鬼畜狼と蜂蜜ハニー

槇村焔

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2章

記憶×波乱

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引っ越し作業は柊と疾風の手伝いのおかげで、段ボールだらけだった部屋もようやくある程度終わりが見えるくらいに一段落ついた。
里桜は、駅まで二人を見送ったのだが、その帰り道で、いけ好かない男・宮根春彦と遭遇した。


「やぁ…、里桜くん…。奇遇だね」
「どうも…」
「ちょうど今、隼人先輩にあってきたんだよ。
鈴ちゃんも部屋にいたな。君も家にいた?気づかなかったよ」
「すみません、気づきませんで。俺の存在感がなかったんですかね」

顔を強ばらせながら言う里桜に、春彦はおや…、と眉をあげて、「僕って嫌われてる?」と問いかける。


「わかります…?」
「まぁ…態度でね…。
どうしてかな?なにか気に障る事でも…?」
「いえ…、なにも…なにも、ないです…」
「そう…」

春彦は、口角をあげて笑うと、里桜にまたね…と手を振ってわかれた。

(軽薄な男…って、それだけじゃないんだよな。俺があの人を苦手だと思う理由は。
なんで…どこかで…。ずっと昔にあったようなーー)

考えれば考えるほど、嫌な感情が胸を埋め尽くす。
まるで、思い出すなとでも言っているようにイヤな胸騒ぎがする。

(忘れよう…、疲れてるだけだ…)


里桜は自分にそう言い聞かせて、帰路を急いだ。




「は?」

 鈴は里桜の新しい部屋に来ていた。
 里桜の新しい部屋は疾風が使っていた部屋で、1階南側の日当たりの良い場所だ。
鈴には鈴の1人部屋が与えられているのにも関わらず、鈴は引っ越してからも里桜の側をべったりとくっついている。
里桜のブラコン加減も相当だが、鈴も鈴で兄離れできる日はまだまだ先になりそうだ。


「宮根春彦…さん、ここ最近隼人さんにあいにきてるのか?」
「うん…でね? なんか変なんだ」
「変?」

 鈴はソファのうえで、クッションを抱えこんでいるのだが、俯いておりちょっと落ち込んでいる様子である。

「なんかね…前にもおんなじ光景見たような気がしたんだけど…思い出せなくて。隼人さんと春ちゃんが一緒にいるともやもやしてて…」

思い出せない。
そう、なにか。何かを忘れている。
それが、何だったか…どうして忘れているのか…
里桜も思い出せない。


 これも、鈴と里桜の双子特有のシンクロなのだろうか。
鈴がもやもやとした感情になっているから、自分もこんなにもやもやするのか。

(なんだろうなぁ…これ…)
首を捻りながらも、もやもやの理由をはっきりと知りたくない自分もいて。
里桜は小さく首をふり
「…疲れたんだよ鈴。今夜こっちで寝る?」そう鈴をベッドに誘った。

「良いの?」
「ん」
「やったね」

 鈴が里桜に抱き付く。
それに、里桜まで心がほっとする。
安堵感。
鈴といると、ざわついていた心が少し落ち着くのだ。


「別々に寝るの、高熱出した時だけだから。
これから別々になっても平気にならなきゃな。鈴は慣れなきゃ駄目だぞ?」
「うん…今日だけ」

 ごろごろ、と猫のようにすり寄る鈴の様子に、里桜は苦笑し、鈴の髪を撫でた。


比較的眠りの早い鈴は悩み事でもなければ、すぐに夢の世界へといく。
里桜のベッドでゴロゴロして数分後。
鈴は気持ちよさそうに寝息を立てていた。


(…なにか、忘れている…)

なにか、なにかを忘れている。
〝大事〟ななにか。

そう、忘れてはいけない、〝なにか〟



 里桜の幼い頃の記憶は一部あやふやだ。
隼人との出会いは覚えている。
それから幼稚園の入学式の時も、小学生の時も。

 でも、一部。
そう、一部分だけ、もやがかかったように思い出せない記憶がある。



(なん…だっけ…?)

それは思い出すことさえも、忘れてしまった記憶。




『いい気味だと、思った…』
『人殺しに、幸せになる資格ある…』
『貴方なんていらないわよ!』



声がする。沢山の雑音。
沢山の黒い、声。
聞きたくない、声。


昔、そう、春彦に似た人が言っていた。


『君と僕とはもう会わない方がいいよ。

だって、僕らはただの代用品同志なんだから
あえばお互い惨めになるだろ。


だから…ね…』





ワスレヨウヨ。
ミジメダロ。


愛されてないのに、
愛されていると、
思いこむのは。
惨めなんだよ。


―ドウシテ、ハヤテサンガ、スキナノカ…。
ソレハ…。
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