意味はなく、ミサキと一緒の時はカウンター席に座っていたからだ。
ゴロウ:あれ…あんた、eLNAさんか?
……ヤバい、バレた…
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
[百合]短編集
[百合垢]中頭[etc垢]
現代文学
百合の短編集です。他サイトに掲載していたものもあります。健全が多めです。当て馬的男性も出てくるのでご注意ください。
表紙はヨシュケイ様よりお借りいたしました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる