鬼畜狼と蜂蜜ハニー

槇村焔

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2章

うさぎと猫と狼2匹

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「メンドクサイ~。」
「メンドクサイじゃない、ちゃんと手を動かす」
「む~」

桜と鈴は、学校から帰って早々、引っ越しのために部屋の整理をしていた。

幼い頃から住み慣れているこの部屋ともおさらば、と思うとなんとなくもの悲しい気持ちになる。
まるでこの部屋と一緒に家族から置いていかれそうな気持ちになって、必死に里桜は手を動かした。
 延々に終わらない作業に鈴はすっかり飽きてしまったようで、整理したばかりの漫画を段ボールから取り出し読み出している。



「無さそうで、荷物結構在るもんだね」

 マンガを読みながらしみじみ、と鈴は呟く。
里桜は鈴から無理矢理漫画を取り上げて、代わりにマジックを握らせた。

「ほら、ここに名前書いて鈴」
「え~」

不満の声をあげた鈴は、段ボールにウサギの顔を落書きしはじめる。

「真面目にやれよ」
「だって~もう厭きたよ~」
「おまえねぇ…」

なかなか鈴の末っ子体質は抜けない。

こんな鈴も、もうすぐ〝弟〟ができるというのに。
(ま、鈴なら好かれそうだけどね)

鈴、ならば母と新しくできた子供を喜び、兄としてすぐ接してあげられそうだ。
鈴の柔軟性は、里桜にはないものだった。

「よう、ちび達飯が届いたぞ?」

ノックもせずに、現れたのは疾風で。
スーツも着ていないその姿は、とてもラフなものだった。

「先生、天丼来た?」
「おう、来てる来てる」
「やった~~!」
歓声をあげて、鈴が階段を駆け下りる。

こんなに子供っぽくて、隼人の相手がつとまるのだろうか…と里桜が肩を落としたところで…

「…っ!」
むぎゅ、と背後から尻をもまれた。

「セクハラ教師…」
「…エッチしないの?なんて誘っていたくせに…」
「…誘ってなんかいません…」
「はいはい…っと」
尻を触っていた疾風の手が、簡単に離れた。

(最近、ほんと素直っていうか…、前は嫌がってもしていたのにな……。なんで最近変わっちゃったんだろ。もの珍しさから手を出しただけで飽きちゃったのかな)
そんな風に里桜が思っているなんて、つゆ知らず。
疾風は、鈴が落書きしていた段ボールに猫のイラストを書いていた。
鈴の可愛らしいウサギのイラストに、疾風の小学生が描いたような猫のイラストが並んでいる。
きらきらした瞳の鈴の兔とは対照的に、疾風のかいた猫のイラストは、糸目で、少し不細工だ。


「鈴と同レベル…、」
「ああ?俺の方が上手いだろうが…、」
「同じだし…。…まだ荷物沢山あるっていうのに…」

 里桜はお小言を言いながら、床に散らばった本を段ボールへ片付けていく。


「そうにゃあにゃあ怒るなって。
ほんと、里桜は猫みたいだよな…」
「猫…?」
「そうそう、里桜は、猫。
んで、鈴は…兔、か…」
「うさぎ…ねぇ…」

確かに、ぴょんぴょん、いつも元気に駆けまわる鈴はうさぎに似ているかもしれない。
しかし、自分が猫というのは…。



「なんで、俺が猫、なんですか」
「あ?素直じゃねェとこ」
「そうですか…」
「俺は猫好きだぜ?一番、な」
「そう、ですか…。
ああ、素直な猫がこのみっていってましたね」
「そう。俺は素直な猫を、ぐちゃぐちゃに甘やかすのが好きなの。俺のものになるなら、イヤってほど甘やかしてやる。
もし、手に入れたなら、絶対離してやらないし、甘やかせて甘やかせて、俺だけしか見れないようにする…。
俺だけしか、愛せない、俺だけに甘える従順な猫に…」

ふと、疾風は、里桜に目を映す。

「俺は、一度手に入れたら、絶対離さねぇよ…」
「…っ」

甘さを含んだ色っぽい声に、疾風の顔が見られなくなって。
里桜はふいっと、顔を逸らした

「鈴ってほんと、うさぎっぽいよね」
おもむろに話題を変えた里桜に、疾風は木にするっでもなく「ああ…そだな…」と肯定する。

「知っているか?うさぎって万年発情期なんだってよ…」
「は、はつじょうき…」
「ま、あながちはずれでもねぇけどよ…。あいつらほんと、気が付けば毎日毎日…」

疾風は、現在一人暮らしである。
しかし、たまたま実家に戻った日には、鈴と隼人がにゃんにゃん、いちゃいちゃしている場面に遭遇する場面が多い。
一応親たちには隠しているらしいが…ばれるのは時間の問題かもしれない。

「あいつら、そのうち青姦でもすんじゃねぇの…?つか、もうやっていたりして…」

僻みたっぷりに笑う疾風にたいし、初な里桜は顔を赤らめる。


「…先生じゃ、ないんだから…」
「あ?
俺じゃないってどういうことだ、コラ…」
「隼人さんは先生みたいに、ところ構わずやっちゃう狼じゃないって事!」
「あのなぁ…、あいつは腹黒で…」

里桜は…隼人に多大な幻想を抱いていた。
優しくて性欲なんてない、爽やかな王子様。
実際の隼人は…、疾風もびっくりするほど性欲旺盛で小さい頃から鈴をねらっていた訳なのだけれど。

「隼人さんは先生みたいに狼にはならないんだから」
「ふぅん…俺が狼、ねぇ…?誘ってんのか?」
「え…」
「狼は、今すっげぇ飢えているんだけど、なぁ…?」
疾風はそういって、里桜の細腰を抱き寄せて自分の胸にもたれさせる。

「せん…」
「なぁ、里桜。隼人だって、狼なんだぜ?それから、俺も。
好きな相手が前にいたら、我慢なんてそうそう出来るはずもない…
やりたくて、やりたくて、たまんねぇ…。すぐにでも、押し倒して、毎日にでもだきあいてぇ。少なくとも、俺は…」
「先生も…?」

俺は…、疾風がゆっくりと続きを口にしようと口を開ける。
しかし…、


「里桜?兄貴?ご飯のできたけど…、」
二人の様子を見に来た隼人により、疾風の言葉は消えた。がばっと疾風の腕から里桜は抜け出すと

「は、隼人さん…、い、今行きます…」
そういってそそくさと部屋から出ていった

(鈴といい…柊といい、今度は隼人か…)

どうして、こうもいいムードをいつも自分は崩されるのだ?
俺が一体、何をした…。
ついつい恨みがましく、疾風は隼人を睨んでしまう。

「なに、兄貴」
「別に…?
ただ、おまえってほんと顔で得しているよなっと思ってな」
「私よりモテていた人間がなにいってます?」

疾風は確かにモテている。
隼人が王子様、ならば疾風は全く系統が違う騎士様、だろうか。

ちょっと粗野っぽい、野性味あふれたイメージがあるのが疾風。
それに反し、上品で、優しくまるで王子様のイメージがあるのが隼人だ。


「いんや…たださ…、おまえのイメージなら、青姦とかそんなエロっぽい事しないだろうな…ってよ」
「はぁ…?青姦ですか…私が出来ないとお思いですか」
「いや、イメージないっていっただけで…」
「イメージ、ねぇ…」

隼人はふむ…と、考え込むと


「ま、鈴となら楽しそうですね…」

ふふふ、と一人楽しそうに妖しい笑みを浮かべる。


「おい…、まさか…お前ほんとにするんじゃ…」
疾風の問いに…隼人は答えず笑みを浮かべるだけだった。

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