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第6章 第6話 秋亜VSワウカ
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「だってあなた達が調査して結果を発表する事で、彼氏作りの妨げになるかもしれないじゃん」
「確かに発表した結果危険性があると判断されれば、このゲームを離れるユーザーも現れるでしょう」
ワウカはエンシャント財団に対して、明らかに不信感を抱いていた。秋亜は隠す事なく、調査によって発生する影響をワウカに伝える事にした。
「このゲームの開発者はどうでも良いけど、いい男が見つからなくなるのは駄目」
「交際相手を見つけるためなら…他のゲームでも良いと思うのですが…」
鼎から見ても、ワウカがこのゲームにこだわる理由が分からなかった。確かにユーザー数自体が少ないので、簡単にランキング上位に入る事ができるが…
「ランキング上位になれなくても、いい男は見つかると思うけど」
「ユーザーが多いゲームは、純粋に楽しんでる人から嫌がられる可能性があるから」
確かに男漁りがメインのプレイヤーがいたら、他のプレイヤーにとって目障りだろう。プレイヤー数が少なくても目立つとは思うが、嫌う人も少なくなる。
「あなたの協力を得られなくても、私達はこのゲームを調査しますわ」
「エンシャント財団が介入したら、ニュースになるじゃん…やめて」
ワウカは秋亜に対して、はっきりと拒絶の意思を示していた。秋亜は少し困ったといった表情を見せていたが、すぐに落ち着いた表情に戻った。
「あなたの意思を尊重する事は出来ません。ペルタさんや汐音さんの為にも、調査を行う必要があるのです!」
「分かった。あんたら手伝って」
「エンシャント財団をですか?」
「財団を月食エリアから追い出す為に私を手伝って!」
取り巻きの男達は困惑した様子を見せていて、すぐにワウカに駆け寄る事は無かった。秋亜も流石に実力行使を仕掛けられるのは予想していなかった。
「いや…ここギルドハウスですよ?」
「そもそもプレイヤー同士での戦いが推奨されてるゲームじゃないです」
ワーウルフズのメンバーはすぐにワウカに従わずに、落ち着いて反論していた。鼎や桃香は、ワウカの次の動きを警戒し始めていた。
「…そっちから仕掛けたら?全力で潰すから」
「ミッションをプレイするのは、後回しになると思いますが…」
「ミッション開始したらすぐに攻撃するから!」
「ワウカ…それは明らかにマナー違反だよ」
結局ワウカは取り巻きの男数名と一緒に、ギルドハウスを飛び出して行った。秋亜は呆気に取られた様子で、鼎と桃香は頭を抱えていた。
「秋亜さん…どうするんですか?」
「問題ありません。巴さんにも来ていただけたのは、ありがたいですわ」
面倒な状況になって来たので、巴は早く帰りたかった。だが鼎は、ワウカをどうにかするつもりらしいので放って置けない。
「桃香はどうするの?」
「元々ボクのギルドだからね。彼女がマナーを守らないなら、ギルドマスターの座を返上してもらうよ」
ワウカのギルドはかつては“アルティメット気持ち良すぎだろギャラクシー”という名前の、桃香のギルドだった。元ギルドマスターとして、ギルドを取り戻したくなったのだろう。
「分かった。私も引き続き協力するよ…」
ーー
財団による本格的な調査が始まったが、ミッションは後回しになった。結局桃香も、ギルドを取り返す為に協力する事になった。
「桃香さんは学生と聞いていましたが…」
「ブラックエリアの賭場のオーナーみたいな事もやってるよ」
秋亜は桃香がブラックエリアの関係者だと分かっても、あまり気にしていなかった。ペルタを助ける為には、どんな相手でも協力する必要があるのだ。
「今ここにいるのは…」
「手伝ったらミレイちゃんのライブのチケットくれるんですよね?」
「秋亜さーん、来ましたよ」
「運営への問い合わせは、私もやってみたよ」
少し前に来て手伝っているのは桃香とメル、今来たのは巴と鼎だった。運営に対しても切り込もうとしているが、色々と限度はある。
「秋亜さん、ワウカって子がミッション用のエリアで何かしてるのを見ました」
花江はアナザーアースにログインしてる最中、ずっと月食エリアを監視している。大変な仕事…ではあるのだが、花江は過労にならない様に上手く手を抜いている。
「こちらから手出ししなければ無害だと思いますが…」
「戦える人員は揃っていますわね」
「えっ、ワウカさん相手に戦うつもりスか?」
「ええ、相手が妨害を仕掛けて来るなら受けて立つまでですわ」
この場にいるメンバーは秋亜とメル、鼎と巴、そして花江だった。人数は揃っているが、このゲームを始めて日が浅い者ばかりだった。
「…桃香が来るまで待ちませんか?秋亜さんもこのゲーム始めたばっかだし…」
「とにかく敵を倒せば良いのでしょう?問題ありませんわ」
秋亜の性格なら、アクション要素が強いMMORPGにも物怖じせずに挑めるだろう。だが花江や巴は調査の為にプレイしているだけなので、戦える自信はなかった。
「向こうが戦いを挑む以上、エンシャント財団のトップとして受けて立つ必要がありますわ」
ーー
「…この不気味な樹海で、ワウカと取り巻きの連中が待ち構えてるみたいっス」
「いかにもという感じですわね。ここに行くには上級者向けミッションに挑めばいいのかしら?」
「はい。今の私達の戦力では、攻略は困難だと思います」
「今回はワウカに実力を示す戦い…早速ミッションを選択しましょう」
花江から詳細な情報を聞いた秋亜は、ミッションを選択し始めた。鼎と巴は横で見ていたが、かなり不安だと思っていた。
「大丈夫なの…?私も初心者だからね?」
「危なくなったら、私達だけ脱出しよう」
ーー
「何で私まで…」
樹海のエリアに来たのは秋亜とメル、鼎と巴、花江の5人だった。挑んだミッションは、明らかにこの5人ではクリア出来ない難易度のものだった。
「さあワウカさん、かかって来なさい」
「まだ見当たらないっス…」
秋亜は余程自信があるのか、意気揚々と樹海を歩いていた。花江は不安そうな表情をしながら、彼女の後を追っていた。
「いつモンスターに襲われるかも分からないし、武器は構えておいて」
「ここのモンスター強いんでしょ?そいつらと戦いながらワウカって子を相手にするの無理ゲーじゃない…?」
巴は一応斧を持って来ていたが、明らかに自信が無さそうだった。一方鼎は剣を構えていて、いつでも戦える体勢だった。
「こんなグローブで戦えるんですか…?」
「戦える。このゲームでのちゃんとした武器だから」
「でも私殴り合いなんて…うひゃあ?!」
「毒を吐いて来る花…私が刈り取る」
鼎はすぐに剣を振って花のモンスターを狩ろうとしたが、その前方から別のプレイヤーが飛び出して来た。対応できなかった鼎は、あっさり吹っ飛ばされてしまう。
「あっあんたは…」
「今吹っ飛んだの鼎?」
巴の目の前に現れたのは、黒と赤の禍々しいグローブを装備したワウカだった。それ以外の装備品も豪華で、ギルドハウスにいた時と比べて明らかに強そうな見た目だった。
「後は秋亜と…桃香はいないの?全員初心者?」
「ワウカちゃん、やっちゃいましょうよぉ!」
さらにワウカの後ろには、彼女の取り巻きの男達もいる。彼らの装備はまるで蛮族みたいなものだったが、性能は強化されている。
「鼎さんは…たった今吹っ飛ばされましたわね」
「秋亜さん、これ大ピンチっス」
秋亜は剣、花江は短剣を構えていたが、どちらも攻撃力が低い。経験の差も、ワウカの方が圧倒的に上回っていた。
「花江!取り巻きの連中の相手を頼みますわ!」
「ええっ?こんな小さい刃物で複数人を相手にするのはきついっス…」
剣を構えた秋亜は突進して、ワウカに斬りかかった。ワウカは後ろに跳んで迎撃体勢を取って、攻撃を受け止めた。
「攻撃範囲なら、こちらの方が有利なはず…!」
「有利な間合い、ちゃんと保てるの?」
前傾姿勢になったワウカは、そのまま両拳で突きを繰り出した。秋亜は剣で受け止めようとしたが、体勢を崩してしまう。
「すぐに防御に移る。経験不足だね」
「何ですって…きゃっ?!」
そのまま秋亜は、ワウカによる連撃をまともに受けてしまう。ゲームの中なので大した痛みは無いが、秋亜は状況を判断する前に大きなダメージを受けてしまった。
「ちょっと~!どうすればいいの~!」
メルは防御を固めるので精一杯で、攻勢に転じる事が出来なかった。巴と花江も似たような状況で、明らかに秋亜達が劣勢だった。
「こうなりそうだとは思ってたよ…秋亜さん、帰って良いですか?」
「巴さんは斧持ってるだけマシっス」
巴は斧を乱暴に振り回して、ワウカの取り巻きが近づかないようにするので必死だった。花江は彼女に守ってもらおうとするが、斧の攻撃に巻き込まれそうになる。
「鼎って人は何処まで吹っ飛ばされたんですかー!」
「ボクが助けたから心配ないよ!」
明らかに追い込まれていたメルを引っ張り出して救出したのは、月食エリアにやって来た桃香だった。ワウカはさほど驚いていなかったが、抱えられている鼎はかなり驚いている。
「ブラックエリアの方が忙しいって…」
「どうせこんな事になってるだろうと思って、ハンターに任せて来たよ」
ーー
「桃香のヤツ何処行ったんだよ!」
その頃賭場は、マナーの悪い客達が大暴れしている惨状が広がっていた。桃香に任されていたハンターだが、彼はひたすら客を殴り倒していた。
事態は好転しそうになかったが、ハンターが出来るのはマナーの悪い客を殴り飛ばす事だけだった。桃香が戻って来ない限り、この騒動が落ち着く事は無いだろう。
ーー
「取り敢えず桃香を集中的に狙って!倒したらデートしてあげるから!」
「うおおおお!」
士気が上がった取り巻きの男達が、次々と桃香に襲いかかる。だが桃香は展開したビットからビームを放ち、容赦なく薙ぎ払った。
「みんな本気でワウカの事好きじゃないんだね」
「あんたが強すぎる!」
取り巻きの男達を不甲斐ないと感じながら、ワウカは桃香に対して突撃した。近距離戦なら、格闘に特化した武器の方が有利だからだ。
「ワウカもだいぶ強いじゃん」
(この距離なら勝てる!)
距離を詰められた桃香は、連続の突きを両手で捌く。ブラックエリアで修羅場を乗り越えて培われた、歴戦の勘だった。
「全然ダメージが入らない…!」
「ただ殴り合うだけのターン製バトルじゃないからねこれ」
確かに武器の攻撃力は重要だが、アナザーアースで培われた戦闘技術はゲーム内でも役に立つ。相手が有利な距離でも、桃香は落ち着いて攻撃を捌けていた。
(だけどもうすぐ、攻撃力が高いワウカに逆転される。さてどうするか…)
桃香はどうやって勝利への糸口を得るか、悩みながら戦っていた。ワウカは彼女の動きが鈍り始めて出来た隙を見逃さない。
「そこ!」
桃香はワウカの突きを受けたが、彼女は冷静に受け身を取る。不用意にワウカが攻撃したおかげで、十分な距離を取る事が出来た。
「…しまった」
「もう遅いよ」
桃香がビットからビームを一斉に照射して、ワウカに直撃する。煙のせいで視界不良になっていたが、桃香は勝利を確信していた。
「あれっ…ワウカちゃん、やられた…?」
「そうだよ。もう戦う気ないかな?」
そう聞かれたワウカの取り巻き達は、焦った様子でミッションをリタイアした。その一部始終を見ていた秋亜は、桃香に対して感謝を伝えた。
「ありがとうございます。本当に助かりましたわ…」
「あっそ。鼎サンはこのまま連れてくよ…賭場放ってここに来ちゃったし」
「ちょっと、私も一緒に帰るよ…」
「あれ、私達置いてかれる感じっスか?」
桃香は鼎と巴を連れて、さっさとギルドハウスに戻って行った。樹海には秋亜と花江、そしてメルが取り残されていた。
「この樹海って強力なモンスターがいるんじゃ…」
ーー
ワーウルフズのギルドハウスに戻って来たのは、モンスターに倒された秋亜達だった。ゲームの中なので怪我はしていないが、彼女達は残念そうだった。
「ワウカさんは…」
「さっき月食エリアを出て行きました」
秋亜にそう伝えたのは、ワウカの取り巻きの男の1人だ。落ち着いているが、何処か淡々とした口調だった。
「僕達には、財団に協力してNPCの子達を助けてあげて欲しいって言っていました」
「そうですか…分かりましたわ」
取り巻きの男達に協力して欲しいと伝わっているので、ワウカは自身の敗北を認めたという事だ。秋亜の勝利という事になったが、ワウカが姿を消した事に不安を感じていた。
ーー
「ハンター、戻って来たよ…って、なんじゃこりゃあ!?」
「遅いぞ!この騒ぎを何とかしてくれ!」
賭場では客同士の乱闘が発生していて、既に大惨事になっていた。桃香はすぐに銃を持って乗り込んで、暴れている客を倒していく。
「あなた、この子を何処から連れて来たの?」
「そのガキはうちの景品だ!触るんじゃねえ!」
鼎が見つけたのは“抜け殻”ではない、ユーザーのデータが入った少女のアバターだった。この男は幼い少女を使って、人身売買を行おうとしていたらしい。
「桃香!コイツはアナザーアース運営に通報して捕まえてもらうから!」
「私はこの子をログアウトさせないと…」
「ちょっと!賭場の方も手伝ってよ!」
「桃香は俺一人に任せるな!」
鼎と巴は人身売買をしようとした男と捕まっていた少女を連れて、ストリートに戻って行った。後に残されたのは桃香とハンターと、賭場の客達だ。
「このままじゃ賭場が営業出来なくなるよ~!」
「確かに発表した結果危険性があると判断されれば、このゲームを離れるユーザーも現れるでしょう」
ワウカはエンシャント財団に対して、明らかに不信感を抱いていた。秋亜は隠す事なく、調査によって発生する影響をワウカに伝える事にした。
「このゲームの開発者はどうでも良いけど、いい男が見つからなくなるのは駄目」
「交際相手を見つけるためなら…他のゲームでも良いと思うのですが…」
鼎から見ても、ワウカがこのゲームにこだわる理由が分からなかった。確かにユーザー数自体が少ないので、簡単にランキング上位に入る事ができるが…
「ランキング上位になれなくても、いい男は見つかると思うけど」
「ユーザーが多いゲームは、純粋に楽しんでる人から嫌がられる可能性があるから」
確かに男漁りがメインのプレイヤーがいたら、他のプレイヤーにとって目障りだろう。プレイヤー数が少なくても目立つとは思うが、嫌う人も少なくなる。
「あなたの協力を得られなくても、私達はこのゲームを調査しますわ」
「エンシャント財団が介入したら、ニュースになるじゃん…やめて」
ワウカは秋亜に対して、はっきりと拒絶の意思を示していた。秋亜は少し困ったといった表情を見せていたが、すぐに落ち着いた表情に戻った。
「あなたの意思を尊重する事は出来ません。ペルタさんや汐音さんの為にも、調査を行う必要があるのです!」
「分かった。あんたら手伝って」
「エンシャント財団をですか?」
「財団を月食エリアから追い出す為に私を手伝って!」
取り巻きの男達は困惑した様子を見せていて、すぐにワウカに駆け寄る事は無かった。秋亜も流石に実力行使を仕掛けられるのは予想していなかった。
「いや…ここギルドハウスですよ?」
「そもそもプレイヤー同士での戦いが推奨されてるゲームじゃないです」
ワーウルフズのメンバーはすぐにワウカに従わずに、落ち着いて反論していた。鼎や桃香は、ワウカの次の動きを警戒し始めていた。
「…そっちから仕掛けたら?全力で潰すから」
「ミッションをプレイするのは、後回しになると思いますが…」
「ミッション開始したらすぐに攻撃するから!」
「ワウカ…それは明らかにマナー違反だよ」
結局ワウカは取り巻きの男数名と一緒に、ギルドハウスを飛び出して行った。秋亜は呆気に取られた様子で、鼎と桃香は頭を抱えていた。
「秋亜さん…どうするんですか?」
「問題ありません。巴さんにも来ていただけたのは、ありがたいですわ」
面倒な状況になって来たので、巴は早く帰りたかった。だが鼎は、ワウカをどうにかするつもりらしいので放って置けない。
「桃香はどうするの?」
「元々ボクのギルドだからね。彼女がマナーを守らないなら、ギルドマスターの座を返上してもらうよ」
ワウカのギルドはかつては“アルティメット気持ち良すぎだろギャラクシー”という名前の、桃香のギルドだった。元ギルドマスターとして、ギルドを取り戻したくなったのだろう。
「分かった。私も引き続き協力するよ…」
ーー
財団による本格的な調査が始まったが、ミッションは後回しになった。結局桃香も、ギルドを取り返す為に協力する事になった。
「桃香さんは学生と聞いていましたが…」
「ブラックエリアの賭場のオーナーみたいな事もやってるよ」
秋亜は桃香がブラックエリアの関係者だと分かっても、あまり気にしていなかった。ペルタを助ける為には、どんな相手でも協力する必要があるのだ。
「今ここにいるのは…」
「手伝ったらミレイちゃんのライブのチケットくれるんですよね?」
「秋亜さーん、来ましたよ」
「運営への問い合わせは、私もやってみたよ」
少し前に来て手伝っているのは桃香とメル、今来たのは巴と鼎だった。運営に対しても切り込もうとしているが、色々と限度はある。
「秋亜さん、ワウカって子がミッション用のエリアで何かしてるのを見ました」
花江はアナザーアースにログインしてる最中、ずっと月食エリアを監視している。大変な仕事…ではあるのだが、花江は過労にならない様に上手く手を抜いている。
「こちらから手出ししなければ無害だと思いますが…」
「戦える人員は揃っていますわね」
「えっ、ワウカさん相手に戦うつもりスか?」
「ええ、相手が妨害を仕掛けて来るなら受けて立つまでですわ」
この場にいるメンバーは秋亜とメル、鼎と巴、そして花江だった。人数は揃っているが、このゲームを始めて日が浅い者ばかりだった。
「…桃香が来るまで待ちませんか?秋亜さんもこのゲーム始めたばっかだし…」
「とにかく敵を倒せば良いのでしょう?問題ありませんわ」
秋亜の性格なら、アクション要素が強いMMORPGにも物怖じせずに挑めるだろう。だが花江や巴は調査の為にプレイしているだけなので、戦える自信はなかった。
「向こうが戦いを挑む以上、エンシャント財団のトップとして受けて立つ必要がありますわ」
ーー
「…この不気味な樹海で、ワウカと取り巻きの連中が待ち構えてるみたいっス」
「いかにもという感じですわね。ここに行くには上級者向けミッションに挑めばいいのかしら?」
「はい。今の私達の戦力では、攻略は困難だと思います」
「今回はワウカに実力を示す戦い…早速ミッションを選択しましょう」
花江から詳細な情報を聞いた秋亜は、ミッションを選択し始めた。鼎と巴は横で見ていたが、かなり不安だと思っていた。
「大丈夫なの…?私も初心者だからね?」
「危なくなったら、私達だけ脱出しよう」
ーー
「何で私まで…」
樹海のエリアに来たのは秋亜とメル、鼎と巴、花江の5人だった。挑んだミッションは、明らかにこの5人ではクリア出来ない難易度のものだった。
「さあワウカさん、かかって来なさい」
「まだ見当たらないっス…」
秋亜は余程自信があるのか、意気揚々と樹海を歩いていた。花江は不安そうな表情をしながら、彼女の後を追っていた。
「いつモンスターに襲われるかも分からないし、武器は構えておいて」
「ここのモンスター強いんでしょ?そいつらと戦いながらワウカって子を相手にするの無理ゲーじゃない…?」
巴は一応斧を持って来ていたが、明らかに自信が無さそうだった。一方鼎は剣を構えていて、いつでも戦える体勢だった。
「こんなグローブで戦えるんですか…?」
「戦える。このゲームでのちゃんとした武器だから」
「でも私殴り合いなんて…うひゃあ?!」
「毒を吐いて来る花…私が刈り取る」
鼎はすぐに剣を振って花のモンスターを狩ろうとしたが、その前方から別のプレイヤーが飛び出して来た。対応できなかった鼎は、あっさり吹っ飛ばされてしまう。
「あっあんたは…」
「今吹っ飛んだの鼎?」
巴の目の前に現れたのは、黒と赤の禍々しいグローブを装備したワウカだった。それ以外の装備品も豪華で、ギルドハウスにいた時と比べて明らかに強そうな見た目だった。
「後は秋亜と…桃香はいないの?全員初心者?」
「ワウカちゃん、やっちゃいましょうよぉ!」
さらにワウカの後ろには、彼女の取り巻きの男達もいる。彼らの装備はまるで蛮族みたいなものだったが、性能は強化されている。
「鼎さんは…たった今吹っ飛ばされましたわね」
「秋亜さん、これ大ピンチっス」
秋亜は剣、花江は短剣を構えていたが、どちらも攻撃力が低い。経験の差も、ワウカの方が圧倒的に上回っていた。
「花江!取り巻きの連中の相手を頼みますわ!」
「ええっ?こんな小さい刃物で複数人を相手にするのはきついっス…」
剣を構えた秋亜は突進して、ワウカに斬りかかった。ワウカは後ろに跳んで迎撃体勢を取って、攻撃を受け止めた。
「攻撃範囲なら、こちらの方が有利なはず…!」
「有利な間合い、ちゃんと保てるの?」
前傾姿勢になったワウカは、そのまま両拳で突きを繰り出した。秋亜は剣で受け止めようとしたが、体勢を崩してしまう。
「すぐに防御に移る。経験不足だね」
「何ですって…きゃっ?!」
そのまま秋亜は、ワウカによる連撃をまともに受けてしまう。ゲームの中なので大した痛みは無いが、秋亜は状況を判断する前に大きなダメージを受けてしまった。
「ちょっと~!どうすればいいの~!」
メルは防御を固めるので精一杯で、攻勢に転じる事が出来なかった。巴と花江も似たような状況で、明らかに秋亜達が劣勢だった。
「こうなりそうだとは思ってたよ…秋亜さん、帰って良いですか?」
「巴さんは斧持ってるだけマシっス」
巴は斧を乱暴に振り回して、ワウカの取り巻きが近づかないようにするので必死だった。花江は彼女に守ってもらおうとするが、斧の攻撃に巻き込まれそうになる。
「鼎って人は何処まで吹っ飛ばされたんですかー!」
「ボクが助けたから心配ないよ!」
明らかに追い込まれていたメルを引っ張り出して救出したのは、月食エリアにやって来た桃香だった。ワウカはさほど驚いていなかったが、抱えられている鼎はかなり驚いている。
「ブラックエリアの方が忙しいって…」
「どうせこんな事になってるだろうと思って、ハンターに任せて来たよ」
ーー
「桃香のヤツ何処行ったんだよ!」
その頃賭場は、マナーの悪い客達が大暴れしている惨状が広がっていた。桃香に任されていたハンターだが、彼はひたすら客を殴り倒していた。
事態は好転しそうになかったが、ハンターが出来るのはマナーの悪い客を殴り飛ばす事だけだった。桃香が戻って来ない限り、この騒動が落ち着く事は無いだろう。
ーー
「取り敢えず桃香を集中的に狙って!倒したらデートしてあげるから!」
「うおおおお!」
士気が上がった取り巻きの男達が、次々と桃香に襲いかかる。だが桃香は展開したビットからビームを放ち、容赦なく薙ぎ払った。
「みんな本気でワウカの事好きじゃないんだね」
「あんたが強すぎる!」
取り巻きの男達を不甲斐ないと感じながら、ワウカは桃香に対して突撃した。近距離戦なら、格闘に特化した武器の方が有利だからだ。
「ワウカもだいぶ強いじゃん」
(この距離なら勝てる!)
距離を詰められた桃香は、連続の突きを両手で捌く。ブラックエリアで修羅場を乗り越えて培われた、歴戦の勘だった。
「全然ダメージが入らない…!」
「ただ殴り合うだけのターン製バトルじゃないからねこれ」
確かに武器の攻撃力は重要だが、アナザーアースで培われた戦闘技術はゲーム内でも役に立つ。相手が有利な距離でも、桃香は落ち着いて攻撃を捌けていた。
(だけどもうすぐ、攻撃力が高いワウカに逆転される。さてどうするか…)
桃香はどうやって勝利への糸口を得るか、悩みながら戦っていた。ワウカは彼女の動きが鈍り始めて出来た隙を見逃さない。
「そこ!」
桃香はワウカの突きを受けたが、彼女は冷静に受け身を取る。不用意にワウカが攻撃したおかげで、十分な距離を取る事が出来た。
「…しまった」
「もう遅いよ」
桃香がビットからビームを一斉に照射して、ワウカに直撃する。煙のせいで視界不良になっていたが、桃香は勝利を確信していた。
「あれっ…ワウカちゃん、やられた…?」
「そうだよ。もう戦う気ないかな?」
そう聞かれたワウカの取り巻き達は、焦った様子でミッションをリタイアした。その一部始終を見ていた秋亜は、桃香に対して感謝を伝えた。
「ありがとうございます。本当に助かりましたわ…」
「あっそ。鼎サンはこのまま連れてくよ…賭場放ってここに来ちゃったし」
「ちょっと、私も一緒に帰るよ…」
「あれ、私達置いてかれる感じっスか?」
桃香は鼎と巴を連れて、さっさとギルドハウスに戻って行った。樹海には秋亜と花江、そしてメルが取り残されていた。
「この樹海って強力なモンスターがいるんじゃ…」
ーー
ワーウルフズのギルドハウスに戻って来たのは、モンスターに倒された秋亜達だった。ゲームの中なので怪我はしていないが、彼女達は残念そうだった。
「ワウカさんは…」
「さっき月食エリアを出て行きました」
秋亜にそう伝えたのは、ワウカの取り巻きの男の1人だ。落ち着いているが、何処か淡々とした口調だった。
「僕達には、財団に協力してNPCの子達を助けてあげて欲しいって言っていました」
「そうですか…分かりましたわ」
取り巻きの男達に協力して欲しいと伝わっているので、ワウカは自身の敗北を認めたという事だ。秋亜の勝利という事になったが、ワウカが姿を消した事に不安を感じていた。
ーー
「ハンター、戻って来たよ…って、なんじゃこりゃあ!?」
「遅いぞ!この騒ぎを何とかしてくれ!」
賭場では客同士の乱闘が発生していて、既に大惨事になっていた。桃香はすぐに銃を持って乗り込んで、暴れている客を倒していく。
「あなた、この子を何処から連れて来たの?」
「そのガキはうちの景品だ!触るんじゃねえ!」
鼎が見つけたのは“抜け殻”ではない、ユーザーのデータが入った少女のアバターだった。この男は幼い少女を使って、人身売買を行おうとしていたらしい。
「桃香!コイツはアナザーアース運営に通報して捕まえてもらうから!」
「私はこの子をログアウトさせないと…」
「ちょっと!賭場の方も手伝ってよ!」
「桃香は俺一人に任せるな!」
鼎と巴は人身売買をしようとした男と捕まっていた少女を連れて、ストリートに戻って行った。後に残されたのは桃香とハンターと、賭場の客達だ。
「このままじゃ賭場が営業出来なくなるよ~!」
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