10 / 75
第2章 第1話 現実にて
しおりを挟む
「本当にありがとうございました…運営に何度も娘が目覚めなくなったと問い合わせても、何の対応もしてくれなくて…」
「私は…探偵として当然の仕事をしただけです」
鼎は数日前に救出した一橋朱音の両親から連絡を受けて、救出した事で感謝されていた。鼎としては当然の事をしただけだったが、感謝されるのは嬉しかった。
「その、お礼と言っても…お金しか出せませんが…」
「受け取りますよ。正直、いつだってカツカツですからね」
「そこは素直なんですね…」
「お金が無いと、生活していけませんから」
謝礼金は40000クレジットで、流石に依頼の報酬額と比べると少なかったが、十分すぎるほど貰うことができた。これだけ手に入れば、当分の間は食事の質が良いものになる。
「朱音が言っていた桃香と愛莉という子にも、お礼をしたいのですが…」
「私が連絡を取りますよ」
実のところ、愛莉とは連絡が取れなくなっていた。現実の水瀬愛莉の体は、以前の朱音と似たような状態になっていた。
ーー
「…俺は知らない」
「そうですか…」
鼎はまたアナザーアースにログインして、ストリートエリアにあるカフェで、愛莉の行方を知っている人間がいるか探していた。
ーー
「まぁ、アナザーアースの開発者に関わったのが原因だろうね」
「愛莉の捜索を手伝って欲しいの」
鼎はアカデミーブロックに赴いて、再び巴に協力して欲しいと頼んでいた。しかし巴は、これ以上ブラックエリアに関わりたく無いと思っていた。
「嫌だね…ブラックエリア関連の事件に関わり続けると碌な事が無い。私だって危険な目に遭うかも知れないし…愛莉の事は管理者ブロックに任せた方がいいと思うよ」
「管理者ブロックがまともに対応してくれるとは思えない」
「でしょうね。この前の桃香って子にまた頼れば?連絡先は教えてもらったんでしょ」
「…そうしてみる。彼女はブラックエリアに頻繁に出入りしているみたいだから、きっと頼りになるはず」
鼎は巴の助言を受けて、桃香に連絡を取ってみる事にした。以前、あまり関わり合うのは良くないと言ったが、メッセージに返信してくれるだろうか…
ーー
「…ダメ。何度やっても返信が来るどころか既読にすらならない」
「桃香も忙しいのかもね。裏社会で仕事してる子だから、何が起こるか分からないし」
連絡先のデバイスにメッセージを送っても、桃香が読む事は無かった。よほど忙しくて、デバイスに来たメッセージを読む暇も無いのかも知れない。
「もうしばらく、私1人で愛莉の行方を追う」
「ブラックエリアには踏み込まない方が良いよ」
「分かってる…現実世界でも手がかりを探す」
「悪くないね。アナザーアースでデータ化されてないものって意外とあるし…頑張ってね」
鼎が研究室から去って行った後、小柄な研究者の巴は、ファイアウォールの点検に戻った。アナザーアースのセキュリティの強化、研究が彼女の目的だからだ。
ーー
『鼎さんにも私が住んでるエリアの時計塔を見て欲しいです。もし012に来る機会があったら、是非うちにも寄ってください。パパとママも大喜びします』
朱音から届いたメッセージには写真が添付されていて、そこには012名物の巨大な時計塔と、仮装現実と変わらないピンク色の髪の朱音が写っていた。エリア012は観光名所もあり、比較的賑わっている土地だ。
『忙しいので当分の間は行けないけど、そのうち行きたいと思ってる。案内してくれたら嬉しいかな』
鼎はメッセージへの返信を済ませると、データセンターへと急いだ。大抵のエリアにあり、市民は自由にデータ検索をする事が可能である。
ーー
(緑が多いのは良い…騒がしく無いし)
鼎が住むエリア007は、緑地や公園が多い閑静な土地だった。他のエリアと比べて人口そのものが少なく、名所もないので観光目当てで訪れる者はほとんどいない。
(この山の神社…観光地としてアピールしようと思えばできそうだけどな)
エリア007にはジャパンと呼ばれた国の文化財があちこちに残されている。だが積極的に外部にアピールせずに、大切に保存している。
(まぁ、その方が周辺住民からしたらありがたいけどね)
そんな事を思いながら、鼎は007の田舎道を歩いていく。データセンターで、愛莉の行方の手がかりになりそうな情報を探すのだ。
ーー
水瀬愛莉は、治安があまり良くないと言われている、エリア013に住んでいた。頻繁に雨が降る高温多湿の地域で、住みにくいエリアとして不評だった。
(接続昏睡事件…その後を報じてるメディアは殆ど無い…)
アナザーアースにログインしたまま意識が帰って来なくなる昏睡事件は数件報告されているが、メディアはあまり報じない。エリア013での昏睡事件の報告は、他のエリアと比べて10件近く多い。
(…駄目ね。013の反社会的勢力と昏睡事件に関連性がある根拠は何一つ見つからない)
現実世界の反社会的勢力とアナザーアース内の事件の接点は、やはりそう簡単には見つからない。反社会的勢力の中にも昏睡状態に陥っている者がいるらしいという噂レベルの情報は見たが、今は重要では無い。
(やはりアナザーアース内で、013の事情に詳しい人に聞くしかないか)
その時、突然デバイスから着信音が鳴り、静かなデータセンターの一室に響いた。突然電話が来た事に驚きながらも、鼎は急いで迷惑にならない場所に向かった。
(番号…これは桃香の!)
鼎はすぐに電話に出た。
『いや~忙しい時期が続いてね~鼎サンは元気?』
「私は…探偵として当然の仕事をしただけです」
鼎は数日前に救出した一橋朱音の両親から連絡を受けて、救出した事で感謝されていた。鼎としては当然の事をしただけだったが、感謝されるのは嬉しかった。
「その、お礼と言っても…お金しか出せませんが…」
「受け取りますよ。正直、いつだってカツカツですからね」
「そこは素直なんですね…」
「お金が無いと、生活していけませんから」
謝礼金は40000クレジットで、流石に依頼の報酬額と比べると少なかったが、十分すぎるほど貰うことができた。これだけ手に入れば、当分の間は食事の質が良いものになる。
「朱音が言っていた桃香と愛莉という子にも、お礼をしたいのですが…」
「私が連絡を取りますよ」
実のところ、愛莉とは連絡が取れなくなっていた。現実の水瀬愛莉の体は、以前の朱音と似たような状態になっていた。
ーー
「…俺は知らない」
「そうですか…」
鼎はまたアナザーアースにログインして、ストリートエリアにあるカフェで、愛莉の行方を知っている人間がいるか探していた。
ーー
「まぁ、アナザーアースの開発者に関わったのが原因だろうね」
「愛莉の捜索を手伝って欲しいの」
鼎はアカデミーブロックに赴いて、再び巴に協力して欲しいと頼んでいた。しかし巴は、これ以上ブラックエリアに関わりたく無いと思っていた。
「嫌だね…ブラックエリア関連の事件に関わり続けると碌な事が無い。私だって危険な目に遭うかも知れないし…愛莉の事は管理者ブロックに任せた方がいいと思うよ」
「管理者ブロックがまともに対応してくれるとは思えない」
「でしょうね。この前の桃香って子にまた頼れば?連絡先は教えてもらったんでしょ」
「…そうしてみる。彼女はブラックエリアに頻繁に出入りしているみたいだから、きっと頼りになるはず」
鼎は巴の助言を受けて、桃香に連絡を取ってみる事にした。以前、あまり関わり合うのは良くないと言ったが、メッセージに返信してくれるだろうか…
ーー
「…ダメ。何度やっても返信が来るどころか既読にすらならない」
「桃香も忙しいのかもね。裏社会で仕事してる子だから、何が起こるか分からないし」
連絡先のデバイスにメッセージを送っても、桃香が読む事は無かった。よほど忙しくて、デバイスに来たメッセージを読む暇も無いのかも知れない。
「もうしばらく、私1人で愛莉の行方を追う」
「ブラックエリアには踏み込まない方が良いよ」
「分かってる…現実世界でも手がかりを探す」
「悪くないね。アナザーアースでデータ化されてないものって意外とあるし…頑張ってね」
鼎が研究室から去って行った後、小柄な研究者の巴は、ファイアウォールの点検に戻った。アナザーアースのセキュリティの強化、研究が彼女の目的だからだ。
ーー
『鼎さんにも私が住んでるエリアの時計塔を見て欲しいです。もし012に来る機会があったら、是非うちにも寄ってください。パパとママも大喜びします』
朱音から届いたメッセージには写真が添付されていて、そこには012名物の巨大な時計塔と、仮装現実と変わらないピンク色の髪の朱音が写っていた。エリア012は観光名所もあり、比較的賑わっている土地だ。
『忙しいので当分の間は行けないけど、そのうち行きたいと思ってる。案内してくれたら嬉しいかな』
鼎はメッセージへの返信を済ませると、データセンターへと急いだ。大抵のエリアにあり、市民は自由にデータ検索をする事が可能である。
ーー
(緑が多いのは良い…騒がしく無いし)
鼎が住むエリア007は、緑地や公園が多い閑静な土地だった。他のエリアと比べて人口そのものが少なく、名所もないので観光目当てで訪れる者はほとんどいない。
(この山の神社…観光地としてアピールしようと思えばできそうだけどな)
エリア007にはジャパンと呼ばれた国の文化財があちこちに残されている。だが積極的に外部にアピールせずに、大切に保存している。
(まぁ、その方が周辺住民からしたらありがたいけどね)
そんな事を思いながら、鼎は007の田舎道を歩いていく。データセンターで、愛莉の行方の手がかりになりそうな情報を探すのだ。
ーー
水瀬愛莉は、治安があまり良くないと言われている、エリア013に住んでいた。頻繁に雨が降る高温多湿の地域で、住みにくいエリアとして不評だった。
(接続昏睡事件…その後を報じてるメディアは殆ど無い…)
アナザーアースにログインしたまま意識が帰って来なくなる昏睡事件は数件報告されているが、メディアはあまり報じない。エリア013での昏睡事件の報告は、他のエリアと比べて10件近く多い。
(…駄目ね。013の反社会的勢力と昏睡事件に関連性がある根拠は何一つ見つからない)
現実世界の反社会的勢力とアナザーアース内の事件の接点は、やはりそう簡単には見つからない。反社会的勢力の中にも昏睡状態に陥っている者がいるらしいという噂レベルの情報は見たが、今は重要では無い。
(やはりアナザーアース内で、013の事情に詳しい人に聞くしかないか)
その時、突然デバイスから着信音が鳴り、静かなデータセンターの一室に響いた。突然電話が来た事に驚きながらも、鼎は急いで迷惑にならない場所に向かった。
(番号…これは桃香の!)
鼎はすぐに電話に出た。
『いや~忙しい時期が続いてね~鼎サンは元気?』
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる