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第9章 第2話 ユーザー達の帰還
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「本当にこのメンツで行くのか?大丈夫か?」
「うーん…他にこんな危険な事頼めそうな人は…」
悩んでいる桃香のデバイスから、メッセージの通知音が聞こえた。メッセージの送り主はlunar eclipse projectのNPCであるユームだった。
『ミクさんを助けるなら、私にも手伝わせてください』
迷った桃香はユーム側と通話状態にして、話す事にした。彼女の事は、あまり頼りにならないだろうと思っていた。
『もしもし…あの、私も手伝います』
「ユームちゃんに何ができる?気持ちだけで十分だよ」
そう言って断ろうとした桃香だったが、ハンターには考えがあった。彼は桃香に考えを伝えたが、彼女は渋い表情になった。
「駄目、危険すぎる」
「いい案だと思うけどな。こっちの統制が取れてないんじゃ、敵の油断を誘う方が良いだろ」
ハンターの言う事も正しいのは、ならず者達の様子を見れば分かる。今回の作戦については、手段を選んでいる場合ではなかった。
「分かったよ…上手いことやろう」
ーー
「そろそろ、エンシャント財団の職員が来ます」
「ああ…彼らは我々のエリアでも活動しているが…」
013政府のトップである于堂は、突然のエンシャント財団の訪問に不安を隠せていなかった。彼らの活動には既に許可を出していたので、いまさら何の用があるのか分からなかった。
「…入りたまえ」
「失礼します」
部屋に入って来たのは2m近い長身の濃いピンク色の髪の男で、厳つい顔だった。小心者の于堂は、自分よりも背が高い男を見ただけで怯えていた。
「エンシャント財団職員、ブライアンです」
「あ、ああそうですか…エンシャント財団の方が、何の用ですか?」
于堂は明らかにオドオドしながらブライアンに対して対応していた。ブライアンはそんな彼を冷たい目で見下ろしていた。
「単刀直入に言います。エリア013の犯罪組織の取り締まりを強化してください」
「そ、それは…急に言われても困りますというか…」
于堂の目は泳いでいて、動揺しているのは明らかだった。ブライアンは彼に対して、013の現状を淡々と述べた。
「013の犯罪組織が仮想現実で大規模な活動をしているせいで、目覚めていないユーザーが大勢います。社会問題になっているのもご存知ですね」
「そう言われても…連中の手がかりを、中々掴めないのです」
「それは違いますね。あなた方の利益になるから、摘発できないのでしょう」
「そっそれは、言いがかりだ!」
于堂は急に大声を出して反論したが、ブライアンは動じない。013の政府が犯罪組織に逆らえない事も把握済みだった。
「このままではエリア013のイメージダウンは続く一方です」
「だっ…だが…どうする事も出来ません…我々も弱みを握られているんです…」
于堂な弱々しい返答をして、被害者アピールを始めた。だがブライアンは、彼に対して一切の同情が無かった。
ーー
ブラックエリアにある大規模なスラム、そこにはエリア013の犯罪者が集まっていた。彼らは皆、自分より弱い人間を踏みにじる事に何の躊躇もない人物だった。
(ん…?何だ、あのガキ)
見張りの視界に入ったのは、この場所には似合わないファンシーな服を着た少女だった。服に少し傷が付いていて、本人は不安そうに辺りを見回している。
「あの…助けてください…」
少女は弱々しい声で、見張りの男に助けを求めた。男は警戒して、彼女に対して持っていた小銃を向けた。
「何でこんな所に助けを求めに来たんだ?」
「変な男の人たちに…追われて…」
その少女は怯えた様子で、目の前の男を見ていた。どうやらここを目指していた訳ではなさそうだが…
「そいつらの特徴を言ってみろ。何かしら覚えてるだろ」
「アバターが傷だらけで…頭が欠けてる人もいました…」
アバターの体の一部が欠損しているユーザーは、ブラックエリアでは珍しくない。彼女は間違いなく、ブラックエリアで追われていたという事だ。
「ちょっと待ってろ…」
そう言って見張りは一度建物の中に戻って、仲間と相談した。見捨てるだけというのは勿体無い話に思えてきたのだ。
「本気であのガキを守ろうってのか?」
「ただ守るだけじゃねえよ。中々可愛い顔だから、いい値段で売れそうだろ?」
犯罪組織の男達は、誰も少女を本気で守る気などない。助けるフリをして捕まえて、商品として売るつもりなのだ。
「本気で…やるのか?」
「近所に仲間じゃない奴がいるのはマズイだろ」
彼らは少女を狙っている男達を始末する事に決めた。もちろんそれは少女を助けるためではなく、自分達の利益のためだった。
「じゃあ、君はここで待っていなさい」
男は出来るだけ優しい口調で、少女に隠れているように伝えた。それから男は仲間を連れて、彼女を狙っていた連中を探し始めた。
「欠損があるアバターなんて、この辺りにはいっぱいいるぞ」
「片っ端からぶん殴ってきゃ…」
そう言い終わる前に、男の1人は殴り飛ばされた。もう1人の男も驚く間もなく急所に強烈な一撃を叩き込まれる。
「不用心だな、コイツら」
「大きな組織でイキってた奴らだからね…合図があるまで、ゆっくり行くよ」
男達を倒したのは、犯罪組織の拠点を壊滅させに来たハンターと桃香である。桃香達は合図を待ち、ゆっくりと入り口に近づいていた。
ーー
「何だ!電気が消えたり点いたり?!」
「敵襲か!?いや…内部から?」
電気設備を真っ先に攻撃された拠点の中は、既にパニックになっていた。慌てて武装する者もいたが、手入れが行き届いていない銃ばかりだった。
(次はここ…!)
各所のコードをでたらめに引っ張って壊しているのは、ユームだった。彼女はブラックエリアに迷い込んだ少女のフリをして、この拠点に潜入したのだ。
ーー
「本当に出れた…」
「前にペルタちゃんが出たからね。同じ現象の再現をするのは簡単だよ」
lunar eclipse projectのNPCであるユームは、巴の手を借りて初めてゲームの外側に出た。彼女の目には高速で移動する乗り物など、多くの物が危険な物に見えた。
「本当に協力するの?今回はペルタちゃんじゃなくて、ミクちゃんの方だよ?」
「あの子が無事に元の世界に戻れる手伝いをしたいんです」
「分かった…危ない目にも遭うかもしれないからね」
「分かっています」
桃香は忠告したが、ユームの決意は既に固まっていた。ミクがNPCとしてゲームの中に取り込まれている事は、既に教えてもらっていた。
「じゃあ私はログアウトするから…本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。この程度なら何とかなるよ」
桃香は気楽そうに言って、ユームを連れて行った。巴はそんな彼女達の後ろ姿を、不安そうに見ていた…
ーー
「こんなに上手く行くもんなんだな…」
「思った以上に簡単だね~敵が油断しててくれて良かったよ」
桃香達も敵の拠点に乗り込んで、破壊活動を始めていた。反撃もあったが、混乱する基地の中ではその統制も取れていなかった。
「犯罪組織のアジト…このまま破壊していいんだよな」
「そうだけどちょっと待って、ユームちゃんと…ここのボスを回収しなきゃ」
物陰に隠れていたユームはすぐに見つかって保護された。ユームを無事を確認した桃香達は、拠点の奥へと向かった。
ーー
「君は賭場を経営している…」
「桃香っす~」
拠点を管理している強面の男に対して、桃香は気の抜けた返事をした。だが男は油断する事なく、桃香の方を見据えている。
「君1人で俺に勝つつもりか?だとしたら考えが甘すぎるな。アバターの体格差を見れば、俺の方が強いのは明らかだろう」
「アンタはボクを過大評価してるの?ボク1人でこんな事出来るわけないでしょ」
強面の男が何か言う前に、背後から桃香の仲間が一斉に襲いかかった。桃香はあっさり罠にかかった彼の事を本当に間抜けな奴だと思っていた。
「くそっ離せっ!」
「電気設備を壊したのは俺たちだ!」
複数の男に踏まれて、拠点のリーダーは動けなくなった。これでこの基地は壊滅させる事が出来たと言える。
ーー
縛られた犯罪組織の構成員達の横で、桃香はコンソールの操作を始めた。構成員は何かを喚こうとするが、口も塞がれているので意味が無い。
「ここで一部のユーザーに制限をかけて、ログアウト出来ないようにしていたのか~酷い事するね~」
それを聞いた彼らのリーダーが暴れ出して、床に倒れた。ハンターは面倒そうに、彼の口のテープを剥がした。
「桃香…お前は正義の味方気取りなのか?」
「そんなんじゃないよ。ただアンタ達と違って、ブラックエリアなりの流儀を持っているだけ」
桃香はモニターに表示されるデータをチェックしながら、アクセスを繰り返す。彼女が電算機を操作すると、次々と013のユーザーの制限が解除される。
「よせっやめろっ!」
「何企んでたのかは知らないけど…これでアンタらの計画もおしまいだね」
後は現実で動いているエンシャント財団に任せるだけだ。犯罪者であるユーザー達の身柄を引き渡す為に、鼎にメッセージを送る。
『私の役割はそれだけだったね…』
『大事な役割だよ。ボク達が行ったら違反がバレて、仮想現実から永久追放だからね』
鼎にメッセージを送った桃香は、ユームをゲーム内に帰しに向かった。彼女はエンシャント財団なら上手くやると思って、作戦の成功を確信していた。
ーー
ピピピピ…
(電話?!こんな時に…)
于堂は急に携帯電話の着信音が鳴って、驚いていた。彼が予想以上の小心者であると知ったブライアンは、心の中で呆れていた。
于堂は失礼と言ってから電話に出て、事の詳細を聞いた。彼の顔はどんどん青くなり、最終的には顔面蒼白になった。
「どういう…事だ…?」
「どの様な内容だったのか、お聞かせ願えますか?」
于堂の目は泳いでいて、明らかに追い詰められている男の表情になっていた。彼は必死に逃げ道を見つけようとしているが、もうどうにもならない。
「仮想現実で活動している犯罪組織が、壊滅しました…」
「それは良い事ですね。エリア013の犯罪組織が、一つ壊滅したのですから」
目の前の于堂が良い事だと思っていないのは、ブライアンもすぐに分かった。彼の利益と権力の源が、一つ失われてしまったのだ。
「お願いします…助けてください…」
「何を言っているのですか?お願いがあるのはこちらの方です」
于堂は権力を失う恐怖に怯えて、正常な判断能力を失っていた。ブライアンはそんな彼を少し哀れに思ったが、容赦しない。
「組織は壊滅しましたので、これで目覚めないユーザーの皆さんを解放できますね」
ブライアンは明るい調子で言うが、于堂は怯えきっていた。うんざりしてきたブライアンは、ゆっくりと彼を問い詰める事にした。
「ユーザーをログアウトさせない犯罪組織と協力して、どの様な利益を得ていたのです?」
「仕方ないでしょう…奴らの事をニュースにしない…それだけで金になるんですから…」
于堂は恐る恐る、小さな声でブライアンの質問に答え始めた。彼はまだ自分のことを、被害者だと信じているみたいだ。
「ですがもう良いですよね?これ以上ユーザーを昏睡状態にしていても、利益は生まれないのですから」
「私の事は秘密にしてください!私も、脅されていて…」
于堂は懇願したが、ブライアンは彼の言う事を聞く気などなかった。呆れ果てたブライアンは語気を強くして、彼を責め立てた。
「あなたは裁かれて当然です。013市民を犠牲にして…脅されたと言っていましたが、結果的にあなたは大きな利益を得ています!」
「ひっ…そっ、そんな…」
これ以上言っても、于堂という男は反省しないだろう。失礼しますと言って、ブライアンは去って行った。
ーー
「ミクさんは、現実で目覚めたんですか?」
「まだだけど…きっと大丈夫」
ユームは桃香に連れられて、lunar eclipse projectの月食エリアに戻る事が出来た。桃香は彼女が傷つく事態にならなくて、ホッとしていた。
「それじゃあおやすみ…よく寝れると良いね」
「桃香さんも、気をつけて帰ってくださいね」
ーー
「という訳で、この人達は違反行為というか犯罪行為を沢山してきたユーザーだから。ちゃんとした処分をお願い」
「分かりました。違反ユーザーとして取り締まります」
犯罪組織のメンバーは、鼎によって運営に引き渡された。一仕事終えた彼女は、近くの店で安いハンバーガーを食べていた。
(ここで食べても栄養にはならないんだけどね…)
仮想現実で食事を摂っても、肉体の栄養にはならない。栄養補給したつもりになって食事を抜くユーザーが多いのも、社会問題の一つだ。
(桃香はちゃんとユームを帰したのかな…)
ーー
「俺達の勝利だー!」
「うおおおお!」
ハンターは賭場で他のならず者達と一緒に盛り上がっていた。桃香は不味いブリトーを食べながら、その様子を見ていた。
(相変わらずだね…そろそろかな)
そう思った桃香は、最新ニュースをチェックした。彼女は、昏睡状態になっていたエリア013のユーザーが目覚めたというニュースに目を通した。
ーー
『ログアウト出来ない様に制限をかけていた犯罪組織は壊滅した。しばらくしたら貴方の姉も目覚めるはず』
花野汐音は巴から見たメッセージを読んで、急いで帰宅した。いつ目覚めるかは分からないが、側に居たいのだ。
(政府関係者も犯罪で利益を得ていたなんて…)
汐音は于堂が書類送検されたというニュースにも目を通していた。彼女は政治家も犯罪者の見方をしていた事を知って、憤りを感じていた。
(お願い…目を開けて)
汐音は静かに姉である美来の手を優しく握っていた。美来の手は人間の体温を取り戻して、優しく握り返した。
「あれ…汐音…もう朝…?」
「お姉ちゃん…よかった…よかった…!」
美来は現状を把握できていなかったが、意識はしっかりしていた。姉が目覚めた事を喜ぶ汐音の横にあるテレビの電源は点いていて、エリア013で昏睡していたユーザーが目を覚ましたニュースが報道されていた…
「うーん…他にこんな危険な事頼めそうな人は…」
悩んでいる桃香のデバイスから、メッセージの通知音が聞こえた。メッセージの送り主はlunar eclipse projectのNPCであるユームだった。
『ミクさんを助けるなら、私にも手伝わせてください』
迷った桃香はユーム側と通話状態にして、話す事にした。彼女の事は、あまり頼りにならないだろうと思っていた。
『もしもし…あの、私も手伝います』
「ユームちゃんに何ができる?気持ちだけで十分だよ」
そう言って断ろうとした桃香だったが、ハンターには考えがあった。彼は桃香に考えを伝えたが、彼女は渋い表情になった。
「駄目、危険すぎる」
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ハンターの言う事も正しいのは、ならず者達の様子を見れば分かる。今回の作戦については、手段を選んでいる場合ではなかった。
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「…入りたまえ」
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「エンシャント財団職員、ブライアンです」
「あ、ああそうですか…エンシャント財団の方が、何の用ですか?」
于堂は明らかにオドオドしながらブライアンに対して対応していた。ブライアンはそんな彼を冷たい目で見下ろしていた。
「単刀直入に言います。エリア013の犯罪組織の取り締まりを強化してください」
「そ、それは…急に言われても困りますというか…」
于堂の目は泳いでいて、動揺しているのは明らかだった。ブライアンは彼に対して、013の現状を淡々と述べた。
「013の犯罪組織が仮想現実で大規模な活動をしているせいで、目覚めていないユーザーが大勢います。社会問題になっているのもご存知ですね」
「そう言われても…連中の手がかりを、中々掴めないのです」
「それは違いますね。あなた方の利益になるから、摘発できないのでしょう」
「そっそれは、言いがかりだ!」
于堂は急に大声を出して反論したが、ブライアンは動じない。013の政府が犯罪組織に逆らえない事も把握済みだった。
「このままではエリア013のイメージダウンは続く一方です」
「だっ…だが…どうする事も出来ません…我々も弱みを握られているんです…」
于堂な弱々しい返答をして、被害者アピールを始めた。だがブライアンは、彼に対して一切の同情が無かった。
ーー
ブラックエリアにある大規模なスラム、そこにはエリア013の犯罪者が集まっていた。彼らは皆、自分より弱い人間を踏みにじる事に何の躊躇もない人物だった。
(ん…?何だ、あのガキ)
見張りの視界に入ったのは、この場所には似合わないファンシーな服を着た少女だった。服に少し傷が付いていて、本人は不安そうに辺りを見回している。
「あの…助けてください…」
少女は弱々しい声で、見張りの男に助けを求めた。男は警戒して、彼女に対して持っていた小銃を向けた。
「何でこんな所に助けを求めに来たんだ?」
「変な男の人たちに…追われて…」
その少女は怯えた様子で、目の前の男を見ていた。どうやらここを目指していた訳ではなさそうだが…
「そいつらの特徴を言ってみろ。何かしら覚えてるだろ」
「アバターが傷だらけで…頭が欠けてる人もいました…」
アバターの体の一部が欠損しているユーザーは、ブラックエリアでは珍しくない。彼女は間違いなく、ブラックエリアで追われていたという事だ。
「ちょっと待ってろ…」
そう言って見張りは一度建物の中に戻って、仲間と相談した。見捨てるだけというのは勿体無い話に思えてきたのだ。
「本気であのガキを守ろうってのか?」
「ただ守るだけじゃねえよ。中々可愛い顔だから、いい値段で売れそうだろ?」
犯罪組織の男達は、誰も少女を本気で守る気などない。助けるフリをして捕まえて、商品として売るつもりなのだ。
「本気で…やるのか?」
「近所に仲間じゃない奴がいるのはマズイだろ」
彼らは少女を狙っている男達を始末する事に決めた。もちろんそれは少女を助けるためではなく、自分達の利益のためだった。
「じゃあ、君はここで待っていなさい」
男は出来るだけ優しい口調で、少女に隠れているように伝えた。それから男は仲間を連れて、彼女を狙っていた連中を探し始めた。
「欠損があるアバターなんて、この辺りにはいっぱいいるぞ」
「片っ端からぶん殴ってきゃ…」
そう言い終わる前に、男の1人は殴り飛ばされた。もう1人の男も驚く間もなく急所に強烈な一撃を叩き込まれる。
「不用心だな、コイツら」
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ーー
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ーー
「本当に出れた…」
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「分かっています」
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ーー
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「そうだけどちょっと待って、ユームちゃんと…ここのボスを回収しなきゃ」
物陰に隠れていたユームはすぐに見つかって保護された。ユームを無事を確認した桃香達は、拠点の奥へと向かった。
ーー
「君は賭場を経営している…」
「桃香っす~」
拠点を管理している強面の男に対して、桃香は気の抜けた返事をした。だが男は油断する事なく、桃香の方を見据えている。
「君1人で俺に勝つつもりか?だとしたら考えが甘すぎるな。アバターの体格差を見れば、俺の方が強いのは明らかだろう」
「アンタはボクを過大評価してるの?ボク1人でこんな事出来るわけないでしょ」
強面の男が何か言う前に、背後から桃香の仲間が一斉に襲いかかった。桃香はあっさり罠にかかった彼の事を本当に間抜けな奴だと思っていた。
「くそっ離せっ!」
「電気設備を壊したのは俺たちだ!」
複数の男に踏まれて、拠点のリーダーは動けなくなった。これでこの基地は壊滅させる事が出来たと言える。
ーー
縛られた犯罪組織の構成員達の横で、桃香はコンソールの操作を始めた。構成員は何かを喚こうとするが、口も塞がれているので意味が無い。
「ここで一部のユーザーに制限をかけて、ログアウト出来ないようにしていたのか~酷い事するね~」
それを聞いた彼らのリーダーが暴れ出して、床に倒れた。ハンターは面倒そうに、彼の口のテープを剥がした。
「桃香…お前は正義の味方気取りなのか?」
「そんなんじゃないよ。ただアンタ達と違って、ブラックエリアなりの流儀を持っているだけ」
桃香はモニターに表示されるデータをチェックしながら、アクセスを繰り返す。彼女が電算機を操作すると、次々と013のユーザーの制限が解除される。
「よせっやめろっ!」
「何企んでたのかは知らないけど…これでアンタらの計画もおしまいだね」
後は現実で動いているエンシャント財団に任せるだけだ。犯罪者であるユーザー達の身柄を引き渡す為に、鼎にメッセージを送る。
『私の役割はそれだけだったね…』
『大事な役割だよ。ボク達が行ったら違反がバレて、仮想現実から永久追放だからね』
鼎にメッセージを送った桃香は、ユームをゲーム内に帰しに向かった。彼女はエンシャント財団なら上手くやると思って、作戦の成功を確信していた。
ーー
ピピピピ…
(電話?!こんな時に…)
于堂は急に携帯電話の着信音が鳴って、驚いていた。彼が予想以上の小心者であると知ったブライアンは、心の中で呆れていた。
于堂は失礼と言ってから電話に出て、事の詳細を聞いた。彼の顔はどんどん青くなり、最終的には顔面蒼白になった。
「どういう…事だ…?」
「どの様な内容だったのか、お聞かせ願えますか?」
于堂の目は泳いでいて、明らかに追い詰められている男の表情になっていた。彼は必死に逃げ道を見つけようとしているが、もうどうにもならない。
「仮想現実で活動している犯罪組織が、壊滅しました…」
「それは良い事ですね。エリア013の犯罪組織が、一つ壊滅したのですから」
目の前の于堂が良い事だと思っていないのは、ブライアンもすぐに分かった。彼の利益と権力の源が、一つ失われてしまったのだ。
「お願いします…助けてください…」
「何を言っているのですか?お願いがあるのはこちらの方です」
于堂は権力を失う恐怖に怯えて、正常な判断能力を失っていた。ブライアンはそんな彼を少し哀れに思ったが、容赦しない。
「組織は壊滅しましたので、これで目覚めないユーザーの皆さんを解放できますね」
ブライアンは明るい調子で言うが、于堂は怯えきっていた。うんざりしてきたブライアンは、ゆっくりと彼を問い詰める事にした。
「ユーザーをログアウトさせない犯罪組織と協力して、どの様な利益を得ていたのです?」
「仕方ないでしょう…奴らの事をニュースにしない…それだけで金になるんですから…」
于堂は恐る恐る、小さな声でブライアンの質問に答え始めた。彼はまだ自分のことを、被害者だと信じているみたいだ。
「ですがもう良いですよね?これ以上ユーザーを昏睡状態にしていても、利益は生まれないのですから」
「私の事は秘密にしてください!私も、脅されていて…」
于堂は懇願したが、ブライアンは彼の言う事を聞く気などなかった。呆れ果てたブライアンは語気を強くして、彼を責め立てた。
「あなたは裁かれて当然です。013市民を犠牲にして…脅されたと言っていましたが、結果的にあなたは大きな利益を得ています!」
「ひっ…そっ、そんな…」
これ以上言っても、于堂という男は反省しないだろう。失礼しますと言って、ブライアンは去って行った。
ーー
「ミクさんは、現実で目覚めたんですか?」
「まだだけど…きっと大丈夫」
ユームは桃香に連れられて、lunar eclipse projectの月食エリアに戻る事が出来た。桃香は彼女が傷つく事態にならなくて、ホッとしていた。
「それじゃあおやすみ…よく寝れると良いね」
「桃香さんも、気をつけて帰ってくださいね」
ーー
「という訳で、この人達は違反行為というか犯罪行為を沢山してきたユーザーだから。ちゃんとした処分をお願い」
「分かりました。違反ユーザーとして取り締まります」
犯罪組織のメンバーは、鼎によって運営に引き渡された。一仕事終えた彼女は、近くの店で安いハンバーガーを食べていた。
(ここで食べても栄養にはならないんだけどね…)
仮想現実で食事を摂っても、肉体の栄養にはならない。栄養補給したつもりになって食事を抜くユーザーが多いのも、社会問題の一つだ。
(桃香はちゃんとユームを帰したのかな…)
ーー
「俺達の勝利だー!」
「うおおおお!」
ハンターは賭場で他のならず者達と一緒に盛り上がっていた。桃香は不味いブリトーを食べながら、その様子を見ていた。
(相変わらずだね…そろそろかな)
そう思った桃香は、最新ニュースをチェックした。彼女は、昏睡状態になっていたエリア013のユーザーが目覚めたというニュースに目を通した。
ーー
『ログアウト出来ない様に制限をかけていた犯罪組織は壊滅した。しばらくしたら貴方の姉も目覚めるはず』
花野汐音は巴から見たメッセージを読んで、急いで帰宅した。いつ目覚めるかは分からないが、側に居たいのだ。
(政府関係者も犯罪で利益を得ていたなんて…)
汐音は于堂が書類送検されたというニュースにも目を通していた。彼女は政治家も犯罪者の見方をしていた事を知って、憤りを感じていた。
(お願い…目を開けて)
汐音は静かに姉である美来の手を優しく握っていた。美来の手は人間の体温を取り戻して、優しく握り返した。
「あれ…汐音…もう朝…?」
「お姉ちゃん…よかった…よかった…!」
美来は現状を把握できていなかったが、意識はしっかりしていた。姉が目覚めた事を喜ぶ汐音の横にあるテレビの電源は点いていて、エリア013で昏睡していたユーザーが目を覚ましたニュースが報道されていた…
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