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第10章 第5話 ストリートの戦い 現実の暗雲
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『テロ発生、応援を要請します』
花江はすぐに、自分一人で対処できる様な事態ではないと判断した。先程送ったメッセージで、戦力になりそうな人員の追加を要請したのだ。
(早くして欲しいかな…このままじゃストリートがどんどん破壊されてしまう…)
花江が隠れている路地のすぐ近くの建物からも、爆発音が聞こえた。ストリートの惨状は酷い事になっているのだろう。
「うわっ!危なっ!」
瓦礫が飛んできたので、花江は素早く回避した。怪我はしなかったが、すぐ近くの建物も倒壊しそうだった。
(やばい…もう隠れる所ないじゃん)
倒壊に巻き込まれない様に走って逃げた花江だったが、その先にテロ組織の構成員がいた。花江は鍛えられた戦闘員を相手にまともに戦える様な能力は持っていない。
「やばいって!早く助けに来てー!」
銃声が響いたストリートで、吹っ飛んだのはテロ組織の構成員の方だった。驚いている花江に駆け寄って来たのは鼎だった。
「花江さん…だよね。大丈夫?」
「エンシャント財団は探偵を戦闘要員として送り込んだんスね…」
「他にも戦闘員は来てる」
「そうでスか…じゃあ私は帰りまスね…」
そう言った花江は、さっさとログアウトして姿を消してしまった。それと同時にログインしたエンシャント財団の戦闘要員が次々とストリートに現れた。
「あんた達はどれだけ戦えるの?」
「遠距離戦闘の訓練は受けています」
財団職員達はレーザーライフルとアーマーを装備していた。確かに、ある程度は戦力になりそうな兵装だった。
「取り敢えず瓦礫の影に隠れて様子を窺うよ」
「敵の頭目を探します」
財団職員が、センサーを使って敵の数をチェックする。その中でリーダーらしき人物を確認して、他の職員や鼎にも情報共有をした。
「この子は…ナガレ?」
「知ってるんですか?」
「前にもストリートでテロを起こした。かなり強いから注意して」
「了解しました」
財団職員は建物の陰に隠れながら、1人ずつテロ組織の構成員を射撃で倒した。敵側の情報網が整えられていないのか、散発的な反撃しか起きていない。
「油断しないでね」
「流石にあなたは冷静だね」
財団職員達に向かって投げつけられたのは手榴弾だった。鼎は素早く回避して、それがナガレによって投げられた物だと判断する。
「今回は桃香いないんだ。前よりは楽な戦いになるかな」
(え…もう分かったの?)
鼎は相手が情報を素早く把握した事に驚いていたが、それどころではない。財団職員達にも指示を出して、各個撃破する必要がある。
「この前は私が突出したせいで散々な目にあったから、みんなで相手してあげる!」
(マズイ…!)
テロ組織構成員による銃撃が始まり、財団職員が次々と倒れていく。鼎は襲い来る弾幕を、跳ねるように回避していた。
「いつまで持つかな~」
(あの弾幕に隙があれば…)
鼎は隙ができるのを待ったが、期待通りにはいかなかった。ナガレの指揮は適切で、テロ組織構成員の銃弾装填も早かった。
(流石…手強いな…)
建物の陰に隠れる鼎は、敵であるナガレの指揮能力に感心していた。感心してるばかりでは駄目だが、打開策が思い浮かばない。
(いっそ向こうが自分から撤退してくれれば…)
鼎がそう思った矢先に、ナガレが部下にハンドサインで指示を出した。テロ組織の構成員が、少しずつ後退を始めている。
『追撃はしないで、職員は少しずつ後ろに退がる様に』
その指示に逆らう職員はおらず、撤退はスムーズに進んだ。鼎はナガレの方を見ながら、彼女の真意について考えた。
(本当の目的はストリートの破壊じゃない…?)
デバイスから着信音がして確認すると、メッセージを受信していた。送信主不明のメッセージだが、おそらくテロ組織のメッセージだろう。
『現実世界でも私達の動きをチェックした方がいいよ』
ナガレのメッセージは近くの財団職員達にも送られているみたいだった。財団職員だけでなく鼎も、メッセージの真意がどういう事なのか分からない。
(ログアウトして、秋亜さんに相談するか…)
テロ組織は撤退したが、鼎には引っかかるところがあった。おそらく秋亜も、違和感に気づいている事だろう。
ーー
『今回のテロ組織の現実での活動拠点…割り出すのは難しいでしょう』
「秋亜さん。アカウントが何処のエリアからログインしているか、割り出す事はできないかな?」
鼎はデバイスでリモート通話にして、エリア015の秋亜と話していた。秋亜もテロ組織からのメッセージを確認して、現実世界の拠点を探していた。
『アカウント情報を見つける事は出来ましたが、暗号化されています。今まで見た事がないほどに、難解な暗号になっていますわ』
「手掛かりなしか…というか20年くらい、犯罪はあってもテロや戦争は起きてないし…」
2000年代後半は戦争が繰り返されたが、それも終わり人類はやっと平和の尊さに気付いた。今のところは人類が一丸となって、平和を維持している。
「当分の間は、エリア015で発生した犯罪の情報をチェックしますわ」
『分かった。こっちも出来ることを探してみる』
通話が終わり、疲れていた鼎は目を閉じて休む事にした。色々気になる事はあるが、今は考える必要は無い。
(そう言えば、桃香は何処に出かけてるんだっけ…)
鼎は桃香が何処に出かけているのか、忘れていた。彼女はどうせ買い物だろうと思って、深く考えなかった。
ーー
桃香は図書館で、宇宙都市開発計画についての本を読み漁っていた。邪魔をされたくなかったので、デバイスの電源は切ってある。
(2105年に中止されている…)
この計画によって軌道エレベーターに作られた宇宙都市はいくつか存在していた。無作為に選ばれた住民は、半強制的に移住させられたらしい。
(軌道エレベーター自体、多くのエリアで撤去されてる筈だよね)
宇宙都市計画後も軌道エレベーターは使われていたが、太陽光発電の技術の進化と同時に次々と解体された。エリア003の巨大ソーラーパネルも、その技術の賜物だ。
(エリア014は…解体費用を捻出できなかったんだ)
保養地として有名なエリア045は、既に軌道エレベーターが解体されている。だが財源に乏しいエリアは、軌道エレベーターの解体費用を用意する余裕は無い。
(エリア014…シティOI…)
花江はすぐに、自分一人で対処できる様な事態ではないと判断した。先程送ったメッセージで、戦力になりそうな人員の追加を要請したのだ。
(早くして欲しいかな…このままじゃストリートがどんどん破壊されてしまう…)
花江が隠れている路地のすぐ近くの建物からも、爆発音が聞こえた。ストリートの惨状は酷い事になっているのだろう。
「うわっ!危なっ!」
瓦礫が飛んできたので、花江は素早く回避した。怪我はしなかったが、すぐ近くの建物も倒壊しそうだった。
(やばい…もう隠れる所ないじゃん)
倒壊に巻き込まれない様に走って逃げた花江だったが、その先にテロ組織の構成員がいた。花江は鍛えられた戦闘員を相手にまともに戦える様な能力は持っていない。
「やばいって!早く助けに来てー!」
銃声が響いたストリートで、吹っ飛んだのはテロ組織の構成員の方だった。驚いている花江に駆け寄って来たのは鼎だった。
「花江さん…だよね。大丈夫?」
「エンシャント財団は探偵を戦闘要員として送り込んだんスね…」
「他にも戦闘員は来てる」
「そうでスか…じゃあ私は帰りまスね…」
そう言った花江は、さっさとログアウトして姿を消してしまった。それと同時にログインしたエンシャント財団の戦闘要員が次々とストリートに現れた。
「あんた達はどれだけ戦えるの?」
「遠距離戦闘の訓練は受けています」
財団職員達はレーザーライフルとアーマーを装備していた。確かに、ある程度は戦力になりそうな兵装だった。
「取り敢えず瓦礫の影に隠れて様子を窺うよ」
「敵の頭目を探します」
財団職員が、センサーを使って敵の数をチェックする。その中でリーダーらしき人物を確認して、他の職員や鼎にも情報共有をした。
「この子は…ナガレ?」
「知ってるんですか?」
「前にもストリートでテロを起こした。かなり強いから注意して」
「了解しました」
財団職員は建物の陰に隠れながら、1人ずつテロ組織の構成員を射撃で倒した。敵側の情報網が整えられていないのか、散発的な反撃しか起きていない。
「油断しないでね」
「流石にあなたは冷静だね」
財団職員達に向かって投げつけられたのは手榴弾だった。鼎は素早く回避して、それがナガレによって投げられた物だと判断する。
「今回は桃香いないんだ。前よりは楽な戦いになるかな」
(え…もう分かったの?)
鼎は相手が情報を素早く把握した事に驚いていたが、それどころではない。財団職員達にも指示を出して、各個撃破する必要がある。
「この前は私が突出したせいで散々な目にあったから、みんなで相手してあげる!」
(マズイ…!)
テロ組織構成員による銃撃が始まり、財団職員が次々と倒れていく。鼎は襲い来る弾幕を、跳ねるように回避していた。
「いつまで持つかな~」
(あの弾幕に隙があれば…)
鼎は隙ができるのを待ったが、期待通りにはいかなかった。ナガレの指揮は適切で、テロ組織構成員の銃弾装填も早かった。
(流石…手強いな…)
建物の陰に隠れる鼎は、敵であるナガレの指揮能力に感心していた。感心してるばかりでは駄目だが、打開策が思い浮かばない。
(いっそ向こうが自分から撤退してくれれば…)
鼎がそう思った矢先に、ナガレが部下にハンドサインで指示を出した。テロ組織の構成員が、少しずつ後退を始めている。
『追撃はしないで、職員は少しずつ後ろに退がる様に』
その指示に逆らう職員はおらず、撤退はスムーズに進んだ。鼎はナガレの方を見ながら、彼女の真意について考えた。
(本当の目的はストリートの破壊じゃない…?)
デバイスから着信音がして確認すると、メッセージを受信していた。送信主不明のメッセージだが、おそらくテロ組織のメッセージだろう。
『現実世界でも私達の動きをチェックした方がいいよ』
ナガレのメッセージは近くの財団職員達にも送られているみたいだった。財団職員だけでなく鼎も、メッセージの真意がどういう事なのか分からない。
(ログアウトして、秋亜さんに相談するか…)
テロ組織は撤退したが、鼎には引っかかるところがあった。おそらく秋亜も、違和感に気づいている事だろう。
ーー
『今回のテロ組織の現実での活動拠点…割り出すのは難しいでしょう』
「秋亜さん。アカウントが何処のエリアからログインしているか、割り出す事はできないかな?」
鼎はデバイスでリモート通話にして、エリア015の秋亜と話していた。秋亜もテロ組織からのメッセージを確認して、現実世界の拠点を探していた。
『アカウント情報を見つける事は出来ましたが、暗号化されています。今まで見た事がないほどに、難解な暗号になっていますわ』
「手掛かりなしか…というか20年くらい、犯罪はあってもテロや戦争は起きてないし…」
2000年代後半は戦争が繰り返されたが、それも終わり人類はやっと平和の尊さに気付いた。今のところは人類が一丸となって、平和を維持している。
「当分の間は、エリア015で発生した犯罪の情報をチェックしますわ」
『分かった。こっちも出来ることを探してみる』
通話が終わり、疲れていた鼎は目を閉じて休む事にした。色々気になる事はあるが、今は考える必要は無い。
(そう言えば、桃香は何処に出かけてるんだっけ…)
鼎は桃香が何処に出かけているのか、忘れていた。彼女はどうせ買い物だろうと思って、深く考えなかった。
ーー
桃香は図書館で、宇宙都市開発計画についての本を読み漁っていた。邪魔をされたくなかったので、デバイスの電源は切ってある。
(2105年に中止されている…)
この計画によって軌道エレベーターに作られた宇宙都市はいくつか存在していた。無作為に選ばれた住民は、半強制的に移住させられたらしい。
(軌道エレベーター自体、多くのエリアで撤去されてる筈だよね)
宇宙都市計画後も軌道エレベーターは使われていたが、太陽光発電の技術の進化と同時に次々と解体された。エリア003の巨大ソーラーパネルも、その技術の賜物だ。
(エリア014は…解体費用を捻出できなかったんだ)
保養地として有名なエリア045は、既に軌道エレベーターが解体されている。だが財源に乏しいエリアは、軌道エレベーターの解体費用を用意する余裕は無い。
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