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第2章 第1話 現実にて
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「本当にありがとうございました…運営に何度も娘が目覚めなくなったと問い合わせても、何の対応もしてくれなくて…」
「私は…探偵として当然の仕事をしただけです」
鼎は数日前に救出した一橋朱音の両親から連絡を受けて、救出した事で感謝されていた。鼎としては当然の事をしただけだったが、感謝されるのは嬉しかった。
「その、お礼と言っても…お金しか出せませんが…」
「受け取りますよ。正直、いつだってカツカツですからね」
「そこは素直なんですね…」
「お金が無いと、生活していけませんから」
謝礼金は40000クレジットで、流石に依頼の報酬額と比べると少なかったが、十分すぎるほど貰うことができた。これだけ手に入れば、当分の間は食事の質が良いものになる。
「朱音が言っていた桃香と愛莉という子にも、お礼をしたいのですが…」
「私が連絡を取りますよ」
実のところ、愛莉とは連絡が取れなくなっていた。現実の水瀬愛莉の体は、以前の朱音と似たような状態になっていた。
ーー
「…俺は知らない」
「そうですか…」
鼎はまたアナザーアースにログインして、ストリートエリアにあるカフェで、愛莉の行方を知っている人間がいるか探していた。
ーー
「まぁ、アナザーアースの開発者に関わったのが原因だろうね」
「愛莉の捜索を手伝って欲しいの」
鼎はアカデミーブロックに赴いて、再び巴に協力して欲しいと頼んでいた。しかし巴は、これ以上ブラックエリアに関わりたく無いと思っていた。
「嫌だね…ブラックエリア関連の事件に関わり続けると碌な事が無い。私だって危険な目に遭うかも知れないし…愛莉の事は管理者ブロックに任せた方がいいと思うよ」
「管理者ブロックがまともに対応してくれるとは思えない」
「でしょうね。この前の桃香って子にまた頼れば?連絡先は教えてもらったんでしょ」
「…そうしてみる。彼女はブラックエリアに頻繁に出入りしているみたいだから、きっと頼りになるはず」
鼎は巴の助言を受けて、桃香に連絡を取ってみる事にした。以前、あまり関わり合うのは良くないと言ったが、メッセージに返信してくれるだろうか…
ーー
「…ダメ。何度やっても返信が来るどころか既読にすらならない」
「桃香も忙しいのかもね。裏社会で仕事してる子だから、何が起こるか分からないし」
連絡先のデバイスにメッセージを送っても、桃香が読む事は無かった。よほど忙しくて、デバイスに来たメッセージを読む暇も無いのかも知れない。
「もうしばらく、私1人で愛莉の行方を追う」
「ブラックエリアには踏み込まない方が良いよ」
「分かってる…現実世界でも手がかりを探す」
「悪くないね。アナザーアースでデータ化されてないものって意外とあるし…頑張ってね」
鼎が研究室から去って行った後、小柄な研究者の巴は、ファイアウォールの点検に戻った。アナザーアースのセキュリティの強化、研究が彼女の目的だからだ。
ーー
『鼎さんにも私が住んでるエリアの時計塔を見て欲しいです。もし012に来る機会があったら、是非うちにも寄ってください。パパとママも大喜びします』
朱音から届いたメッセージには写真が添付されていて、そこには012名物の巨大な時計塔と、仮装現実と変わらないピンク色の髪の朱音が写っていた。エリア012は観光名所もあり、比較的賑わっている土地だ。
『忙しいので当分の間は行けないけど、そのうち行きたいと思ってる。案内してくれたら嬉しいかな』
鼎はメッセージへの返信を済ませると、データセンターへと急いだ。大抵のエリアにあり、市民は自由にデータ検索をする事が可能である。
ーー
(緑が多いのは良い…騒がしく無いし)
鼎が住むエリア007は、緑地や公園が多い閑静な土地だった。他のエリアと比べて人口そのものが少なく、名所もないので観光目当てで訪れる者はほとんどいない。
(この山の神社…観光地としてアピールしようと思えばできそうだけどな)
エリア007にはジャパンと呼ばれた国の文化財があちこちに残されている。だが積極的に外部にアピールせずに、大切に保存している。
(まぁ、その方が周辺住民からしたらありがたいけどね)
そんな事を思いながら、鼎は007の田舎道を歩いていく。データセンターで、愛莉の行方の手がかりになりそうな情報を探すのだ。
ーー
水瀬愛莉は、治安があまり良くないと言われている、エリア013に住んでいた。頻繁に雨が降る高温多湿の地域で、住みにくいエリアとして不評だった。
(接続昏睡事件…その後を報じてるメディアは殆ど無い…)
アナザーアースにログインしたまま意識が帰って来なくなる昏睡事件は数件報告されているが、メディアはあまり報じない。エリア013での昏睡事件の報告は、他のエリアと比べて10件近く多い。
(…駄目ね。013の反社会的勢力と昏睡事件に関連性がある根拠は何一つ見つからない)
現実世界の反社会的勢力とアナザーアース内の事件の接点は、やはりそう簡単には見つからない。反社会的勢力の中にも昏睡状態に陥っている者がいるらしいという噂レベルの情報は見たが、今は重要では無い。
(やはりアナザーアース内で、013の事情に詳しい人に聞くしかないか)
その時、突然デバイスから着信音が鳴り、静かなデータセンターの一室に響いた。突然電話が来た事に驚きながらも、鼎は急いで迷惑にならない場所に向かった。
(番号…これは桃香の!)
鼎はすぐに電話に出た。
『いや~忙しい時期が続いてね~鼎サンは元気?』
「私は…探偵として当然の仕事をしただけです」
鼎は数日前に救出した一橋朱音の両親から連絡を受けて、救出した事で感謝されていた。鼎としては当然の事をしただけだったが、感謝されるのは嬉しかった。
「その、お礼と言っても…お金しか出せませんが…」
「受け取りますよ。正直、いつだってカツカツですからね」
「そこは素直なんですね…」
「お金が無いと、生活していけませんから」
謝礼金は40000クレジットで、流石に依頼の報酬額と比べると少なかったが、十分すぎるほど貰うことができた。これだけ手に入れば、当分の間は食事の質が良いものになる。
「朱音が言っていた桃香と愛莉という子にも、お礼をしたいのですが…」
「私が連絡を取りますよ」
実のところ、愛莉とは連絡が取れなくなっていた。現実の水瀬愛莉の体は、以前の朱音と似たような状態になっていた。
ーー
「…俺は知らない」
「そうですか…」
鼎はまたアナザーアースにログインして、ストリートエリアにあるカフェで、愛莉の行方を知っている人間がいるか探していた。
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「まぁ、アナザーアースの開発者に関わったのが原因だろうね」
「愛莉の捜索を手伝って欲しいの」
鼎はアカデミーブロックに赴いて、再び巴に協力して欲しいと頼んでいた。しかし巴は、これ以上ブラックエリアに関わりたく無いと思っていた。
「嫌だね…ブラックエリア関連の事件に関わり続けると碌な事が無い。私だって危険な目に遭うかも知れないし…愛莉の事は管理者ブロックに任せた方がいいと思うよ」
「管理者ブロックがまともに対応してくれるとは思えない」
「でしょうね。この前の桃香って子にまた頼れば?連絡先は教えてもらったんでしょ」
「…そうしてみる。彼女はブラックエリアに頻繁に出入りしているみたいだから、きっと頼りになるはず」
鼎は巴の助言を受けて、桃香に連絡を取ってみる事にした。以前、あまり関わり合うのは良くないと言ったが、メッセージに返信してくれるだろうか…
ーー
「…ダメ。何度やっても返信が来るどころか既読にすらならない」
「桃香も忙しいのかもね。裏社会で仕事してる子だから、何が起こるか分からないし」
連絡先のデバイスにメッセージを送っても、桃香が読む事は無かった。よほど忙しくて、デバイスに来たメッセージを読む暇も無いのかも知れない。
「もうしばらく、私1人で愛莉の行方を追う」
「ブラックエリアには踏み込まない方が良いよ」
「分かってる…現実世界でも手がかりを探す」
「悪くないね。アナザーアースでデータ化されてないものって意外とあるし…頑張ってね」
鼎が研究室から去って行った後、小柄な研究者の巴は、ファイアウォールの点検に戻った。アナザーアースのセキュリティの強化、研究が彼女の目的だからだ。
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『鼎さんにも私が住んでるエリアの時計塔を見て欲しいです。もし012に来る機会があったら、是非うちにも寄ってください。パパとママも大喜びします』
朱音から届いたメッセージには写真が添付されていて、そこには012名物の巨大な時計塔と、仮装現実と変わらないピンク色の髪の朱音が写っていた。エリア012は観光名所もあり、比較的賑わっている土地だ。
『忙しいので当分の間は行けないけど、そのうち行きたいと思ってる。案内してくれたら嬉しいかな』
鼎はメッセージへの返信を済ませると、データセンターへと急いだ。大抵のエリアにあり、市民は自由にデータ検索をする事が可能である。
ーー
(緑が多いのは良い…騒がしく無いし)
鼎が住むエリア007は、緑地や公園が多い閑静な土地だった。他のエリアと比べて人口そのものが少なく、名所もないので観光目当てで訪れる者はほとんどいない。
(この山の神社…観光地としてアピールしようと思えばできそうだけどな)
エリア007にはジャパンと呼ばれた国の文化財があちこちに残されている。だが積極的に外部にアピールせずに、大切に保存している。
(まぁ、その方が周辺住民からしたらありがたいけどね)
そんな事を思いながら、鼎は007の田舎道を歩いていく。データセンターで、愛莉の行方の手がかりになりそうな情報を探すのだ。
ーー
水瀬愛莉は、治安があまり良くないと言われている、エリア013に住んでいた。頻繁に雨が降る高温多湿の地域で、住みにくいエリアとして不評だった。
(接続昏睡事件…その後を報じてるメディアは殆ど無い…)
アナザーアースにログインしたまま意識が帰って来なくなる昏睡事件は数件報告されているが、メディアはあまり報じない。エリア013での昏睡事件の報告は、他のエリアと比べて10件近く多い。
(…駄目ね。013の反社会的勢力と昏睡事件に関連性がある根拠は何一つ見つからない)
現実世界の反社会的勢力とアナザーアース内の事件の接点は、やはりそう簡単には見つからない。反社会的勢力の中にも昏睡状態に陥っている者がいるらしいという噂レベルの情報は見たが、今は重要では無い。
(やはりアナザーアース内で、013の事情に詳しい人に聞くしかないか)
その時、突然デバイスから着信音が鳴り、静かなデータセンターの一室に響いた。突然電話が来た事に驚きながらも、鼎は急いで迷惑にならない場所に向かった。
(番号…これは桃香の!)
鼎はすぐに電話に出た。
『いや~忙しい時期が続いてね~鼎サンは元気?』
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