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第6章 第5話 本調査の準備
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「エンシャント財団が動き始めたけど、私たちはどうすればいい?」
「焦っても成果は出ないよ。今回の件はすぐに終わるはずないから」
エンシャント財団が本格的に調査を開始して、鼎と桃香も巴に相談しに来ていた。焦っているのは鼎だけで巴は落ち着いていて、桃香は少し面倒そうにしていた。
「まだ鼎が出る番じゃないよ。またlunar eclipse projectやってたら?」
「あのゲームそんなに面白くない…桃香はどうする?」
退屈そうな桃香だったが、lunar eclipse projectという言葉を聞いた途端に嫌そうな表情になった。敢えて何も言わない鼎だったが、巴が地雷を踏み抜いた。
「ギルド追い出されたの?」
「ギルドマスターに戻りたいってメッセージ送っても、ワウカのやつ無視するんだ。こっちも忙しいし、あのゲームには飽きちゃったよ。ゲームならFPSだって色々あるし…」
桃香は別に、ペルタを救出する気をなくした訳では無い。それとは別で、lunar eclipse projectを当分やりたくないと思っているのだ。
「それもエンシャント財団に頼んでみたら?ワウカって子に連絡したら、ギルドマスターの座を返してもらえるかも」
「ブラックエリアで賭場を経営してる様な輩が、真っ当な財団に頼み事なんて出来ない」
「少しでも協力すれば、財団側からの印象も良くなる。どうも向こう側も人手が足りて無いらしいから…兎に角桃香もlunar eclipse projectをまたプレイして」
「分かったよ…」
調査の人手が足りていないという事を教えられた桃香は、渋々了承した。巴にとっても、財団の調査スピードが遅いことは気になるのだ。
ーー
「…戻って来ちゃったよ」
「取り敢えず財団のプレイヤーに会いに行こう」
月食エリアに到着した鼎と桃香は、現在はワウカのギルドになっているワーウルフズのギルドハウスへ向かった。かつてはアルティメット気持ち良すぎだろギャラクシーというギルド名だったのだが、ワウカによって変更された。
「それなりの規模のギルドだから、財団の人達も来てるかな」
「そこに前のギルドマスターであるボクが現れるのか…面倒な事になりそ~」
桃香は相変わらず苦い表情のままだったが、鼎は彼女を引っ張りながら歩いた。現状を打破するためには、桃香が他人任せにしては駄目だからだ。
「そう言えば巴サンは、ルナプロやってるんだっけ?」
「財団にプレイヤーとしてのデータを作ってもらったみたい」
巴はこのゲームにほとんど興味が無さそうだったが、財団に頼まれて仕方なくプレイヤーとして参加する事になった。彼女自身も早くペルタを救出したいと思っていたので、そんなに嫌では無いらしい。
「ギルドハウスが見えてきちゃった…鼎サン先入って」
「分かったよ…」
ーー
「うちのギルドこんなに人いたっけ?」
「なんだ…ワウカのやついないじゃん」
ワーウルフズのギルドハウスは、やたら人が多くて賑わっていた。桃香はワウカが居ないと分かった途端に、堂々とし始めた。
「あっ、巴も来てる」
「鼎と桃香も来たか…どうやら財団のプレイヤーが勝手にこのギルドハウスに人を集めてるらしくて…」
巴は本当に地味な服…モブキャラの様な服を着ていた。いつも研究室で着ている白衣では、ゲームの世界観的に浮くから仕方ないのだろうが。
「ミレイちゃん来ないのかよー!」
「あの子ログアウトしちゃったよ…」
以前とは違い、ギルドハウスがかなり騒がしい様子になっている。あちこちから不満の声が上がっているので、鼎は目立たずに動きながら原因を探る。
「ミレイが来るはずだったのに予定がキャンセルになって、プレイヤー達が荒れてるみたい」
「財団側のミスか…」
エンシャント財団は今までアイドルを売り出した事など無かった。そのせいで上手くスケジュールを組めずに、混乱が生じているのだ。
(あそこにいるのって…)
巴はギルドハウスの隅っこにいる秋亜を見て、素早くそちらへ向かった。明らかに縮こまっているので、このままにしては置けないと判断していた。
「秋亜さん」
「あら巴さん…あなたも来ていたのですね」
秋亜は巴が自分の側に現れて、かなり驚いている様子だった。そんな秋亜に構わず、巴はこの状況について聞き出す事にした。
「何でギルドハウスがこんな事になってるの?」
「ミレイが月食エリアでライブをすると宣伝したのですが…トラブルが重なってしまって…」
秋亜は普段の自信満々そうな態度では無く、とにかくこの場をやり過ごしたいという様子だった。巴は覇気を失った彼女に対して冷たい視線を向けていた。
「秋亜さんがやるべき事は、財団のトップとして謝罪する事です」
「それは…分かっていますわ…」
「早く謝らないと、財団に対する信用に悪影響を与えますよ」
「そうですわね…正式にライブ中止を発表します」
ーー
「みんなガッカリしてましたね」
「ミレイちゃん目当ての人も多かったのか…」
先程まで人が多すぎたギルドハウスだったが、情報が伝わったので居座っている人は減っていた。ギルドメンバー達も元のギルドハウスに戻って、ほっとしている様だ。
「エンシャント財団の威信が…」
「この程度のミスはどんな企業にもありますから…」
秋亜はギルドに集まっていた人々に誠心誠意謝罪をして、各媒体でも既に情報を公開した。情報公開が早かったので財団に対する批判は少なかったが、秋亜個人のショックは大きかった。
「やはりアイドルを売り出すというのは無理があったのでしょうか…」
「いえ!それはありません!」
突然そう言ったのは、ミレイ目当てで来たプレイヤーの1人だった。いきなり大声を出したので、秋亜はびっくりしてしまった。
「ええと…どちら様でしょうか?」
「私はメル!ミレイちゃんの大ファンです!」
堂々と自己紹介をするメルは、財団のメンバーに対して好印象を与えた。一方でワーウルフズのメンバーは、彼女に早く帰って欲しいと思っていた。
「ミレイちゃんのライブは出来るだけ見逃したくないんですよ~」
「そこまで応援してくださる方が既にいたとは…ありがとうございます」
秋亜はファンとして美玲を推しているメルに対して、感謝の意を示した。だが、財団が月食エリアを訪れた理由は別にある。
「秋亜さん、彼女にも協力を頼みましょう」
「協力…どんな話ですか?」
ーー
財団の職員である花江が、ギルドハウスにいたプレイヤー達にこのゲームのNPCの不審点を伝えた。多くのプレイヤーは信じていない素振りを見せていたが、秋亜は彼らに資料を見せた。
「この数値を見れば、明らかに感情を持っているNPCがいる事が分かると思いますわ」
「マジかよ…」
「情報提供してくださったアリスさんはこの場にはいませんが…このゲームが異質である事は、伝わったと思いますわ」
「NPCの素材は人間…って事になるのか?冗談キツいな…」
資料を見たプレイヤー達は納得すると同時に、困惑していた。多くのプレイヤーがこのままlunar eclipse projectを続けるべきか迷っている様だ。
「あの…私、ミレイちゃん目当てで始めたんですが…今の話は私には関係無いですよね?」
「もちろん、ペルタさんの捜索への協力は強要しませんわ」
一番驚いている様子を見せていたのは、メルだった。アイドル目当てで始めた自分は手を引くべきだと思ったらしい。
「ミレイちゃんは大丈夫なんですか?このゲームやってるだけで、危ない目に遭う可能性も…」
「プレイしているだけでユーザーに悪影響を与える要素は今の所確認されていませんわ」
秋亜は冷静に伝えていたがメルはこのゲームを続けるべきか、かなり迷っていた。だが秋亜は、メルにとって大きなメリットになる提案をした。
「もし協力してくだされば、優先してライブチケットを…」
「いやそれは…ファンクラブでもないのに他の方より有利になるのは気が引けるというか…」
「ミレイのライブを見れる可能性を上げるチャンスですわ」
「…やっぱりミレイちゃんのライブは見たい!協力します!」
メルが快諾したので、秋亜はほっとした表情になっていた。後は他のプレイヤーを説得する方法だが、それも既に手を回してあった。
「汐音さんというプレイヤーから、情報を得る事が出来ました。彼女の姉は現実で昏睡状態になっていて、このゲームのNPCにされている可能性が高いとの事です」
ワーウルフズのメンバーは、既に汐音本人から聞いている話だった。最初こそ信じていなかったが、彼女の姉の顔とNPCであるミクの顔が同じだから信じざるを得なかったのだ。
「今の話…本当なの?」
「俺たちは信じてるぞ」
まだ残っているプレイヤー達の中には、秋亜の話を怪しむ者も多かった。だが、どうやら冗談では無いと分かっている者の方が多数派だと察していた。
「分かった…私も協力する!」
「こんなクソゲー、潰れたっていいからな!」
生きた人間が被害者になっている可能性を理解した多くのプレイヤーが協力を申し出た。秋亜にとってはあっさり財団以外の協力者が増えた事が少し意外だったが、望み通りの展開でもあった。
ーー
「遅れてごめんね~ってあれ?人多くない?」
「ワウカちゃん、今エンシャント財団の人が来てるんだ」
他のプレイヤーがいる中、ギルドハウスにやって来たのはワーウルフズのギルドマスターであるワウカだった。彼女は人が多いギルドハウスに驚いて、辺りを見回している。
「エンシャント財団…エリア015の人達が一斉にこのゲーム始めたの?」
「そういう訳じゃなくて、財団の人達が調査しに来たみたいです」
そう言ってギルドメンバーが、エンシャント財団が説明した内容をワウカに伝える。汐音の姉の件については知っていたワウカは、大して驚く事もなく聞いていた。
「…何でそこにエンシャント財団が絡んでくるのか分からないんだけど」
「ペルタが誘拐された時に、鼎の友人である巴さんが協力を要請したらしいです」
ワウカはNPCがゲームの外に出た事に驚いて、面倒そうだと言って頭を抱えていた。少女が誘拐される事件が発生している時点で、関わりたくは無いだろう。
「多くのプレイヤーがペルタさんの救出に協力すると言っています。ワウカちゃんはどうするかな…」
ワーウルフズのメンバー達は、ギルドマスターであるワウカに注目していた。何か条件をつけるとしても、きっと彼女も協力するだろうと思っているのだ。
「私は協力しない。このゲーム始めた目的と関係無いし」
ワウカはギルドメンバー達の前で、エンシャント財団への協力を断った。少し驚いている者も多かったが、秋亜にとっては想定内だった。
(さて、どうしましょうか…)
「焦っても成果は出ないよ。今回の件はすぐに終わるはずないから」
エンシャント財団が本格的に調査を開始して、鼎と桃香も巴に相談しに来ていた。焦っているのは鼎だけで巴は落ち着いていて、桃香は少し面倒そうにしていた。
「まだ鼎が出る番じゃないよ。またlunar eclipse projectやってたら?」
「あのゲームそんなに面白くない…桃香はどうする?」
退屈そうな桃香だったが、lunar eclipse projectという言葉を聞いた途端に嫌そうな表情になった。敢えて何も言わない鼎だったが、巴が地雷を踏み抜いた。
「ギルド追い出されたの?」
「ギルドマスターに戻りたいってメッセージ送っても、ワウカのやつ無視するんだ。こっちも忙しいし、あのゲームには飽きちゃったよ。ゲームならFPSだって色々あるし…」
桃香は別に、ペルタを救出する気をなくした訳では無い。それとは別で、lunar eclipse projectを当分やりたくないと思っているのだ。
「それもエンシャント財団に頼んでみたら?ワウカって子に連絡したら、ギルドマスターの座を返してもらえるかも」
「ブラックエリアで賭場を経営してる様な輩が、真っ当な財団に頼み事なんて出来ない」
「少しでも協力すれば、財団側からの印象も良くなる。どうも向こう側も人手が足りて無いらしいから…兎に角桃香もlunar eclipse projectをまたプレイして」
「分かったよ…」
調査の人手が足りていないという事を教えられた桃香は、渋々了承した。巴にとっても、財団の調査スピードが遅いことは気になるのだ。
ーー
「…戻って来ちゃったよ」
「取り敢えず財団のプレイヤーに会いに行こう」
月食エリアに到着した鼎と桃香は、現在はワウカのギルドになっているワーウルフズのギルドハウスへ向かった。かつてはアルティメット気持ち良すぎだろギャラクシーというギルド名だったのだが、ワウカによって変更された。
「それなりの規模のギルドだから、財団の人達も来てるかな」
「そこに前のギルドマスターであるボクが現れるのか…面倒な事になりそ~」
桃香は相変わらず苦い表情のままだったが、鼎は彼女を引っ張りながら歩いた。現状を打破するためには、桃香が他人任せにしては駄目だからだ。
「そう言えば巴サンは、ルナプロやってるんだっけ?」
「財団にプレイヤーとしてのデータを作ってもらったみたい」
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「ギルドハウスが見えてきちゃった…鼎サン先入って」
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ーー
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「なんだ…ワウカのやついないじゃん」
ワーウルフズのギルドハウスは、やたら人が多くて賑わっていた。桃香はワウカが居ないと分かった途端に、堂々とし始めた。
「あっ、巴も来てる」
「鼎と桃香も来たか…どうやら財団のプレイヤーが勝手にこのギルドハウスに人を集めてるらしくて…」
巴は本当に地味な服…モブキャラの様な服を着ていた。いつも研究室で着ている白衣では、ゲームの世界観的に浮くから仕方ないのだろうが。
「ミレイちゃん来ないのかよー!」
「あの子ログアウトしちゃったよ…」
以前とは違い、ギルドハウスがかなり騒がしい様子になっている。あちこちから不満の声が上がっているので、鼎は目立たずに動きながら原因を探る。
「ミレイが来るはずだったのに予定がキャンセルになって、プレイヤー達が荒れてるみたい」
「財団側のミスか…」
エンシャント財団は今までアイドルを売り出した事など無かった。そのせいで上手くスケジュールを組めずに、混乱が生じているのだ。
(あそこにいるのって…)
巴はギルドハウスの隅っこにいる秋亜を見て、素早くそちらへ向かった。明らかに縮こまっているので、このままにしては置けないと判断していた。
「秋亜さん」
「あら巴さん…あなたも来ていたのですね」
秋亜は巴が自分の側に現れて、かなり驚いている様子だった。そんな秋亜に構わず、巴はこの状況について聞き出す事にした。
「何でギルドハウスがこんな事になってるの?」
「ミレイが月食エリアでライブをすると宣伝したのですが…トラブルが重なってしまって…」
秋亜は普段の自信満々そうな態度では無く、とにかくこの場をやり過ごしたいという様子だった。巴は覇気を失った彼女に対して冷たい視線を向けていた。
「秋亜さんがやるべき事は、財団のトップとして謝罪する事です」
「それは…分かっていますわ…」
「早く謝らないと、財団に対する信用に悪影響を与えますよ」
「そうですわね…正式にライブ中止を発表します」
ーー
「みんなガッカリしてましたね」
「ミレイちゃん目当ての人も多かったのか…」
先程まで人が多すぎたギルドハウスだったが、情報が伝わったので居座っている人は減っていた。ギルドメンバー達も元のギルドハウスに戻って、ほっとしている様だ。
「エンシャント財団の威信が…」
「この程度のミスはどんな企業にもありますから…」
秋亜はギルドに集まっていた人々に誠心誠意謝罪をして、各媒体でも既に情報を公開した。情報公開が早かったので財団に対する批判は少なかったが、秋亜個人のショックは大きかった。
「やはりアイドルを売り出すというのは無理があったのでしょうか…」
「いえ!それはありません!」
突然そう言ったのは、ミレイ目当てで来たプレイヤーの1人だった。いきなり大声を出したので、秋亜はびっくりしてしまった。
「ええと…どちら様でしょうか?」
「私はメル!ミレイちゃんの大ファンです!」
堂々と自己紹介をするメルは、財団のメンバーに対して好印象を与えた。一方でワーウルフズのメンバーは、彼女に早く帰って欲しいと思っていた。
「ミレイちゃんのライブは出来るだけ見逃したくないんですよ~」
「そこまで応援してくださる方が既にいたとは…ありがとうございます」
秋亜はファンとして美玲を推しているメルに対して、感謝の意を示した。だが、財団が月食エリアを訪れた理由は別にある。
「秋亜さん、彼女にも協力を頼みましょう」
「協力…どんな話ですか?」
ーー
財団の職員である花江が、ギルドハウスにいたプレイヤー達にこのゲームのNPCの不審点を伝えた。多くのプレイヤーは信じていない素振りを見せていたが、秋亜は彼らに資料を見せた。
「この数値を見れば、明らかに感情を持っているNPCがいる事が分かると思いますわ」
「マジかよ…」
「情報提供してくださったアリスさんはこの場にはいませんが…このゲームが異質である事は、伝わったと思いますわ」
「NPCの素材は人間…って事になるのか?冗談キツいな…」
資料を見たプレイヤー達は納得すると同時に、困惑していた。多くのプレイヤーがこのままlunar eclipse projectを続けるべきか迷っている様だ。
「あの…私、ミレイちゃん目当てで始めたんですが…今の話は私には関係無いですよね?」
「もちろん、ペルタさんの捜索への協力は強要しませんわ」
一番驚いている様子を見せていたのは、メルだった。アイドル目当てで始めた自分は手を引くべきだと思ったらしい。
「ミレイちゃんは大丈夫なんですか?このゲームやってるだけで、危ない目に遭う可能性も…」
「プレイしているだけでユーザーに悪影響を与える要素は今の所確認されていませんわ」
秋亜は冷静に伝えていたがメルはこのゲームを続けるべきか、かなり迷っていた。だが秋亜は、メルにとって大きなメリットになる提案をした。
「もし協力してくだされば、優先してライブチケットを…」
「いやそれは…ファンクラブでもないのに他の方より有利になるのは気が引けるというか…」
「ミレイのライブを見れる可能性を上げるチャンスですわ」
「…やっぱりミレイちゃんのライブは見たい!協力します!」
メルが快諾したので、秋亜はほっとした表情になっていた。後は他のプレイヤーを説得する方法だが、それも既に手を回してあった。
「汐音さんというプレイヤーから、情報を得る事が出来ました。彼女の姉は現実で昏睡状態になっていて、このゲームのNPCにされている可能性が高いとの事です」
ワーウルフズのメンバーは、既に汐音本人から聞いている話だった。最初こそ信じていなかったが、彼女の姉の顔とNPCであるミクの顔が同じだから信じざるを得なかったのだ。
「今の話…本当なの?」
「俺たちは信じてるぞ」
まだ残っているプレイヤー達の中には、秋亜の話を怪しむ者も多かった。だが、どうやら冗談では無いと分かっている者の方が多数派だと察していた。
「分かった…私も協力する!」
「こんなクソゲー、潰れたっていいからな!」
生きた人間が被害者になっている可能性を理解した多くのプレイヤーが協力を申し出た。秋亜にとってはあっさり財団以外の協力者が増えた事が少し意外だったが、望み通りの展開でもあった。
ーー
「遅れてごめんね~ってあれ?人多くない?」
「ワウカちゃん、今エンシャント財団の人が来てるんだ」
他のプレイヤーがいる中、ギルドハウスにやって来たのはワーウルフズのギルドマスターであるワウカだった。彼女は人が多いギルドハウスに驚いて、辺りを見回している。
「エンシャント財団…エリア015の人達が一斉にこのゲーム始めたの?」
「そういう訳じゃなくて、財団の人達が調査しに来たみたいです」
そう言ってギルドメンバーが、エンシャント財団が説明した内容をワウカに伝える。汐音の姉の件については知っていたワウカは、大して驚く事もなく聞いていた。
「…何でそこにエンシャント財団が絡んでくるのか分からないんだけど」
「ペルタが誘拐された時に、鼎の友人である巴さんが協力を要請したらしいです」
ワウカはNPCがゲームの外に出た事に驚いて、面倒そうだと言って頭を抱えていた。少女が誘拐される事件が発生している時点で、関わりたくは無いだろう。
「多くのプレイヤーがペルタさんの救出に協力すると言っています。ワウカちゃんはどうするかな…」
ワーウルフズのメンバー達は、ギルドマスターであるワウカに注目していた。何か条件をつけるとしても、きっと彼女も協力するだろうと思っているのだ。
「私は協力しない。このゲーム始めた目的と関係無いし」
ワウカはギルドメンバー達の前で、エンシャント財団への協力を断った。少し驚いている者も多かったが、秋亜にとっては想定内だった。
(さて、どうしましょうか…)
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