海の覇王は人魚を愛す

槇村焔

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人魚の涙

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現統治者、そして当時大海賊だった、バハロの襲来。
それは、大国であり、他国とも友好的で近年は大きな争いもなかったルッテ・クラウンにとって突然やってきた悪夢としかいいようがなかった。
 

 バハロがこのルッテ・クラウンに降り立った日。
それはいつも穏やかに凪いでいる海が、まるでバハロの恐怖を教えてくれるかのように荒れていた嵐のひのことだった。
嵐は、もしかしたら、海の神がバハロを追い出そうと牽制してくれていたのかもしれない。
その日の嵐は、近年希にみるほどの豪雨であった。


 海は激しい豪雨によって、大きく波を打っていたしとてもじゃないけど、視界だって暗雲立ちこめていたせいで先が見えない。

普通の海賊船だったら、大破しそうな激しい嵐の中、バハロは黒い黒い大船にのり、仲間を率いてルッテ・クラウンに上陸した。

「海の加護の人魚…その宝を奪いにきた。ついでに、この大国、それもいただきにな」
船から下り、警備隊に囲まれたバハロの第一声がそれだった。



 海に囲まれた国、ルッテ・クラウンはなにも武力をもたない国というわけではない。

それどころか、大国で豊富な資源もとれるルッテは他国に比べたら、国は豊かなものであったし、軍資金だって充分にあったはずだ。

他国に対する侵略の危険性も考え、日々騎士団はじめ警備と訓練は怠らずに行ってきた。

元々、ルッテ・クラウンは剣が栄えている国でもある。
また海に囲まれた、他国との中間地点の国なので、海賊がよく悪さをしに上陸していたのだが、そんな海賊らを国の騎士たちはいつも物ともせず追い返していた。


バハロが襲来するまでは、強い騎士団は、この国の自慢であり、象徴でもあった。


 騎士団の鎧は大国で最高のものを使っていたし、騎士団長であり、剣技の天才フィグーの指導の元、一人一人の能力は高く、戦などがあっても犠牲は他国よりも少ないものであったし敗北も滅多になかった。
他国からすれば相手にするのが厄介であり、自国民からすれば国を恐怖から守ってくれる英雄でもある騎士団たち。


 この国では、男は一定の年齢を達すると騎士団に入る試験を受けられることになっている。
といっても、試験に受かるのは少数で、剣の実力者であることはもちろんのこと、頭脳もある程度なければ到底受かることはできないのだが。

この国で騎士団に入り、騎士となってこの国を守るのは、男の憧れであり、またとても名誉なことだった。


 シャルルは王子でありながら、バハロが来る前までは騎士団に所属していた。
腕の立つものが多い騎士団の中でも、シャルルの力量は他とは抜きんでており、若手の中では1、2を争うほどの腕前であった。

本当ならば、海の神の加護があるシャルルが、いつ命が落ちるかわからない国の騎士として戦うなどあってはならないことだったかもしれない。
もちろん、反対したものは沢山いた。

けれど、シャルルの二人の兄も同様に、一度は騎士団として所属していたし、なによりシャルル本人は、加護者だからといって、自身がお姫様のように守られるだけの存在の男でいたくないと反対意見を突っぱねたのもある。

ただ、守られるよりも、守りたい。
男として愛する国を、きちんと自分の手で守れるようになりたい。
強くなって、自国の民を守り、民が幸せに暮らせる国にしたい。

綺麗な中性的な見た目に反し、シャルルは非常に強く男らしい性格をしていた。
男であることを誇りに思っていたし、強い男に憧れていた。

華奢ではあるが、誰よりも強い騎士になりたい…と、そう夢見て毎日欠かさず厳しい訓練を誰よりも行っていたシャルル。

そんな強い男でありたかったシャルルに訪れた、バハロという不幸。


 バハロは騎士団が警備していた海をあっさり攻略し、簡単にこの地に上陸した。
嵐の日、ルッテ・クラウンにおりたったバハロの姿は、けして人の姿ではなかった、と生き残ったものは証言する。
何人がかりかで騎士団がきりつけても、バハロは血一つ流さなかったという。

国の英雄ともいえる騎士団を、バハロはあっという間に食い殺した。
それでも飽き足らず、力なき無抵抗の数人の民までも殺した。

殺戮の限りをした後、バハロはわずか数日で、シャルルの父から王位までも奪った。
城にいるもの、王の味方であるものを、片っ端から殺して。
残ったのは、海の加護を持つシャルルと、バハロ側についた数人の裏切り者だけであった。


人魚の涙を持つシャルルは、残忍なバハロにとって、自分のどす黒い欲をも解消できる、いい道具であったのかもしれない。

流した涙は、美しい真珠になる。
更に海の加護を持ったシャルルの力を自身のものにすることができれば、神をも太刀打ちできない力を手にすることができる。

それに、王子であった美しいシャルルが屈辱に唇を噛みしめ恥辱に震え被虐を耐えるその姿は、バハロのどす黒い加虐心を煽る。
 

 両親と弟を殺したバハロは、その動かぬ骸むくろを前に、シャルルの純潔を奪った。

生気のない、濁った瞳をした両親たちの目の前で。
やめろ…と抵抗するシャルルの意思を踏みにじるように。


数人の男に身体を支えられ、横たわるバハロのペニスを受け入れるよう、腰を押さえつけられて…

「はい…っ…て…。あ…ああ…やだ…いやだ…いやだ…いやだ…いやぁ…」
「…、いい声で啼く」
「ああっ…いや…いやぁ…」

窄まった花弁は鋭い凶器で荒らされていく。
泣いても、助けてくれるものなど、味方が残滅してしまった城にはいなかった。

自分の意思とは裏腹にズブズブとバハロの太いペニスが入っていくアナル。
逃げようと腰を浮かすも、バハロの取り巻きがそれを許すわけもなく。
シャルルが腰を浮かした瞬間に、肩を押して、より深い場所までペニスを受け入れさせる。

愛する親族の骸の前で、シャルルは悲しむまもなく、バハロに抱かれ女にされた。

その時床には、ぼろぼろと、真珠が零れており、それを見た取り巻きが嬉しそうに笑っていた。


強い男でありたいと願ったのに、男の性欲を満たすだけの女のような扱いをされている。
元々王子で、なおかつ真面目で少し潔癖症で、性に疎かったシャルルが、バハロの慰めものとして女として扱われた屈辱は一体、どれほどのものだっただろうか。

愛する家族も、将来ずっと側にいると誓った愛すべき年下の騎士も、シャルルの味方は一瞬にして、すべて奪われてしまった。

「ギル…バード…」

ーーシャルル、あんたは確かに強い。
でも、俺はあんたより強くなる。
あんたが…背中を預けられるくらい、俺は強くなるから…。だから…。

そう誓った、誰よりも心引かれていた騎士はもう、いない。
ずっと一緒にいると、守ってくれると誓ってくれたのに。

その日を境にシャルルの顔から、表情は消えた。
しかし、シャルルの味方がいなくなってしまった城内で、それをしるものは誰もいなかった。
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