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時は流れて 失われた繋がり

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西暦6017年、崩壊の危機に瀕しているエリア060が他のエリアへの攻撃を開始した。この世界で暮らす誰もが、これが世界大戦の始まりであると予想していた。

居住区中の人間を動員して戦争を仕掛けた060は、決して強大な兵力を持っている訳では無い。しかし、エリア崩壊による死を恐れた住人達は、全力で他のエリアに攻撃を仕掛けている。

他のエリアは特攻同然の作戦も行う060に、苦戦を強いられていた。既に大きな被害を出してしまっているエリアも多い。

兵器を保有していても、多くの人間にとって戦争は過去のものだった。それ故に、060の猛攻を信じられずに、苦戦しているのだ。

各地で混乱が生じて、治安は少しずつ悪化している。それでも、戦時不介入や中立を決め込んでいるエリアは、比較的マシな状況である。

ーー

エルナ:はぁ…

今は12月。どのチャンネルのニュースも、戦争の状況を伝える様になっていた。今はどっちが優勢だとか、何人死者が出たとか…もう既に疲れ切っていた。

エルナ:まぁ、ここは比較的マシな状況か…

エリア012は中立を決め込んでいた為、他のエリアも介入しづらかった。物価の上昇もかなり緩やかで、人々の生活にも余裕がある。

ーー

高校を卒業した私は、eLNAとして芸能活動に専念していた。私に熱狂するファンは一時期よりは減ったが、まだまだ忙しい日々を送っていた。

サーシャ:今回の060問題について、どう思いますか?

エルナ:一刻も早い解決を祈っています

戦争に関する話題になると、無難な解答をする様になっていた。特に、元々は060出身だという事がバレると、面倒な事になりそうだ。

エルナ:ミサキはどうしているのかな…

ーー

エルナ:何で?!メッセージを送っても返信が無い…

以前交換したアドレスにメッセージを送っても、返信が来ないどころか既読にすらならない。どうやらこちらに連絡をする暇もなく、デバイスを変える必要になったみたいだ。

ーー

エルナ:ママ!エリア012に行ってもいい?!

ヘレナ:こんな情勢の中で行くなんて駄目に決まってるじゃない…

012の様子が気になった私だけど、当然ながらママにはすぐ却下された。やはりというか、パパの意見も似たようなものだった。

ノア:許可出来ない。012も中立地帯だから治安は悪化していないが…それでも危険だ

私も既に有名人である以上、この情勢下で地上に降り立つのは危険だと分かっている。それでも、他の人の言葉に止められたくはなかったのだ。

ーー

エルナ:まずは休みを取って…

休みを取る事を伝えた私は、親に内緒で012行きリニアの乗車券を購入した。後は012に行く日まで、乗車券を隠し続けるだけだ。

エルナ:伊達メガネ、帽子ヨシ!

変装用の装備のチェックも、忘れる訳にはいかない。eLNAが地上にいるとバレたら、大騒ぎになる事間違いなしなのは、事実だからだ。

ーー

エルナ:012の治安は、悪化していないはず…

帽子とメガネを装備した私は、リニアの客席に座っていた。個人用の席を予約したので、隣に別の客が座る可能性も無かった。

エルナ:ミサキはいるはず…きっといる!

何の根拠もないのに、まだ012にミサキがいると信じていた。きっと、そう信じたい自分が、いなくなってるなんて思いたくない自分がいたのだろう。

ーー

ヘレナ:エルナはどこ?!

ノア:今日は休みを取る日だったけど…

エルナの姿が見えなくなった事で、案の定母親であるヘレナは大騒ぎしていた。ノアの方は冷静に、エルナの行方について考えていた。

ノア:今日は朝早くに出たぞ。夜遅くになるって言ってたよ

ヘレナ:そんな…私には何も言わずに行くなんて…

ヘレナは過保護な面がある母親で、父親であるノアはそんな彼女に呆れていた。休みを取っていたお陰で、エルナが012に行っていると考える者は、ほとんどいなかった。

ーー

エルナ:012の地上は…以前来た時と、殆ど変わりはないな

地上は以前と変わらず、様々な建物が雑然と並んでいた。私からすれば、無機質な雰囲気の建物が整然と並ぶ空中居住区よりも、こちらの方が好きかも知れない。

ーー

私はエリア012の地上の街を、早歩きで進んでいた。もちろん、ミサキの家の場所は覚えていて、そこに急いでいるのだ。

エルナ:急に来たら迷惑かな…でも笑って許してくれるよね…

ーー

エルナ:え…そんな…

ミサキが両親と一緒に暮らしていた家は、既に空き家になっていた。いついなくなったのかを確かめたくても、私相手に答える可能性は低いだろう。

もうミサキは、エリア012からいなくなっていたのだ。

ーー

以前の端末にもう一度メッセージを送ってみた…やっぱり返信が無い。もう既に、ミサキと連絡を取る手段は無くなっていた。

エルナ:繋がりなんて…とっくに無くなってた…

いつか、ミサキにまた会いに来るから

そんな言葉は結局子供同士の、果たされる事のない約束だったのだ。その事実を知った私の頬には、既に涙が伝っていた。

ーー

エルナ:もうこんな時間…帰ろうかな

夕暮れの012の街並みは嫌いじゃ無いけど、ミサキがいないならいつまでもいる意味は無い。エリア019に戻ったら、ママとパパになんて説明しようかな…

エルナ:…お腹空いた

昼ごはんも軽くしか食べていないので当たり前なのだが、お腹が空いていた…折角だし019に戻る前に、この街のどこかで夜ご飯を食べる事にしよう。

エルナ:そう言えば、あのラーメン屋は…

ーー

エルナ:麺屋…まだ残ってた

地上の端っこにあるラーメン屋は、つぶれていなかった。ミサキと一緒に食べたあの豚骨ラーメンは、かなり美味しかった。

エルナ:本当に久しぶりだ…

私はすぐに夜ご飯は、ここのラーメンにする事に決めた。本当にお腹が空いていたから、深く考えずに店に入った。

ーー

店に入った私は食券を購入して、カウンター席に座った。客はたまたま私1人だったけど、特に意味はなく、ミサキと一緒の時はカウンター席に座っていたからだ。

ゴロウ:あれ…あんた、eLNAさんか?

……ヤバい、バレた…
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